膀胱炎と膀胱結石2

【症状】
 頻繁にトイレに行くが、オシッコがあまり出ない。尿色がピンクになった

illustration:奈路道程
 成犬なら朝夕二回の排尿でも大丈夫だが、発育途上で膀胱(ぼうこう)が小さく、未成熟な子犬は、日に何度もオシッコをする。
 しかし成熟した成犬でも、膀胱炎や膀胱結石など、膀胱内に何らかの異常、異変がおこれば、内壁を刺激されて、しばしば尿意をもよおし、オシッコをしようとする。でも、尿がたまるヒマもないから、わずかしかオシッコが出ない。それでも、すぐにオシッコをしたくなる。
 ペニス先端にある”コの字形“の骨が尿道をとり巻いているオス犬の場合、小さな膀胱結石が尿道でつまりやすく、そうなれば、尿道づまりになるおそれもある。
 膀胱炎で膀胱内壁に炎症がおこったり、膀胱結石で膀胱内壁を傷つけたりすれば、出血して血尿となり、オシッコがピンク色をしてくることもある。もっとも、膀胱内のわずかな出血では、血尿といっても、肉眼ではわからない。尿がピンク色になったら病気が進行していると考えて間違いはない。
 とにかく、愛犬がこのごろオシッコの回数が増えた、よくオシッコをしようとするのに、量が少ない、トイレシートがピンク色に染まることがある、あるいはオシッコの臭いが強くなった、などの症状に気づけば、膀胱炎や膀胱結石のおそれがあるので、すぐ動物病院で検診してもらうことが大切だ。

【原因とメカニズム】
 膀胱内での細菌感染が引き金になることが多い
   猫の場合、食べ物が原因で膀胱内に尿石がたまり、それが内壁を傷つけて膀胱炎を併発するケースが多いことはよく知られている。犬の場合、そのようなケースもあるが、とくに多いのが膀胱内での細菌感染によって、膀胱炎を発症することだ。
 細菌が異常繁殖すれば、炎症がひどくなるばかりではなく、尿成分中のアンモニウムが増え(そのために、オシッコの臭いが臭くなる)、膀胱内の尿がアルカリに傾き、尿石ができやすくなる。ひどいときは、わずか一カ月ほどで膀胱の大きさと変わらないほどの膀胱結石ができることもある。
 なぜ、犬には膀胱内での細菌感染が多いのか。残念ながら、はっきりとした原因は解明されていない。ただし、いくつかの推測はある。たとえば、メス犬は地面に陰部がふれる機会が多く、短い尿道をつたって細菌が膀胱内に侵入しやすいのでは…。メス犬が歳をとると、免疫力が低下し、また、膣内に尿がたまって膣炎をおこしやすく、そこから細菌が尿道内に侵入するのでは…。あるいは、オス犬はペニスが包茎で、先端部が不潔になり、細菌感染をおこしやすいためでは…。
 いずれにせよ、オス犬でもメス犬でも、からだの不調、病弱質、免疫力の低下などがかかわっていると言えるだろう。

【治療】
 膀胱炎なら薬剤で炎症をおさえ、細菌をやっつける。膀胱結石なら手術で除去
   細菌感染による膀胱炎の場合、適切な抗生剤によって細菌をやっつけ、抗炎症剤によって炎症をおさえる内科治療となる(膀胱結石なら、早く結石を除去して、膀胱炎の併発、悪化を防ぐことが大切)。愛犬が初めて膀胱炎にかかった場合、毎日、きちんと薬剤を飲ませつづければ、通常、一週間から十日、もしくは二週間ぐらいで治ることが多い。しかし、二、三日薬剤を飲ませて、症状が改善されたからと、以後、処方された薬剤を規定通りの量・規定通りの日数だけ飲ませないと、死滅せず、息をひそめていた細菌がまた復活して膀胱炎を再発しやすくなる。
 あるいは、かつて、何かの病気治療である種の抗生剤をたくさん投与されたことのある犬では、同じ抗生剤への耐性ができていたり、細菌自体がその抗生剤への耐性をもっていたりすれば、十分な効果はない。そのような再発と治療、また再発、という堂堂めぐりをくり返せば、膀胱炎が慢性化しやすくなる。
 そうなれば、厄介だ。細菌を培養して菌の種類を同定し、その細菌に有効な抗生剤を少なくとも一カ月前後投与して完治をめざさなければならない。慢性膀胱炎がひどくなれば、膀胱内壁がぶ厚くなり、内壁粘膜の下に細菌がひそんで生き延びやすくなる。また、もっとひどくなれば、膀胱が固くなって伸縮性が失われ、尿を内部にためることができず、オシッコがたれ流し状態になるおそれもある。

【予防】
 適切な健康管理と食生活管理、そして定期検診を
   膀胱内での細菌感染を予防する確かな方策はない。ただ、子犬のときから健康管理に気をつけて、からだの免疫力を高めること。
 膀胱結石を防ぐ一助として、適切な食生活管理で、尿石ができにくい体質づくりをすること。尿石のできやすい愛犬なら、pHコントロールのできる療法食に切り替えること。つねに愛犬がたっぷりと水を飲めるように心がけること。そして、あまりオシッコを我慢させないように注意することなどが大切だ。また、若いころから定期的に尿検査を受け、もし、どこかに異常があれば、すぐに治療、再発防止に努めて欲しい。

*この記事は、2002年10月20日発行のものです。

監修/麻布大学獣医学部 助教授 渡邊 俊文
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