薬剤、食べ物などで中毒を起こす
何が原因になり、どんな症状が出るのか
人用の薬剤や食べ物、農薬など、犬が中毒を起こす物は様々。
室内や戸外で、気づかないうちに愛犬が中毒物質を口にする場合もあるので、飼い主はいつも目を光らせて!

【症状】
嘔吐、下痢、血便、血尿、黄疸、発作など

イラスト
illustration:奈路道程

 愛犬に中毒を起こさせやすい物には、人用の薬剤や食べ物(ネギ類など)、洗剤や農薬、殺虫剤、殺鼠剤などがある。それらの中毒物質が体内に入ることで、色々な症状が現れてくる。
 中毒物質が胃の粘膜を傷め、嘔吐する。また、腸管に至れば下痢をすることもある。消化管の出血がひどい場合は、吐しゃ物や便に血が混じる(出血しているのが胃や小腸なら黒っぽい便になり、大腸なら赤い便となる)。出血がひどければ貧血を起こし、歯茎などが白くなってくる。
 中毒物質が腸管から吸収されてしまうと、血流に乗って肝臓や腎臓へ至り、様々な障害を引き起こす。それらによって、ぐったりしたり、黄疸や血尿が出たりもする。また、毒物によっては発作や昏睡状態となることもある。

【原因物質と治療法】
中毒物質をできるだけ早く体外に出す
   中毒物質をできるだけ早く体外に出すことが大事である。もし目の前で愛犬が中毒物質を口にしたところを見たら、すぐにかかりつけの動物病院へ連絡をする。報告するべきこととして大切なことは、いつ、何をどれくらいの量食べたのか、また、現時点でどのような様子なのか、である。受診する際は、食べ残した物(薬剤であれば添付文書も)や、可能であれば吐物を持参すると良い(もし、応急処置が可能であれば、獣医師の指示に従って実施すること)。
 初めに口にした量を把握しておくことで、嘔吐物や排せつ物から、どの程度排せつされ、どの程度吸収されたかを獣医師が判断でき、より的確な治療を行う手助けとなる。

人用の薬剤の場合
 中毒で目立つのは、愛犬がテーブルの上に置いていた風邪薬や頭痛薬、睡眠薬などの常備薬を誤飲するケースである。退屈しのぎに薬ビンで遊んでいてフタが開き、糖衣錠の甘さにひかれて大量に飲み込むことがある。
 風邪薬や頭痛薬を飲んでしまった場合は、解熱鎮痛剤成分が胃や腸の粘膜をただれさせる。また、吸収された後は肝臓へ負担をかけ、急性肝障害を起こす場合もある(猫の場合は致命的となることがあるため要注意)。睡眠薬を飲んでしまった場合は、意識がもうろうとしていることもある。
 発見が早く、速やかに受診できた時は、催吐剤(吐き気を促す薬)を飲ませてできるだけ吐かせる。腸管まで到達しているようであれば、下剤や浣腸を使ってできる限り排出させる(状況によっては、全身麻酔をかけて、胃洗浄や腸洗浄を行うケースもある)。
 留守中に誤飲したなど、摂取してから時間がたっていて、薬剤の成分が吸収されている可能性が高い場合は、浣腸などを行う他、点滴をして体内での薬剤成分の濃度を下げ、利尿剤を与えて、尿としてすばやく体外へ排せつさせる手助けを行う。

ネギ類やチョコレートなどの場合
 食べ物で問題を起こしやすいのが、ネギ、タマネギ、ニラ、ニンニクといったネギ類である。
 通常、生なら苦く、犬が好んで食べることは少ない。しかし、ハンバーグやカレー、ニラ玉などの料理に使われていると、調理の時に台所の床に落ちてしまったり、食事の時に食べこぼしたりした物を、犬が食べてしまうことがある。
 ネギ類が犬の体内で消化・吸収されると、赤血球が破壊され(溶血)、赤っぽい尿が出る。それに伴い貧血を起こし、体の細胞が酸素不足となり、ぐったりとする。また、腎臓への負担も大きく、急性腎不全となることもある(ネギ類の中毒は個体差が大きく、個体によってはほんのひとかけらのタマネギや、煮汁だけでもひどい中毒を起こすこともあるといわれている)。
 また、チョコレートをたくさん食べてしまった場合にも、中毒症状が見られることがある。カフェイン成分が交感神経を刺激して、興奮状態となる。ひどい場合にはひきつけを起こすこともある。
 さらに、飼い主の留守中にゴミ箱あさりをしてしまい、腐った残飯を食べて食中毒を起こすこともある。
 いずれにしても、薬の誤飲の場合と同様に速やかに処置を行い、食べてしまった物を体外へ出すことが大切だが、すでに吸収されている場合は、必要に応じて点滴などを行い、回復を待つことになる。

塩素系洗剤や農薬、消毒薬、殺虫剤、殺鼠剤などの場合
 体に付いてしまった塩素系洗剤や殺虫剤、農薬、消毒薬を犬がなめて取ろうとして中毒を起こすこともある。
 塩素系洗剤などは消化管の粘膜自体を荒らしてしまう。誤飲した場合でも、食道や口の中を荒らしてしまうため、決して吐かせてはならない。有機リン系の農薬は、中毒症状がひどい場合には昏睡状態になることがある。これらの薬剤は皮膚からも吸収されるため、発見したら、まず何度も水洗いをして体表から洗い落とすことが重要である(ゴム手袋を使用しないと人の手が荒れたり、人体にも吸収されたりする)。
 治療としては、農薬の成分によっては拮抗剤がある物もあるため、その場合は速やかに拮抗剤を投与する。その他の場合は、前述の中毒と同様に消化器を保護したり、点滴などで体の代謝を補助したりといった治療を行うこととなる。
 殺鼠剤の場合は、誤飲し、体内に吸収されると、鼻や口、内臓などから出血を起こし、貧血状態になる。出血の状況をよく調べて治療していかなければならない。


【予防】
愛犬の手(口)の届くところに“危ない”物を放置しない
 
 体に害のある物質を誤って食べたり飲んだりするのは、特に遊び盛りの子犬に多い。犬と暮らし始めたら、彼らの手(口)の届くところに、常備薬や食べ物、洗剤などを放置しておかないこと。また、子犬の時から、ドッグフード以外の(人の)食べ物を与えないこと。拾い食いをしないしつけが重要だが、一度味を覚えると、拾い食いやゴミ箱あさりをやめさせるのは難しい。
 特に、犬たちは退屈しのぎにいろんな物をかじったりすることも少なくない。一緒に過ごせる時間は、しっかり散歩や運動をしたり、遊んだりしてあげること。また、散歩や運動の時、きちんとリードをつけ、農薬や消毒薬などが散布されている可能性のある場所に立ち入らせないこと。帰宅後は、足洗いや体ふき、ブラッシングなどをしながらチェックしてあげること。
 とにかく、室内でも戸外でも、何か変な物を食べたな、急に様子がおかしくなったなと感じたら、すぐにかかりつけの動物病院に連絡し、相談してほしい。

*この記事は、2006年7月20日発行のものです。

監修/ネオ・ベッツVRセンター 獣医師 横山 由紀子


犬猫病気百科トップへ戻る
Copyright © 1997-2009 ETRE Inc. All Rights Reserved.
このサイトに掲載の記事・イラスト・写真など、すべてのコンテンツの複写・転載を禁じます。