慢性外耳炎
犬がしきりに後足で耳を掻きだしたら、要注意である。
慢性の外耳炎に苦しんでいることが少なくない。眼、鼻、耳など感覚器官を患えば、ほんとうに不愉快だ。
とくに聴覚にすぐれた犬が耳の病いになると、人間が眼をつむって生活するほどの不便がある。
監修/岸上獣医科病院 院長 岸上 正義

垂れ耳で脂体質の犬がかかりやすい外耳炎
イラスト
illustration:奈路道程
 犬の鼻の良さ、嗅覚の鋭さについては言うまでもないが、鼻に劣らずすぐれた働きをするのが耳である。たとえ昼寝をしていても、家の前を通りなれた人の足音や車のエンジン音は的確に聞き分けるし、草木1本が風にそよぐ音さえ聞き逃さない。たぶん、人間の立ち話、内緒話などは一言半句、いや溜息さえ聞き取っているに違いない。
 そんなにすぐれた犬の耳だが、自分で綿棒を使って手入れできない悲しさか、外耳炎に悩まされる場合が少なくない。病因には、カビや細菌、アレルギー、耳垢、ミミダニなどいろいろあるが、基本的に垂れ耳で脂体質の犬がとくにかかりやすい。温度も湿度も高く、おまけに脂分の多い耳垢にめぐまれていれば、まるで生物の培養実験室だ。ダニやカビ、細菌が増えるのも当然である。

ミミダニ退治はタマゴ駆除が大切
   ミミダニが寄生しているのなら、駆除しなければならない。虫メガネで見れば、モゾモゾと外耳道をはい回っているのが観察できる。動物病院で殺虫液を浸した綿棒で患部をふいてもらい、1匹残らず退治する。しかし成虫をやっつけただけでは、犬の耳の周辺に産みつけたタマゴからすぐに幼虫となり、成虫となって、耳の中はいつの間にかダニ天国となっている。根気よくブラッシングとシャンプーをして体からタマゴを一掃し、同時に犬舎や家の中をマメに掃除してダニ退治に励まなければいけない。
 多頭飼いなら、1頭の犬の耳から見つかれば、きっとほかの犬にも寄生しているに違いない。順番に治療とダニ退治をするだけならば、いつまでたってもダニ族を追放することはできないだろう。幸い、ミミダニは動物の耳の中でしか生息しない。毎日虫メガネを持って、明るいところで観察していれば、ダニ退治の成果を確認できるのではないか。

体質改善で耳の環境を守る
   犬の耳にカビや細菌が繁殖していれば、消毒して増殖を抑えるだけではどうしようもない。体質改善が第一である。とにかくカビや細菌は(もちろんミミダニも)、暗くて暖かくて、ジメジメしているところを好む。脂体質かどうかは犬種にもよるだろうが、ふだんの食生活で脂肪分の多い食餌やおやつばかり食べていると、なりやすい。おまけに室内犬なら冷暖房完備で、運動不足に加えて、住環境が良すぎて、体温調整のために余分なエネルギーを使うこともない。自然、脂分が体外にしみ出ることが多い。それに人間なら耳垢もドライタイプとウエットタイプがあるが、犬はウエットタイプなので、とくに垂れ耳型の犬の耳はジメジメ度が極端にひどくなる。
 空気中を浮遊するカビなどが移住するのを防ぐ方法は不可能だから、薬で抑えてもすぐにカビ天国、細菌天国になる。梅雨時や蒸し暑い季節は、とくに注意が必要である。

治りにくい外耳炎には外科手術
耳の穴(黒い小さな丸)が見えるくらい耳の一部分を切り取ると、慢性外耳炎はほとんど治る。耳の模型

手術前
手術前の犬

手術後

手術後の犬
 最後の手段は、外科治療。つまり耳の一部分を切り取って、外壁を取り除き、人間と同じように横から耳の穴が見えるようにする。その結果、耳の風通しが良くなり、カビや細菌、ミミダニの住めない環境ができる。例えて言えば、ユリの花の花弁を1枚取り除いた状態を想像してもらえばいい。いったん手術すれば、いままで何度も耳掃除や治療で動物病院通いを繰り返したのがウソのようにすっかり完治するケースが多い。耳を、たとえ一部分でも切り取るのなんてかわいそう、という飼い主なら、気長に外耳炎とつき合って耳の手入れから、食生活と住環境の改善に取り組んでいかねばならない。ひどくなれば3日や1週間に1度、病院通いをする犬もいる。じっくりと治療に取り組んであげなければならない。
 なお、外耳炎の病因として、最初にカビや細菌、アレルギー、耳垢、ミミダニなどいろいろあげたが、そのいくつかが重なっている場合が少なくない。犬に体質改善と生活改善が何よりも求められるといえる。

*この記事は、1997年3月15日発行のものです。

●岸上獣医科病院
 大阪市阿倍野区丸山通1-6-1
 Tel (06)661-5407
この病気に関しては、こちらもご覧ください


犬猫病気百科トップへ戻る
Copyright © 1997-2009 ETRE Inc. All Rights Reserved.
このサイトに掲載の記事・イラスト・写真など、すべてのコンテンツの複写・転載を禁じます。