外耳炎

【症状】
赤く腫れ、かゆくなる。耳垢がたまりやすくなり、異臭も漂う
イラスト
illustration:奈路道程
 カッ、カッ、カッ、と愛犬が耳の後ろをかくことがある。「ノミにでもかまれたのか」と気楽に考えていたら、耳の“外”ではなく、“内”に問題があることも少なくない。とにかく犬の病気で多いのが「外耳炎」である。
 「外耳」とは、集音器ともいえる耳介から外耳道、鼓膜までの部位を言う。鼓膜の奥が「中耳」で、鼓膜の振動を伝える空洞(鼓室)と耳小骨、そしてのどにつながる耳管がある。その奥にあるのが「内耳」で、音を受容する巻貝のような蝸牛、平衡感覚をつかさどる半規管や前庭などがある。普通、耳と言えば、立ち耳、垂れ耳などの外観ばかりに関心が集まるが、耳は、言うまでもなく聴覚や平衡感覚をつかさどり、脳に直結する重要な器官である。
 外耳は、体外に開口し、外環境にさらされているため、寄生虫や真菌、細菌などの感染性、あるいはアレルギー性などの皮膚炎、つまり「外耳炎」になりやすい。外耳炎になると、患部が赤く腫れ、かゆくなる。耳垢もたまりやすくなり、異臭も漂ってくる。犬は、かゆみ、不快感がひどくなり、常に後ろ足でカッ、カッ、カッ、とかくようになる。大抵は耳の後ろをかいているが、時には、後ろ足のつま先が耳の中に直接入りこみ、外耳の皮膚を傷つけ、皮膚炎がいっそうひどくなることもある。慢性化すれば、皮膚が厚くなり、時には外耳を取り巻く軟骨が変形し外耳道が狭くなったり、腫瘍の要因となったりする。また、炎症がひどくなり、鼓膜から中耳に広がったり(中耳炎)、さらに内耳にまで達したり(内耳炎)しかねない。そうなれば大変だ。

【耳の構造】

【原因とメカニズム】
寄生虫や真菌感染と免疫力の低下、栄養過多などの複合要因
   外耳炎の要因の一つは、「耳ヒゼンダニ」という寄生虫感染である。耳ヒゼンダニとは、通常、耳の中(外耳)にだけ寄生する、長さ0.2〜0.3ミリほどのダニだ。普通は、子犬の時に母犬から感染することが多いが、時には耳ヒゼンダニに感染した犬に接触して感染することもある。
 犬の体毛に付着した幼ダニや成ダニがモゾモゾと動いて、耳の中に到達して定住し、耳垢などを食べて繁殖する。親ダニは卵をどんどん産み、その卵から孵化した幼ダニが成長してさらに繁殖する。もちろん、外耳か“外”の生活環境中にまき散らされた卵から孵化した幼ダニも、犬の体に取り付いて繁殖地の外耳を目指す。高温多湿の環境を好むといえるが、垂れ耳、立ち耳に関係なく、どんな犬にも感染する。ただ、垂れ耳の犬の場合、どうしても飼い主の発見が遅れ、慢性化しやすい。
 外耳に寄生するのはダニ類ばかりではない。空気中に浮遊する、一般に「カビ」として知られる真菌や細菌が繁殖することも少なくない。そのなかで、マラセチアと呼ばれる酵母菌(真菌)が有名だ。このような真菌や細菌は普通の生活環境中にどこでも存在するが、通常、皮膚の自浄作用によって繁殖することはまれだ。ところが、何らかの原因で犬の免疫力、抵抗力が低下したり、すでに外耳炎の兆候があったり、脂っぽくベタベタした耳垢がたまりやすく(「脂漏症」)、真菌や細菌が繁殖しやすい環境が整っていたりすれば、これ幸いとマラセチアなどが外耳で繁殖することになる。
 いわゆるアレルギー性の外耳炎も、体に免疫力、抵抗力が低下していたり、何らかのアレルギー性物質に体が過剰反応したりして起きやすい。

【治療】
原因に合わせた投薬治療と生活改善
   外耳炎の治療で大切なのは、原因の特定である。耳ヒゼンダニなら、目の良い人であれば虫眼鏡で発見することも可能だ。もっとも、生息数が少なければ、犬の外耳道は“くの字”に曲がっているため、発見するのは難しい。耳を洗浄して、使用後の洗浄液中から見つかることも多い。たとえ発見できなくても、犬がかゆがれば、耳ヒゼンダニの感染と見なしてもいいかもしれない。
 耳ヒゼンダニなら、まず耳洗浄などで生息個数を減らし、その後ダニの駆除薬を少なくとも三週間ほど、一定間隔で投与していく。途中、皮膚炎の症状が良くなったからと、投薬を中止すると、外耳中や生活環境中に残る卵から孵化した幼ダニ、成ダニがまた寄生して再発する結果になりやすい。治療にかける飼い主の“熱意”“根気”が何よりも求められるといえるだろう。
 マラセチアなどの真菌性外耳炎の場合、抗真菌薬を投与する。これも、症状が改善されても安心しないこと。せめて一か月ぐらいは定期的に投与して根絶を目指すべきである。それと同時に、食生活の見直しや適度の運動などによって体質改善を行い、再感染を防ぐ努力が必要だ。
 アレルギー性の外耳炎の場合、かゆみを抑えて、犬がむやみに後ろ足でかいたりして皮膚を刺激することを避ける。また、食物性アレルギーが疑われるなら、低アレルギー性フードに切り替えるなど、根気よくアレルゲンとなる物質の摂取、接触を減らしていくことが大切だ。

【予防】早期発見と生活改善
   耳ヒゼンダニ感染の防止には、飼い始めの子犬期に動物病院でよく検査してもらい、早めに根絶を図ること。また、ケージやマット、毛布を熱湯消毒するなど、生活環境の改善を心掛けることも不可欠だ。
 耳ヒゼンダニやマラセチアなどの真菌が耳垢に巣食うからと、耳掃除ばかりしていても、皮膚を傷つけ、かえって皮膚炎を悪化させる。通常、元気で健康な犬には耳垢はほとんどたまらない。耳垢があれば不健康な状態と考えて、生活改善に取り組むことが治療、予防の第一歩である。
 なお、湿気のこもりやすい垂れ耳の犬には、室内で寝転んでいる時に垂れた耳を伸ばしてやったり、散歩の時、休息がてら、外気、日光に当てたりしてやるのもいいだろう。

*この記事は、2004年5月20日発行のものです。

監修/戸田動物病院 院長 戸田 州信
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