白内障
眼は愛情と健康の映し窓
眼は心の窓、という。もちろん動物にとっても同じことだ。外界を見るだけでなく、心の動き、感情を表すために不可欠なものが眼である。
いかに鼻のきく犬だって、眼が悪くなればこれほど不自由なことはない。
今回は眼の病、特に白内障について考える。
監修/姫路キロン動物病院 院長 朝倉 宗一郎

遺伝的素因、あるいは生育環境の変化で起こる
若年性白内障
イラスト
illustration:奈路道程
 最近、白内障を患う犬が増えている。正確にいえば、これまで見逃されがちだった症状が、人と犬が長く深くつき合う関係が一般化したために、犬の眼のわずかな濁りに気づく飼い主が多くなったためである。
 白内障は、眼の水晶体が灰白色に濁る病気で、ひどくなれば、失明する。早期発見、早期治療が大切である。
 白内障には大きく分けて3つある。その一つが先天性白内障で、遺伝的奇形といえるもの。胎生期に眼球が形成される段階で、水晶体がきれいに分化せず、濁ったままで生まれてくる。このタイプの白内障は狆(チン)やパグにしばしば見られる。ついでに言えば、人間の場合なら、妊娠期間中に母親が風疹にかかったり、妊娠末期にたびたびレントゲン撮影を受けたときに、胎児が白内障になりやすい。
 二つめは、若年性白内障で、生後6ヵ月から2歳半ぐらいまでに症状が現れる。これも遺伝的な素因があるが、そうでないものもかなりあるという。なかには、犬種によって、生育環境の変化によって若くして白内障にかかるものもある。多いのは、シベリアン・ハスキーの例だ。
 ハスキーは古来、幾世代にもわたって、永久凍土の覆う、寒さ厳しいシベリアの大地に暮らしてきた。緯度が高く、ことに冬季は日照時間が短く、厚い雪雲が空を覆うため、日光とは無縁の生活だ。そのうえ、食物はもともと、トナカイの肉を1日1固まり。粗食と重労働を基本とする犬種なのである。
 それが、紫外線にあふれ、夏季日中35℃を超える日本に暮らすと、体の機能が環境の変化についていけなくなる。栄養過多の食事と運動不足が体調の悪化を加速する。そんなわけで、眼の水晶体が代謝作用を狂わし、白内障になるケースが少なくない。

老年性白内障から愛犬を守るために
   三つめが、老年性白内障である(その他、急性白内障としては、糖尿病性白内障や中毒性白内障がある)。人間でいえば45歳、犬でいえば5歳を過ぎれば、肉体的に老年期に入る。眼や歯、肩、足、腰…。人により、犬によって、あちこち障害が目立ってくる。老化現象の一つが老年性白内障である。
 最初の症状は、水晶体の端にわずかの濁りが現れ、徐々に放射状に広がっていく。初期の場合は、専門医が検査しなければ発見できないほどだが、放っておくと、6ヵ月ぐらいで水晶体の濁りがひどくなる。この種の白内障は、プードル、シーズー、マルチーズなどに多発する。
 初期に発見できれば、手術の必要はない。点眼薬と内服薬を使えば、白内障の進展はかなり長期にわたって抑えることができる。早期発見、早期治療にまさるものはない。愛犬が5歳を過ぎれば、年に1,2度は定期検査を受けたほうがよいだろう。
 早期治療の機会を逃すと、白内障はどんどん進行する。水晶体がほとんど濁ってしまい、網膜や視神経が機能しなくなれば、手術をしても手遅れだ。せめて水晶体の濁りが3分の1か2分の1の段階で手術を受ければ、視力、視覚も回復する。
 野性動物なら、失明すれば、死を意味する。いかに家庭で飼われていても、年をとり、眼が見えなくなれば不自由である。飼い主と散歩しても、周りの状況がわからず、不安ばかりがつのる。かえってストレスを高めるようなものだ。そのうえ、大好きな飼い主の顔、姿、しぐさを見つめることができなければ、犬にとって寂しいかぎりだ。飼い主にとっても、眼が見えず、わずかの物音に驚き、右往左往する愛犬を見るのはつらいものである。

犬の眼のわずかな変化を見逃さないように
   よく犬は鼻がきき、ネコは眼がきく、という。しかし、荒野を駆けて獲物を追う大型犬などは、遠視傾向で、遠くの物がよく見える。人間生活に密着し、小型化し、愛玩化するにつれて、犬は視力、視覚をだんだん必要としなくなり、近視傾向が強くなった。いわば、人間社会への哀しい適応が、犬の弱視化を進めたのである。
 犬種によって、たとえばコッカースパニエルやシーズー、ペキニーズ、チンなど眼球が出ている犬は、眼病にかかりやすい。特に怖いのが緑内障である。その原因はまだわかっていないが、緑内障は眼圧が上がって発病する。眼の中は通常、一定量の水によって満たされている。その水の流れに異常をきたして眼の中の水量が増えると、眼圧が高くなり、眼が異様に腫(は)れ、赤くなり、大きくなっていく。そうなれば、水晶体の後ろにある視神経が圧迫されて壊死する。
 そのように眼は、鼻や歯、手足などと違い、精巧で柔らかく傷つきやすい器官である。おまけに起きてるときは休む間もなく働いている。体の変化、年齢の影響が最も現れやすいといえるだろう。
 飼い主は、日頃から、愛犬の気持ちを汲み取り、健康状態を確かめるために彼らの眼をやさしく見つめてあげてほしい。

*この記事は、1995年9月15日発行のものです。

●姫路キロン動物病院
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