白内障2

【症状】
 水晶体が白く濁り、ひどくなると失明する

illustration:奈路道程
 「眼が見える」とは、どういうことか。まず、まぶたが開き、角膜を通過した光(=見える物)は、虹彩(こうさい=瞳孔)で光量を調節され、次の水晶体(レンズ)で遠近の焦点を調整され、眼底の網膜上にくっきりした「像」を描く。その光の情報が電気信号に変換され、視神経によって脳に伝わり、脳内でその「像」を再現する。それが「見える」ということだ。
 眼球のなかで、光を通し、焦点を合わす「水晶体」が白く濁ってくる病気が「白内障」である。白濁が始まると、眼がかすみ、視覚がぼやけてくる。水晶体の白濁が進むと、ちょうど白雲に包まれたように、物が見えなくなっていく。
 人の場合なら、だんだんと新聞や本、テレビが見づらくなり、歩いたり、車を運転することもできなくなってくる。これは大変と、眼科に行き、検査を受け、白内障で手術が必要となれば、治療に専念する。しかし犬や猫などは、自分で飼い主に「このごろ、見えにくい」と訴えることはない。また、勝手知った自宅や散歩道なら、ぼんやり見える程度であれば、意外にスイスイと歩いたりする。飼い主が、「うちの子、最近、階段の上り下りが下手になった」「よく溝に落ちる」と、視力の低下を察知して、動物病院に連れてこられるまでわからないケースが多いのである。

【原因とメカニズム】
 老年性、若年性、糖尿病などの病因がある
   最も多いのは、老年性白内障である。これは、簡単にいえば、老化が原因だ。おもに六、七歳以降(早ければ五歳)になると、老化が進み、水晶体の中心部の「核」が硬くなり、白く濁ってくる。ついでその周辺の「皮質」が硬化して、白濁が広がっていく。そのまま放置すれば、水晶体の前部にある虹彩に炎症がおき、さらにその前部の角膜まで白濁していく。また、水晶体が白濁して、光が透過しなくなれば、網膜の視細胞もダメージを受け、失明状態となる(そうなれば、水晶体の代わりに人工レンズを入れても、視覚は回復しない)。
 若年性白内障は、おもに遺伝性の病気が多い。一歳未満、あるいは二歳未満で、遺伝的に進行性網膜萎縮という網膜疾患になる犬たちが、白内障を併発することが多い(犬種的には、ミニチュアシュナウザーやプードルなどにめだつ)。ただし、若年性白内障の場合、まず水晶体を前後から包むふくろ(前嚢と後嚢)のすぐ下が白濁し、のち水晶体の皮質に白濁が広がっていく(なお、網膜の病気があれば、手術で眼内レンズを入れても、視覚は回復しない)。
 糖尿病の場合、網膜疾患と白内障を併発して失明するケースがあることはよく知られている。また、近年は、アトピー性皮膚炎から白内障を併発するケースのあることも論じられるようになった。これらの場合、もとの病気を治療することが先決問題となる。

【治療】
 初期は点眼薬や内服薬で、進行すれば手術で眼内レンズを入れる
   老年性白内障の場合、初期段階なら点眼薬や内服薬で病気の進行を抑える。早期発見すれば、かなり手術を遅らせることができるが、病因が老化のため、いずれにせよ、だんだんと白濁が進む。ある程度進行すれば、手術して眼内レンズを入れると、衰えた視覚が回復する。
 もっとも、手術前に精密検査して、水晶体の混濁の状態をはじめ、角膜や瞳孔(虹彩)、網膜が正常かどうかをチェックする(それらに異常があれば、手術しても視覚の回復は見込めない)。術前処置および術後治療のために前後一週間程度入院。以後、定期検診をくり返し、回復が順調ならもう一方を手術することになる。進行性のため、また全身麻酔のリスクのため、十五歳以上の高齢になれば、手術できないことが多いが、十歳前後であれば、十分可能だ。
 近年、国産の眼内レンズが開発され、また獣医療が向上して、手術によって視覚を回復するケースが増えている。また、術前の検査で視覚の回復がむずかしいと判明しても、白内障を放置していると、虹彩や角膜の病気になりやすくなるため、それらの眼病予防を目的に手術にふみきることも少なくない。
 若年性白内障の場合、先にふれたように、網膜の遺伝的な病気を併発していれば、手術をしても視覚の回復はない。また、網膜に異常がなく、白内障の手術をしても、後発白内障を併発して、、手術後に見えにくくなることもある。なお、一部に一歳未満の犬なら、手術しなくても、その後、自然に白濁が吸収され、見えるようになることもある。

【予防】
 早期発見・早期治療で視覚の維持・回復を
   白内障に関しては、有効な予防手段はない。あえていえば、眼の健康のために、とくに夏場など、陽射しの強い日中の散歩をできるだけひかえて、紫外線の直射を避けるべきだ。
 また、若いときから、年に一度ぐらい、眼底検査や眼圧検査など眼の定期検査を続け、できるだけ早期、初期の段階で発症を見つけることが大切である。そうすれば、点眼や内服薬の投与で病気の進行をある程度遅らせることができる。また、たとえ進行しても、視覚が回復可能なうちに、適切な手術をおこなうことができる。犬や猫たちも長生きする時代、眼や耳、鼻など五感を健全に保つことができれば、飼い主とともに快適な老後生活を楽しむことができるにちがいない。

*この記事は、2002年9月20日発行のものです。

監修/奥本動物病院 院長 奥本利美
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