皮膚病
根気と忍耐、そして飼い主の愛情が一番の薬
一度かかると何ヵ月、ひどければ何年もひどい症状に悩まされ、運が悪ければ、生涯つき合わなければならない病いが皮膚病である。
ほとんど命に別状ないが、毛が抜け、肌が赤くただれ、じくじくと膿(うみ)がしみ出ている愛犬の姿を目にすれば、心が痛む。花粉症や原因不明のアトピー性皮膚炎に苦しむ人間に歩調を合わせるわけではないだろうが、皮膚病をわずらう犬やネコも少なくない。
夏場、ことに耐えがたい皮膚病について考える。
監修/串田動物病院 院長 串田 壽明

原因究明が皮膚病治療の第一歩
イラスト
illustration:奈路道程
 皮膚病には、大きく分けて、4種類ある。ダニなどの寄生性皮膚病。バイキンによる細菌性皮膚病。カビを原因とする皮膚病。そしてそれら以外の、アレルギー性皮膚病、あるいは内分泌異常や腫瘍(しゅよう)などを原因とする皮膚病だ。
 症状は何が原因でも似たり寄ったりだが、原因が何かによって、治療方法がまったく異なってくる。だから原因を調べずに画一的な治療方法を行うと、役に立たないどころか、かえって症状を悪化させる場合が多い。
 たとえば、寄生性皮膚病の筆頭にあげられるのが「毛包虫症(もうほうちゅうしょう)」だ。これは、動物の毛穴に棲みついた何十匹もの小さな寄生性ダニが原因となる病気で、ひどくなると全身に広がり、昔は不治の病として恐れられていた。
 微細なこのダニは、子犬のとき乳をまさぐる母親の体から移る。困ったことに、ダニを寄生させたからといって、必ずしも病気になるとは限らない。ダニを移された子犬が、何ヵ月かのち、あるいは何年も後になって、体力の衰えたときに発病するケースが多い。いわば、時限爆弾のような皮膚病である。
 発病し、症状が悪化して、さらにバイキンによる2次感染がおこると、目も当てられないほどにひどくなる。幸い、近年は病気の研究が進み、効果の高い殺虫剤が開発されてきた。地道に注射や経口薬剤の使用、薬浴を繰り返していけば治るケースが多い。
 しかし、最初に処置を誤って、ステロイド(副腎皮質ホルモン)系の薬剤を使うと皮膚病が進行して、その後、毛包虫症に効く殺虫剤をいくら使っても治らない。皮膚病治療の第一歩は、原因究明なのである。

むやみに速効性のある薬を使わない
   何が原因かの判断材料の一つは、かゆみをともなうかどうか、である。同じ寄生性皮膚病でも、疥鮮虫(かいせんちゅう)による病気はかゆいが、毛包虫症はあまりかゆくない。人間がかゆみに悩まされる、水虫やタムシなどカビの菌によるものは、犬にはそれほどかゆくない。アトピーなどアレルギー性のものは、犬、人ともにかゆい。
 もっとも、同じアレルギー性皮膚病といっても、犬によってアレルゲンとなる原因物質は無数にある。例えば空気中のほこり。花粉。何かの草の汁。食べ物。化繊のじゅうたん。タタミ。犬小屋のペンキやニス。プラスチック製の食器…。
 だから、根気よく原因物質を特定し、それを遠ざけないと、病気は治らない。そのなかのいくつかが複合している場合も多く、飼い主と犬、獣医師が気長にあきらめず、コツコツと犬の日常生活をチェックしていくより方法がない。
 あわてて治そうとして、ステロイドや抗生物質など速効性のある薬剤を多用するのは、副作用が強いので危険だ。症状が悪化しても、それらの使用を止めて一般の薬に代え、毒素を抜きながら何ヵ月、何年もかけて少しずつ治していく。やむを得ない場合以外、あまり強力な薬剤を使わない。また、効果の不明な薬剤を漫然と使わない。それが賢明な対応策である。
 とにかく、たちの悪い皮膚病にかかったら、全治して元の状態に戻ることを期待してはいけない。少しでもよい状態を保ち、極端に言えば、一生その皮膚病とつき合う。それぐらいの覚悟が必要といえるだろう。

皮膚病予防は体の手入れと食生活管理から
   皮膚病にかかるときは、犬の体力が落ちていたり、日頃の健康管理が悪くなっていることが多い。
 第一の予防策は、皮膚の手入れである。散歩から帰ってきたら、お湯で足の汚れを洗う。しかしシャンプーの多用は考えものだ。毛に保護された犬は、人間と違って皮膚が弱い。シャンプーの石けん、洗剤が皮膚炎の元になる場合もある。シャンプーは汚れのひどいときだけに止め、普段は毎日濡れタオルで体をふいてあげ、ゴミやほこり、バイキンなどをとり除く。
 そのあと、ブラッシングやコーミングで丁寧に手入れする。そうすれば皮膚の血行がよくなり、新陳代謝を促進するので、皮膚だけでなく、食欲が増し、体の健康増進に役立つ。とにかく、毎日、犬の手入れを重ねれば、皮膚病だけでなく、思わぬ病気やケガの早期発見につながる。それ以上に、飼い主とのスキンシップが犬の、心身両面の健康維持の特効薬である。
 それと、やはり食生活管理である。栄養バランスのいいドッグフードを、あまりブランドを代えずに与える。そうすれば、万一、食物アレルギーのときでも対応がしやすい。とにかく、健康管理は食事から。食事に注意しないで、薬ばかりに頼っていても、病気は決して治らない。

*この記事は、1995年7月15日発行のものです。

●串田動物病院
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