内分泌性皮膚疾患
皮膚病が第一の原因でなくても、体内のどこかの組織、器官の働きが狂って、脱毛したり、皮膚の状態が悪くなり、色が変わったりする場合が少なくない。内分泌性皮膚疾患もそのひとつだ。
監修/岐阜大学農学部(家畜病院)  教授 岩崎 利郎

体の抵抗力が落ちる副腎皮質機能亢進症

イラスト
illustration:奈路道程
 動物の体は、体の発育や健康維持のために、生体の機能を活発にしたり、抑制したりするホルモンを分泌する内分泌系組織がたくさんある。そのようなホルモン異常によって起こる皮膚疾患が、内分泌性皮膚疾患だ。
 代表的なものに、体の活性を抑える副腎皮質ホルモンが出すぎる副腎皮質機能亢進症、体の活性を高める甲状腺ホルモンが減少する甲状腺機能低下症、女性ホルモンが出すぎる卵巣機能不全1型、女性ホルモンが減少する卵巣機能不全2型などがある。
 副腎皮質ホルモンが出すぎたままだと、体の抵抗力が落ち、元気がなくなり、病気にかかりやすくなる。放置しておけば、いろんな感染症にかかったり、肝機能が悪くなって、死にいたる。
 典型的な皮膚症状をあげると、体幹部(頭部と足先と尻尾の先以外のところ)の毛が抜けやすくなる。また皮膚が薄くなり、血管が透けてみえたりする。そうして太りだし、お腹が垂れてくる。お腹の皮膚にカルシウムが沈着して、白いプツプツができてきたりする。なによりもそれらの症状が出る前から、むやみに水を飲み、たくさんオシッコをする多飲多尿がめだってくる。
 この副腎機能亢進症の原因は、いくつか考えられる。そのひとつが、副腎皮質ホルモンの産生をうながす副腎刺激皮質ホルモン(ACTH)を分泌する下垂体前葉の過形成や下垂体前葉に腫瘍ができ、ACTHが過剰に産生されるためだ。あるいは、副腎皮質(「副腎」は名の通り、腎臓に付随して左右2つある)のどちらかに腫瘍ができ、その影響で副腎皮質ホルモンが出すぎてしまう。また、アトピー性皮膚炎の治療などで副腎皮質ホルモンを投与しすぎた場合も同様の疾患になる。
 治療法には、下垂体前葉の過形成なら、副腎皮質ホルモンを出す副腎の細胞を壊す薬剤を投与する。腫瘍が原因なら、切除する。副腎はふたつあり、腫瘍のできた片方を切除しても問題はない。治療で投与された副腎皮質ホルモン製剤が原因なら、製剤の使用を中止しなければならない。
 とにかく、副腎皮質ホルモンが過剰だと、体の抵抗力が落ち、皮膚にカビやバイ菌、ダニがついたりして、それらが原因の皮膚病を併発しやすくなる。気になる症状があれば、すばやく動物病院で診断を受け、的確な治療を受けるべきだ。

「悲劇的顔貌」の甲状腺機能低下症
   甲状腺ホルモンは、体の細胞を活発にする。だから甲状腺機能低下症になれば、犬の活力が落ち、毛艶がなくなり、あちこち脱毛したり、フケがめだったり、皮膚が黒ずんだりする(普通の皮膚病なら、赤くなる)。とくに鼻の周辺や尻尾の付け根あたりが黒ずんでくる。
 甲状腺機能低下症は、レトリーバー系やハスキー系の大型犬種に起こりやすい病気で、いままで活発だったのに、最近元気がなくなって、という場合は要注意。犬の胸に耳をあてると、心臓の拍動がドックン、ドックンと、間延びし、たとえば普通、拍動が90以上のレトリーバー系の犬種が、70以下に落ちていたりすれば、うたがわしい。甲状腺機能低下症になれば元気がなくなり、顔つきもボーッとしてくるので、海外では「悲劇的顔貌」ともいわれている。
 病因としては、甲状腺に対する自己抗体ができ、甲状腺炎になったりして起こるケースが多く、甲状腺ホルモン製剤を投与すれば、症状は改善する。もっとも、ときには、長期間製剤の投与を続けなければならないこともある。多少元気がなくても、症状がひどくないならば、無理に治療する必要がない場合もあるかもしれない。

卵巣機能不全と成長ホルモン反応性皮膚疾患
   女性ホルモンの異常によって起こるのが、卵巣機能不全であり、女性ホルモン過多の場合を卵巣機能不全1型といい、女性ホルモン過少の場合を卵巣機能不全2型という。卵巣に腫瘍ができたりすると、女性ホルモンの分泌が過剰になり、大腿部の裏側から下腹部にかけて、色素沈着がひどくなって黒ずみ、皮膚がぶあつくなる。また陰部が肥大する。乳頭が黒ずみ、ときには乳が分泌することもある。とくに未経産の雌犬で、7,8歳ぐらいの生理不順になってきた犬に卵巣腫瘍ができやすい。もっとも、腫瘍自体は良性のことが多いため、避妊手術で卵巣を摘出すれば、完治する。放置すれば子宮蓄膿症になりやすく、一命にかかわるから、早めに治療すべきである。
 卵巣機能不全2型は、その反対に、早期、つまり性的成熟期以前に避妊手術をした雌犬に起こりやすい。女性ホルモンが不足して、大腿部から腹部の毛の密度が低く、陰部が小さくなる。女性ホルモンを投与すれば問題はないが、女性ホルモンの副作用に気をつける必要がある。
 そのほか、内分泌性皮膚疾患には、成長ホルモン反応性皮膚疾患もある。これは成長ホルモンの低下によって起こり、とくにポメラニアンやミニチュアプードルなどの犬種で、横腹の毛が抜けてきたり、産毛に変わったり、皮膚が黒くなったりする。これらの症状は、副腎の酵素の異常によって、本来、副腎皮質ホルモンとなるべきホルモンが性ホルモンに変わってしまう場合にも起こる。やはりポメラニアンやミニチュアプードルの雄犬にめだつが、去勢すれば、治る場合がある。もっとも、実質的に「見た目」だけが問題で、ほかに影響がなく、別に治療しなくても全身状態には心配はない(一般的にホルモン異常による内分泌性皮膚疾患は、かゆみも少ない)。

*この記事は、1998年5月15日発行のものです。


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