足を引きずる
全身のからだ、筋肉が躍動し、 犬が全力で走っている姿は、とりわけすばらしい。
しかし、何かのケガ、病気で、ふつうに歩けず、 足を引きずることも少なくない。
監修/岸上獣医科病院 獣医師 長村 徹
大阪市阿倍野区丸山通1丁目6の1 TEL 06-6661-5407

事故によるケガ


illustration:奈路道程
 足の裏、つまり足首から先全体を地面につけて歩く人間とちがい、犬やネコは、いつも爪先立ちのように、足の指の部分だけを地面につけて歩く。軽やかに歩き、あるいは力強く地面をかき、疾駆できるのは、そのためだ。
 しかし、いつも「裸足」で駆け回る犬たちが思わぬケガや病気で、足を引きずることも少なくない。散歩が「命」の彼らにとって、足のケガ、病気は、何よりも耐えがたいものである。
 ケガには、どこかに足をぶつけておこる打ち身、ヒザやヒジ、足首などをひねるネンザ、さらには骨折、関節の脱臼(だっきゅう)、骨同士を結びつけている靭帯(じんたい)の断裂など、軽症から重症までいろいろある。
 交通事故がめだつが、なかには、多頭飼いの小型犬同士のケンカで関節がはずれたり、ポメラニアンなどの小型犬がソファから床に飛び降りた際、前足の足(手)首あたりに力がかかり、前足(手)首とヒジのあいだにある二本の骨のうちの、「お箸」ほどの細さの骨がポキリと折れることもある。
 飼い主の目の前でケガをすれば、すぐ動物病院で治療を受けることができるが、目を離していたり、留守のときなら、発見が遅れがちになる。愛犬がわずかでも足を引きずっていたり、足を浮かせていたりすれば、早めに通院することが大切だ。

関節をとりまく靭帯のケガ
   犬の足のケガで多いもののひとつに「前十字靭帯」の断裂がある。十字靭帯とは、ヒザ関節のなかで、太モモの骨とスネの骨を結びつけている「たすき掛け」の靭帯で、スネの骨が前に飛び出したり、内側にねじれるのを防いだり、足全体が伸びすぎるのを防いでいる。しかし、犬が、足を伸ばした状態で急に足をひねったり、急にジャンプしたりすると、この靭帯の前の部分が切れることがある。また、年老いて、靭帯が老化していたり、肥えすぎで、無理がかかったりすると切れる場合もある。
 また、太モモとスネの骨を前方で結び、保護している靭帯とヒザの皿(膝蓋骨)が、内側にずれて(脱臼)、靭帯そのものが切れることもある。
 靭帯が傷つけば、関節がぐらぐらし、骨同士がぶつかって、とても痛く、うまく歩けなくなる。関節内で骨がぶつかれば、軟骨がはがれ、骨の表面が傷ついて、だんだんにトゲのような突起ができ、後年、変形性関節症という、骨の変形と痛みがはげしくて動けなくなる病気になる可能性が高い。
 関節をとりまく靭帯は、部分的に切れているだけなら、安静にしていれば、関節を固める成分が分泌され、やがて関節が安定して、治っていく。しかし靭帯が完全に切れていれば、外科手術の必要がある。

「股関節形成不全」や「椎間板ヘルニア」
  大型犬の関節にかかわる病気で有名なのは、「股関節形成不全」である。これは、太モモの骨の根元(骨頭)がおさまる受け皿の部分が浅くて、太モモの骨がぐらぐらし、脱臼しやすくなる病気で、現在、日本で飼われているゴールデンやラブラドールなどレトリーバー系の犬たちの約半数が、この病気の可能性があるといわれている(その原因の7割ほどは遺伝的なもので、アメリカでは、この病気をわずらう犬たちは交配を禁じられたり、輸入できなかったりする)。
 これらの犬種を飼うには、事前に飼い主に、この病気に向き合う「覚悟」と「注意」が不可欠だ。成長期、とくに生後四カ月から八カ月ぐらいまでの間、大型犬は、急激に体が大きくなる。その体重の増加に骨の発達が追いつけず、遺伝的に問題のひそむ股関節にさらに無理がかかって、症状がひどくなりやすい。そのため、とくに成長期は、過度の運動をひかえ、食餌をコントロールして、太りすぎを防止することが大事である。
また、犬が足を引きずる病気には、神経マヒにかかわるものも少なくない。その代表が「椎間板ヘルニア」である。椎間板とは、首からお尻までつながる背骨の骨の間にはさまれた軟骨のクッション材である。この椎間板が年とともに老化し、石灰化して固くなったり、中にあるゼリー状のモノ(髄核)が外に出たりして、背骨のなかを走る骨髄を圧迫し、神経を痛めていく。
 はじめは、足がもつれたり、背中をなでると痛がったりする程度だが、放っておくと、脊髄の神経細胞を壊死させ、足がマヒして動かなくなる。早期発見で治療すれば、元通りに治る可能性が高いが、手遅れになれば、生涯、マヒしたままだ。基本的に老化による病気だが、ビーグルやミニチュアダックスフントなどは、遺伝的に年若いときから発病しやすいといわれている。
 そのほか、犬には、人間同様にリュウマチによって、関節内を保護する滑膜に炎症がおこり、周辺の骨や軟骨が変形したり、破壊されたりすることもある。また、足の骨にがんができたり、胸のなかにがんができたりして、なぜか、足の骨の表面に骨のトゲができたり、あるいは骨折後、骨のなかの骨髄が細菌感染して骨が破壊されたりして、歩行困難になる場合もある(これらは、ネコのページでふれる)。
 打ち身、ネンザなどは、しばらく安静にしていれば、やがて自然に治るが、ときには、どこかに大変なケガや病気がひそんでいることもある。少し様子をみて、良くならない場合は、いつから、どこが悪くなったかを思いおこし、できるだけ早く動物病院でくわしい検査と適切な治療を受けることが大切だ。

*この記事は、2000年9月15日発行のものです。



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