貧血
健康のバロメーターの一つに顔色がある。
血色がいいか、悪いかで体調ばかりか精神状態までうんぬんされる場合が多い。
犬やネコは毛皮のせいで顔色の判断はつきかねるが、動作や歯茎の色などで貧血かどうかをチェックすることができる。
監修/シモダ動物病院 院長 下田 哲也

原因不明の「免疫介在性溶血性貧血」
イラスト
illustration:奈路道程
 貧血とは血液中の赤血球が減少する症状である。赤血球には酸素を体中の細胞に運ぶヘモグロビンが含まれているから、貧血がひどくなると細胞がグリコーゲンなどの栄養素を酸化分解させてエネルギーを得ることができなくなる。だから、貧血が続くと、犬は元気がなくなってきて、体を動かすことがつらくなる。散歩や運動の途中でしゃがみこむ。すぐ息切れがする。さらには食欲すらなくなってくる(食べることもかなりのエネルギーを必要とする)。衰弱がますます進行するわけである。
 貧血、つまり赤血球の減少の原因にはいろいろあるが、特に犬に多いのが、「免疫介在性溶血性貧血」、ダニにかまれて原虫に感染する「バベシア症」、「タマネギ中毒」などである。
 「免疫介在性溶血性貧血」とは難解な名称だが、要するに、本来は、体に侵入した病原菌などを退治する「免疫」が自分の赤血球を破壊する病気だ(溶血性とは血が溶けること)。動物の体では、つねに赤血球や白血球、血小板などが(骨髄で)つくり続けられているが、つくられる赤血球より壊される赤血球の方が多くなれば、貧血となる。原因がわからない「突発性」のものが多い(なかにはウイルス感染に伴って起こる「続発性」のものもある)。アメリカの論文などでは、発情期のメス犬に多いとか、季節的に5,6月ごろに多いとか指摘されているが、シモダ動物病院での調査では、性別、年齢別、季節別での偏りはみられなかった。
 治療法としては、犬の免疫を抑えるために、免疫抑制作用のある副腎皮質ホルモンを投与する(それでも治らない場合は抗ガン剤を投与)。症状が重いと、輸血して延命をはかるが、「免疫」によって輸血された血液が破壊され、肝臓や腎臓に悪影響を与えるため、危険性も大きい。一般的に治療後の生存率は8割以上といわれる。早期発見、早期治療によって軽い症状のうちに治療するのが最善である。

ダニからうつる「バベシア症」
   ダニに寄生する原虫「バベシア」は、ダニにかまれた犬の血液中の赤血球にとりついて、赤血球を破壊する。バベシアが原因の貧血なら、バベシアを駆逐する薬剤を使えば、症状はよくなっていく。しかし、この薬剤を大量に使えば、副作用として犬の小脳に出血を起こし、命を奪う。薬剤の投与には細心の注意が必要なのである。そのため、バベシアを完全に駆除することができず、1,2ヵ月後に再発するケースも少なくない。時間をかけて、慎重に、根気よく治療を続けなければならない病気である。
 バベシアの寄生するダニは地域性があり、近畿地方では六甲山系や生駒山系に多い。西日本では九州・山口地方に多い。かかりつけの動物病院で感染地域を確認しておくことが大切だ。もっとも、このダニは犬科の動物、つまり犬やタヌキ、キツネなどにつくがネコにはつかない。

意外に多い「タマネギ中毒」
タマネギ中毒の血液
顕微鏡写真
 「タマネギ中毒」については、よく話を聞くことも多いだろうが、ふだん気づかずにタマネギやニンニク、ネギの入った食べ物を愛犬に与えているケースも少なくない。もっとも犬によって個犬差があり、「肉じゃが」を1口食べて溶血発作を起こす犬もいれば、タマネギを1,2個食べても平気な犬もいる。だから以前飼っていた犬が大丈夫だったからと次の犬にもあげるようなことはすべきではない。特に人間用の料理は、ハンバーグでも焼きめしでも、その他肉料理、炒め料理にタマネギやニンニクなどを使うものが多い。(塩分や糖分など動物の健康に害のある)人間用の食事を犬に与えることは断じて避けるべきである。
 タマネギ中毒の場合、タマネギの摂取を止めれば貧血の症状はよくなっていく。
 あるいは貧血の原因として、腸内の腫瘍によって出血が続く場合や、肝臓にできた血管肉腫が突然はじけて大量に出血する場合もある。早期発見と原因究明・早期治療が何よりも大事なことは言うまでもない。
 貧血すれば、体の動きが悪くなる(ひどいと運動中、ひっくり返ることもある)だけでなく、歯茎や耳が白くなる。ときどきは愛犬の唇をめくり、歯茎の色が健康なピンク色かどうかをチェックして、白っぽいようなら検診に出かけたほうがいい。また、貧血のときは、赤い血色素(ヘモグロビン)が尿に混じる「血色素尿」となることもある(赤血球は排出されない)。血尿が出たといって動物病院にかけこむケースもある。

*この記事は、1997年9月15日発行のものです。

●シモダ動物病院
 岡山県赤磐郡山陽町岩田
 Tel (08695)5-1543
この症状を引き起こす病気はこちら


犬猫病気百科トップへ戻る
Copyright © 1997-2009 ETRE Inc. All Rights Reserved.
このサイトに掲載の記事・イラスト・写真など、すべてのコンテンツの複写・転載を禁じます。