嘔吐、食欲不振などを繰り返す
犬も胃の病気に要注意
犬も人間でなじみ深い「胃潰瘍」などの胃の病気になることがある。
嘔吐することが多いので、食べ過ぎなどによる吐き方との違いを見極め、早期発見・早期治療を!

【症状】
嘔吐、食欲不振、あるいは痛みのある患部を床に付ける動作を見せる

イラスト
illustration:奈路道程

 口から入った食べ物は、食道を通って胃に収まり、胃液(塩酸と消化酵素のペプシン)の働きと胃のぜん動運動でドロドロの状態にまで消化される。
 毎日、食事のたびに重労働を重ねている「胃」の具合が悪くなれば、うまく消化できず、食べ物を吐き出す(嘔吐)こともある。消化不良の食べ物が胃から腸に流れ、腸管を刺激して、下痢することもある。胃壁が傷つき、出血すれば、吐き出した内容物に血が混じる(胃液の作用で、血がコーヒー色に変色することもある)。出血がひどければ、血の塊を吐き出さないとも限らない。もちろん、血便となることもある(腸管内で変色し、黒くなる)。
 胃の痛みがひどければ、犬たちは、前足を逆「く」の字に曲げて上腹部を床に付け、お尻を突き上げた姿勢で痛みに耐えていることも少なくない。
 とにかく、胃の病気の場合、最も現れやすい症状は「嘔吐」である。しかし、犬たちは、食べ過ぎや水の飲み過ぎ、運動し過ぎ、体調不良や精神的な不安などで嘔吐することが多く、「あ、また吐いている」ぐらいで済ます飼い主も少なくない。吐いたあと、いつもと同じように元気で、フードを食べたり、水を飲んだり、運動していたりするのなら問題もないだろうが、何度も吐いたり、吐いたあとにぐったりしていれば、どこか具合が悪い可能性も高い。

【原因とメカニズム】
異物ののみ込み、胃炎、胃捻転、腫瘍など、原因は様々
  異物ののみ込み
 愛犬がさっきまで元気だったのに、急に体調が悪くなった場合、まず考えられるのは「異物」ののみ込みである。
 ボールやロープ、骨ガム、プラスチック製おもちゃやティッシュペーパー、石や砂、あるいは鶏の骨や串焼きの「串」など、犬がのみ込み、胃腸に問題を起こしやすい異物は様々である。飼い主がそばにいれば、どんなものをのみ込んだかが分かり、対応もしやすい。だが留守番中、退屈しのぎにかじり、誤ってのみ込んだ場合、状況が分からず、対応が遅れることもある。

胃炎、胃潰瘍
 刺激の強い食べ物をよく食べたりしていると、胃の粘膜を傷めて炎症を起こすこともある。また、人間の胃病で有名になったヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)に感染していて、「慢性胃炎」になっているケースも考えられる。
 胃の粘膜は、強力な塩酸(胃酸)から胃の内壁を守っている。しかし、何らかの原因で粘膜が傷つくと、塩酸が粘膜内部まで侵して炎症を広げ、びらん状態になる。粘膜下層まで障害すれば、「胃潰瘍」となる。人間ばかりではなく、犬も、何らかのストレスが引き金になって胃炎が悪化し、胃潰瘍になる可能性もある(小型犬に目立つ)。

胃捻転・胃拡張症候群
 中高齢期の中・大型犬に見られる胃の病気に「胃捻転・胃拡張症候群」がある。体格の大きい犬は腹腔が深く、胃の収まる上部腹腔にスペースができやすい。また、中高年になると、胃を固定する靭帯もゆるみやすくなる。そんな犬たちが一度にたくさんフードを食べ、がぶがぶ水を飲んだあとに走り回ったりすれば、大きく膨らんだ胃が、入口(噴門)と出口(幽門)を軸に回転することもある(胃捻転)。放置すれば、内部で発生するガスによって胃がさらに膨らみ、胃の血管や周辺の血管、さらには脾臓などがさらに圧迫されて血液循環が滞り、ショック状態になる。

腫瘍
 胃の粘膜に発症する悪性腫瘍が「胃がん」である。慢性的な胃炎などで粘膜細胞が傷ついていけば、腫瘍になる可能性も高くなる。腫瘍は初期段階で自覚症状が現れにくいだけでなく、犬は、よほどの痛みでもない限り、周りが気づきにくいため、見逃されやすいといえる。近年は、獣医療の世界でも内視鏡技術が普及してきたため、検査で発見される機会も増えてきた。しかし、胃の粘膜層にできた悪性腫瘍が粘膜表面まで浸潤してこないと、確実に見つけることは難しい。
 中高年になり、慢性的な嘔吐や食欲不振などが続けば、レントゲン検査やエコー検査、内視鏡検査などでよく検診し、できるだけ初期の段階で発見・治療することが望ましい。


【治療】
病因、症状に合わせ、適切な内科、外科治療を行う
  異物ののみ込み
 異物ののみ込みなら、どこに何が詰まっているかを検査し、開腹手術によって取り除く。大きいものは胃に滞留することが多く、小さいものは腸管に流れることが多い。

胃炎、胃潰瘍
 胃の変調で嘔吐が激しければ、制吐剤を与えて胃の機能を整える必要がある。しかし、それだけではなく、嘔吐の背景にどんな病気が潜んでいるかをよく診断し、適切な治療を行っていかなければならない。
 慢性胃炎で胃液の分泌が低下しているのなら、胃液の分泌促進剤がある。ピロリ菌による炎症や潰瘍なら、ピロリ菌に有効な抗生物質を投与する。免疫異常による炎症なら、免疫抑制剤を投与する。胃の内壁から出血しているのなら、傷口が小さければ、内視鏡によるクリップ処置などで出血を止める。潰瘍などがひどく、出血が多い場合、開腹して潰瘍部分を切除することもある。なお、胃潰瘍などでは、患部を刺激する塩酸(胃酸)の分泌を抑制する胃酸抑制剤が有効なことも多い。

胃捻転・胃拡張症候群
 胃捻転・胃拡張症候群の場合、点滴などでショック状態を和らげ、開腹手術をして、胃を正常な状態に戻す。


【予防】
いつものフードを、いつもの量、規則正しく与える
 
 成長期はともかく、成熟期になれば、毎回、一定量の、それも同じ内容のフードを規則正しく与えるなど、胃への負担が少ない食生活を心掛けること(特に食べ慣れない、刺激の強い食べ物を与えると、胃がうまく対応できず、急性胃炎を起こすこともある)。また、適度の運動、休養、睡眠などを確保して、心身の健康を維持することが大切である。
 胃の病気は、初期症状に嘔吐が見られることが多い。何度も吐くようなら、よく検診してもらったほうがいい。また、中高齢期になれば、例えば、麻酔をかけて行う歯石除去処置の時、ついでに内視鏡検査やレントゲン検査などを行い、早期発見を心掛けるのもいいかもしれない。

*この記事は、2006年9月20日発行のものです。

監修/動物メディカルセンター 院長 北尾 哲
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