胃腸病
病いは気から、胃腸から
人間をはじめあらゆる動物は、つまるところ、1本のチューブ(消化器官)に頭や手足が生えた生き物である。
いわば、命あるかぎり食べ続け、食べるかぎり生き続ける。自然、生涯身を養う胃や腸などに変調をきたすことも少なくない。
監修/ダクタリ動物病院 関西医療センター  院長 山崎 良三

子犬なら、寄生虫や伝染性ウイルスによる病気の恐れがある
イラスト
illustration:奈路道程
 朝、庭に出ると、愛犬が犬舎のわきに食べ物をもどしている。あるいは朝の散歩で下痢(げり)をした。どうも元気がない。単なる食べ過ぎか食当たりか、それともどこか悪いのか。そんな具合で動物病院へ駆け込むことが少なくない。犬の病気で最も多いのが、このような嘔吐(おうと)や下痢の症状から飼い主が気づく胃腸病である。
 胃腸病の原因は様々で、子犬、成犬、老犬と、おおよその年齢によって変化する。たとえば家にやって来たばかりの子犬なら、環境の変化によるストレスで下痢をすることが多い。気をつけなければいけないのは、子犬が回虫などの寄生虫や伝染性ウイルスによる下痢に悩まされる場合だ。とくにパルボウイルスによる出血性腸炎のときは、便全体に血が混じってトマトジュース状の下痢便となる。治るかどうかは子犬の体力次第。大量の点滴を投与して体力を維持し、このウイルスに打ち勝たねばならない。ストレスによる食欲不振が重なって体力低下がいちじるしければ、衰弱死することもある。もちろん、事前に予防ワクチンを射っていれば問題ない。しかしそうでなければ、母親から引き離され、母体免疫がなくなった子犬が感染しやすい病気である(便や空気感染)。

成犬の「食べ過ぎ」が大問題
異物を飲み込んだ胃のレントゲン写真
レントゲン写真
 成犬の場合(普段からフィラリアの予防や各種ワクチンを接種していれば)、胃腸病の原因はたいてい食べ物に関係する。飼い主がむやみに肉やチーズなどの高タンパク質の食べ物を与え過ぎたり、古くなって油の回ったドッグフードを与えていたり、食べ過ぎや食当たりによってお腹をこわすケースが多いのである。たまに食べ物アレルギーが引き金になることもある。そうなれば、原因物質を突きとめるのがひと苦労。基本となる食事に、まず今日は牛肉を入れて様子を見る。それで下痢にならなければ、今度は牛肉を抜いて、豚肉を入れる。その次は鶏、さらに魚…。そんな風に根気よくアレルギーの元となる食品を探していく。
 「食べ過ぎ」で注意しなければいけないのが、大型犬の場合。成犬は日に1食、というわけで、飼い主は夕方に1度、たくさんの食事を食べさせる。犬は水もたっぷり飲む。大型犬の胃の中は、ドッグフードと水でパンパンにふくれあがる。そんなとき、少し運動すれば、重量オーバーの胃袋がゆれ動いて「胃捻転」を起こす。胃拡張症候群である。こうなれば、犬はショック状態で死線をさまよう。夜中でも、急いで動物病院に飛び込み、緊急手術を受けて、胃袋を元通りにしてあげなければ、あの世行きだ。大型犬の過食を防ぐために、普段から、食事は朝・夕2回に分けて与えたほうがいい。  老犬の胃腸病では、潰瘍(かいよう)性や腫瘍(しゅよう)性の病気が多くなる。下痢や便秘が続く。おかしいな。そこで胃や腸の検査をすると、しこりがある。切開すれば、悪性腫瘍(がん)というケースも少なくない。また、胃潰瘍に悩む老犬も多い。犬はのんきにうたた寝ばかりしているようだが、気まぐれな人間と長年付き合っていれば、あれやこれや刺激性の強い食べ物をとる生活に慣れ、あるいはストレスも重なり、胃に穴が開いてもおかしくない。もちろん、人間と一緒で、ウイルスや細菌(ヘリコバクター)による胃潰瘍もある。物言わぬ愛犬の健康管理のため、飼い主は普段から刺激や塩分の強い食べ物を避けるべきだ。そして年に1度は健康診断を受けることを習慣づけるべきではないだろうか。

自分の胃袋をオモチャ箱にする犬に要注意
摘出されたコイン
写真
 胃腸病の原因で、意外に目立つのが「異物の飲み込み」である。靴下やストッキング、アイスクリームの棒やテニスボール、さらにプラスチックやステンレス製の食器をかじって食べる豪の者もいる。幸い現在は内視鏡で胃の中を探って取り出す医療技術も一般化してきたが、もし、それらの異物が十二指腸から小腸に入れば、開腹手術をしなければ助からない。わが家の愛犬が異物を飲み込むクセがあるのなら、要注意。室内に飲み込む危険のある衣類や小物、オモチャなどは本人(犬)の手(口)の届かないところに片付けておくべきだ。とがった異物を飲み込むと、食道や胃壁に傷がついて炎症がひどくなる。
 さらに、異物や骨ガム、鶏の骨などが食道に詰まると、一刻も早く取り除かないと、事後、1週間か10日ほどで食道狭窄(きょうさく)を起こす。食道の、物が詰まった部分が慢性の炎症を起こして腫れあがり、食道の空間が細い針金ぐらいになってしまうのである。とにかく、異物を飲み込んだそぶりがあれば、すぐに動物病院で検査を受け、処置してもらわないと、大変なことになる。
 また、普段元気な愛犬(成犬)が嘔吐や下痢をした場合、その後、別にぐったりしていなければ、とりあえず、翌日まで絶食・絶水をさせて様子を見ればいい。翌朝までにまた嘔吐や下痢をくり返すのなら、即病院へ。絶食して便が出ないなら、いつもの3分の1ぐらいの食事を与えてみる。それで食べないのなら、やはり病院へ行くのがいい。
 通院するとき、獣医師が的確な判断を下せるように、嘔吐物や下痢便をサンプルとして持参することが大切だ。下痢といっても、それほど問題のない軟便タイプから、牛の糞のようにドロッとしたもの、血の混じったもの、ジュースのようなもの、といろいろある。日頃から愛犬の排便をよく観察しておけば、すぐに異常を察知できる。

*この記事は、1996年7月15日発行のものです。

●ダクタリ動物病院 関西医療センター
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