吐いたり、多飲多尿になる
放置すれば一命にかかわる「慢性腎不全」
愛犬の飲水量がいつもより増え、おしっこをたくさんし始めたら、愛犬の腎臓に異常が起きているサインかもしれない。
腎機能が障害される原因や症状をチェックして、発症を未然に防ごう。

【症状】
吐いたり、よく水を飲み、薄いおしっこをたくさんする

イラスト
illustration:奈路道程

犬の腎臓〜尿管の仕組み  愛犬の様子に何となく元気がなく、食欲もない。時々吐くことがある。いつもよりよく水を飲み、薄いおしっこをたくさんする。そんな症状が気になるなら「慢性腎不全」の可能性があるので、動物病院でよく調べてもらったほうがいい。
 慢性腎不全とは、何らかの要因で腎臓の機能障害が進行し、腎臓が正常な働きを行えなくなった状態である。
 腎動脈から腎臓に入った血液は、何十万もある「ネフロン」(腎単位:糸球体とそれを包むボーマン嚢から成る「腎小体」と尿細管とで構成される)に流入。糸球体でまず毒素などを含む大量の原尿がこし取られ、次いで尿細管で体に必要なほとんどの水分や栄養素が再吸収され、残った毒素や水分などが尿として腎臓内の「腎盂」に集合。尿管を伝って絶えず膀胱へ注ぎ込む。そして、膀胱内である程度の量がたまると尿意をもよおし尿道から体外に排せつされる。
 ところが、腎機能の主役といえる糸球体(毛細血管の固まり)が、年とともに何らかの要因で障害されていき、何十万もあるネフロンの7割から8割が機能しなくなると、体に有害な尿毒素がうまく排せつされなくなる。そうなれば、犬は元気や食欲がなくなり、吐き気が起こりやすくなる。また、体に必要な水分や栄養素をうまく再吸収できなくなり、脱水症状や体の衰弱が目立ってくる。あるいは、腎臓で分泌される造血促進ホルモンが出なくなり、貧血状態になる。さらにひどくなれば、尿毒素が全身に回り、ついには死に至る。

【原因とメカニズム】
尿路(尿管・膀胱・尿道)や腎臓、さらには心臓などの問題が腎障害を進行させる
   犬の腎臓が機能障害を起こし始め、慢性腎不全への道をたどる要因は、原因がはっきり分からないこともあるが、ある程度原因が突き止められるものもある。

●尿路(尿管・膀胱・尿道)に問題がある場合
 最も多いのが、腎臓から流れ出る尿の通路、つまり尿路(尿管や膀胱、尿道)に問題が起こって、腎臓に悪影響を及ぼすケースである。例えば、尿管結石、膀胱結石や尿道結石ができると、尿がスムーズに排せつされず、腎臓(の腎盂)内に尿が滞留して内部組織を圧迫すれば、腎機能障害を起こしやすい。また、膀胱炎などの治療が不十分で慢性化すれば、細菌感染が尿管を伝って腎臓に達し「腎盂腎炎」を発症。腎機能が障害されていく場合も少なくない。
 あるいは膀胱や尿道、前立腺などに腫瘍が発症(悪性腫瘍が多く、転移しやすい)。腫瘍そのものが次第に大きくなって尿の排せつを妨げ、腎機能が悪化するケースもある。体のどこかにできた悪性腫瘍が尿路周辺のリンパ節に転移した場合も排せつを妨げることがある。
 遺伝的な要因で、尿管が膀胱につながらず、直接尿道や腟につながる病気(異所尿管)にかかっているケースもある(ハスキーやゴールデン、プードルなどの犬種に起こりやすい)。この場合、常に尿が漏れている状態から、尿路が細菌感染を起こしやすくなったり、尿管の運動に異常を引き起こしたりして、腎臓に悪影響を及ぼすことがある。

●腎臓に問題がある場合
 腎臓に腫瘍が発症したり、結石(腎結石)ができたり、細菌やウイルスが原因の感染症による腎炎が引き金になったりして腎機能が障害されることもある。若いうちから腎不全が見られる場合は、生まれつき腎臓が形成不全となっていることもある。また、片側の腎臓に若年性腫瘍(腎芽腫)が発生し、手術で摘出したのに、残ったもう一方だけが頑張って働き続けていくうちに腎結石ができあがり、腎機能の障害が進んでいくといった複雑な過程をたどることもあり得る。

●腎臓の「上流」に問題がある場合
 その他、高齢期に心臓疾患になるケースは珍しくないが、心臓が悪くなれば腎臓に必要な血液が十分に送られず、腎機能が低下していくこともある。また、歯周病が悪化し、歯周病菌が血流に乗って心臓などの臓器に悪影響を及ぼす可能性もある。あるいは、熱中症などになって脱水症状を起こせば、腎臓への負担も大きくなる。


【治療】
症状に合わせ、早めに適切な食事療法、薬剤療法、補液療法などを行う
 
 慢性腎不全は、初期から末期まで4段階に分かれる。
(1)腎機能が通常の70%〜50%に低下するが、症状が出ていない段階
(2)腎機能が通常の50%〜30%に低下し、血清クレアチニン(タンパク質が筋肉で分解されてできる老廃物)の値が上昇し、症状が出始める段階
(3)腎機能が通常の30%〜10%に低下し(腎不全)、血清クレアチニン値がさらに高く、いろんな症状が出る段階
(4)腎機能が通常の10%以下に低下し(末期腎不全)、尿毒症で重い全身症状が出る段階
 それぞれの段階によって治療方法も異なるため、尿検査や血液検査、画像検査などの検査が必要になる。
 初期の段階で病気が見つかれば、はっきりとした症状が出なくとも、リンやタンパク質、塩分などを抑えたフード、脂肪酸バランスの良いフードなどの療法食を与え、脱水状態にならないように水分を十分与える。またストレスによって腎臓の負担が増えないよう、生活環境を整えることも大切である。
 少しでも症状が出始めたら、前述の食事療法に加えて、老廃物を取り除く吸着剤、血圧を下げる薬剤(腎臓が悪くなると血圧が上がり、それによってさらに腎臓が悪くなることがある)、貧血気味なら貧血を改善する薬剤などを投与して、腎機能の低下を抑えていく。脱水症状の改善や必要なビタミン、ミネラルなどの補給のために、定期的に点滴(皮下補液)を行う補液療法を活用するのも有効である。
 とにかく、腎機能はいったん低下すると回復することはない。いかに早めに腎機能の低下を補う治療を継続し、症状の悪化を抑えるか、である。

【予防】
腎臓への負担の少ない食生活や定期検査による早期発見・早期治療
 
 腎臓や尿管、膀胱、尿道結石を起こしやすい体質なら、結石を起こしにくい療法食に切り替えること。膀胱炎などを起こしやすい場合、根治するまで根気よく治療を続け、慢性化を防ぐこと。歯周病菌が内臓に影響を及ぼす可能性があるため、子犬の時から歯磨きを習慣づけるのもいいだろう。そして、水分不足、脱水症状などにならないよう、常に新鮮な水を十分与えること。また、中高年になれば、定期検査を受けて、早期発見、早期治療を心掛けてほしい。

*この記事は、2007年8月20日発行のものです。

監修/麻布大学獣医学部附属動物病院 腎・泌尿器科 三品 美夏
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