かゆくてかきむしる
激しいかゆみを引き起こす「疥癬」
0.35mmの小さなダニによって引き起こされる疥癬。
感染動物との接触で感染することが多く、
猛烈なかゆみから皮膚をかき続け、脱毛したり化膿することも。

【症状】
赤い発疹と激しいかゆみ、脱毛やかさぶた、化膿など

イラスト
illustration:奈路道程

 愛犬が耳(耳介)やわきの下、おなかなどをしきりにかきだしたら、要注意。疥癬という、ヒゼンダニによる皮膚病の恐れがある。
 ヒゼンダニは体長0.35ミリほどの小さなダニで、肉眼で見つけることは難しい。このヒゼンダニが犬の体に取りつくと、交尾を終えたメスダニが皮膚の角質層にトンネルを掘って卵を産み出す。その卵がかえって成長し、どんどん増殖していくと、ダニの出すふんや分泌物質が犬の皮膚に激しいアレルギー反応を起こさせ、赤いブツブツや白い膿疱ができ、猛烈なかゆみが起こる。犬はたまらず後ろ足でボリボリとかき続け、皮膚が傷ついて、毛が抜け、かさぶたができる。さらに、傷口に入った雑菌によって化膿することも少なくない。ひどくなれば、耳やわきの下、腹部から体中に激しい皮膚炎が広がっていくこともある。
 ヒゼンダニは被毛の薄い部位を好み、最初、犬の耳やわきの下などに寄生し、だんだんとおなかなどに広がっていく。もっとも、わきの下の皮膚に寄生していたとしても、そこから少し離れた部位(例えば肘の辺りなど)に症状が出ることがあり、症状の出た部位を検査しても、ダニやダニの卵、ふんなどを検出できないことも多い。そのため、病因の確定に手間取り、適切な治療が遅れることもある。
 なお、ヒゼンダニには、人、犬、猫などに寄生しやすいグループがあるが、犬に寄生するダニも人に感染することがある(10〜50%の確率)。注意してほしい。
 


【原因とメカニズム】
感染動物との直接的な接触で感染し、ダニのふんや分泌物質によるアレルギー反応で症状が悪化する
 
 ヒゼンダニは、宿主(寄生対象の動物)の体から離れると、一日〜一日半程度しか生存できないといわれている。そのため、ほとんどの場合、ヒゼンダニが寄生している動物と直接接することによって感染すると思われる。
 もっとも、自然界でも、湿度97%、温度10℃の環境下では十九日程度ならば生存できると考えられるため、犬が、ダニの宿主の暮らす、じめじめした寝床や巣穴などに入って感染するケースもないとはいえない。
 犬の体に取りついたオスとメスのヒゼンダニが交尾すると、メスは産卵するために皮膚の角質層にトンネルを掘り、その中で卵を産む。卵からかえった幼ダニは体表面に出てきて成長し、若ダニとなり、ついで成ダニとなって、繁殖行動を行う。そしてメスダニがまた皮膚にトンネルを掘って卵を産み、という生活を繰り返す。
 なお、卵→幼ダニ→若ダニ→成ダニという、ヒゼンダニの生活サイクルは、十七〜二十一日間程度。また、メスの成ダニは一日に三個から五個の卵を産みながら、四〜五週間程度は生存すると思われるから、感染して一、二か月すれば、かなりのダニが寄生していることになる。
 ダニの個体数の増加に伴って、ダニの出すふんや分泌物質などのアレルゲンも急増し、かゆみなどの症状もひどくなる一方だ。もっとも、症状の程度は犬の体質や免疫力の強弱などによって異なる。

【治療】
ダニの生活サイクルに合わせた、継続的な殺ダニ剤の投与と飼育環境の徹底的な掃除
 
 皮膚病は、当然のことだが、原因によって治療方法が異なる。疥癬はヒゼンダニの感染によるため、殺ダニ剤の投与が中心となる。それと同時に、ダニの潜む可能性の高い寝床、マットなどを焼却処分(または50℃で10分間の熱処理)し、犬舎などを徹底的に掃除、殺ダニ剤を散布して、犬の生活環境からダニを一掃する。また、多頭飼いの場合、同居する犬や猫を同時並行的に治療していかなければならない。
 とにかく、ヒゼンダニは肉眼で見えないほど小さく、また、発疹やかゆみのある患部とダニの寄生部位が異なることも重なり、ダニやダニのふん、卵など、ダニ繁殖の具体的な証拠を発見できないこともある。そんな時、原因はよく分からないが、かゆがるからと、アトピー性皮膚炎の治療に使われるステロイド剤を使えば、免疫力が低下して、かえってダニの増殖が活発になる。
 疥癬の治療方法には、薬用シャンプーと薬浴、注射投与が一般的で、それでも効果が少ない場合、経口薬の投与が行われる。
 薬用シャンプーと薬浴療法では、まず、抗脂漏性シャンプーで治療の妨げとなる油脂やかさぶたなどを取り除いたあと、殺ダニ用の薬浴を行う。通常、七日ごとに五週間程度行えば、成ダニだけでなく、治療開始時、メスダニが産んでいた卵から孵化した幼ダニ、成長期の若ダニなどをすべて駆虫することができる。
 注射の場合、通常、二週間間隔で、二、三回投与すればいい。経口薬投与の場合、一日一回で三十日間程度となる。
 なお、注射投与の場合、注意すべき点がある。それは、十六週齢未満の子犬、そして、コリー、シェルティ、ボーダーコリー、コリー犬の交雑種などの犬種には強い副作用があるため、決して使用しないことだ。また、フィラリア感染の犬の場合も、ショック死する可能性が高いので、使用厳禁である。
 治療中、当初の殺ダニ剤投与で成ダニが駆除され、症状が改善し、飼い主が、“完治した”と誤解しやすい。しかし、殺ダニ剤は成ダニや幼ダニ、若ダニなどは駆除できるが、孵化前の虫卵には効かないため、治療を中断すれば、卵からかえったダニの繁殖によって、また症状が悪化する。


【予防】
日ごろから健康管理と衛生管理に注意し、感染動物との接触をなくす
 
 ヒゼンダニが寄生する動物との直接的な接触によって感染する確率が高いため、疥癬の疑われる野良犬などが暮らす野山を、リードをつけずに、散歩、運動させないようにすべきである。
 また、愛犬の体が汚れていたり、栄養不良だったり、病弱だったり、高齢で弱っていたりすると、抵抗力が弱く、ダニを引きつけやすいので、日ごろから健康管理と衛生管理に気を配ること。特に梅雨から夏場にかけての高温多湿の季節は、ダニが最も生活しやすく、繁殖も旺盛になるため、要注意である。
 かつて、野山や居住地の近くに野良犬が多く、屋外飼いが一般的で飼育状況の良くなかったころ、犬の疥癬は非常に多かったが、野良犬が減り、飼育状況も良くなった現在、疥癬の症例も少なくなった。
 もっとも、近年、野良猫の間に流行しており、野良猫との接触で感染する可能性もある。

*この記事は、2005年5月20日発行のものです。

監修/佐藤獣医科医院 院長 佐藤 正勝
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