体のあちこちがかゆい
特定の食べ物が引き起こす「食物アレルギー」
食物アレルギーは、特定の食べ物に対して体の免疫が過剰に反応することで起こる。
発症すると体がかゆくなったり、湿疹に悩まされたりするので、疑わしい症状があれば一度動物病院で検査を。

【症状】
顔や耳、足先やお尻の周辺がかゆい

イラスト
illustration:奈路道程

 動物の体は「免疫」によって守られており、本来、体に害を起こす可能性の高い病原体や異物など(抗原)が体内に侵入すれば、それに対抗するための物質(抗体)を作って排除しようとする(抗原抗体反応)。しかし時には、それほど害にならない物質に対しても過剰に反応することがある。
 例えば、動物は肉や魚、穀物や野菜、果物などの色々な食べ物を食べ、消化し、体に必要な栄養素として吸収して生きている。そのような体に必要不可欠な食べ物が、時にはある個体にとって害のある「異物」として認識され、体から排除しようとする反応が起きることがある。そんな“過剰な”「抗原抗体」反応が「アレルギー」であり、特に「食べ物」に対するものを「食物アレルギー」と言う。
 食物アレルギーになると、顔や耳、足の先端、お尻の周辺など、体のあちこちがかゆくなったり、湿疹ができたりする。また、胃腸などの消化器官の発達が不十分な子犬が“何か”の食べ物を食べ、十分に消化できずにアレルギー反応を起こし、嘔吐したり、下痢したりすることがある。
 もっとも、愛犬の体にかゆみが出たり、嘔吐や下痢があったからといって、それが食物アレルギーの症状かどうかはすぐに分からない。
 特にかゆみや湿疹などは「アトピー性皮膚炎」と同様の場所に出やすく、それだけでは区別がつかない。また、アトピー性皮膚炎の原因物質の中に、卵や牛乳などの食べ物が含まれることもある。前述のような症状が現れた場合、何よりも重要なのは病因の究明と原因物質(アレルゲン)の特定である。
 

【原因とメカニズム】
なぜかは不明だが、何らかの食べ物がアレルギー反応を引き起こす
 
 最初に述べたように、食物アレルギーは何らかの食べ物によって引き起こされる。よく知られるのは、肉類、穀物、大豆、卵、牛乳などである。しかしそれは、「それらの食べ物が悪い」というのではない。ある個体にとって、日常、よく食べる機会のある何らかの食べ物が食物アレルギーの引き金になりやすいということである。
 それらの食べ物の成分には、タンパク質、炭水化物、脂肪などの構成要素があるが、問題になりやすいのは「タンパク質」である。タンパク質は分子量が大きく、うまく分解(消化)されないと、体の栄養素とならず、反対に異物となって、体が排除しようとすることがある。
 例えば、発育の不十分な子犬が高タンパク質の食べ物を食べ、消化不良で下痢をすることもある。体力、免疫力の弱った高齢犬がおなかを壊すこともある。さらに、それがきっかけになって、その時食べた肉や卵にアレルギー反応を起こすようになる可能性もなくはない。しかし、ある時、ある食べ物で下痢を起こしたからといって、必ずしも、それだけで食物アレルギーになるわけではない。
 なぜ、ある個体が、ある食べ物に食物アレルギーを起こすのか。多分、それには体質的な問題もからんでくるのだろうが、具体的な因果関係は不明である。

【治療】
まず、食物アレルギーかどうかを診断し、何が原因物質(アレルゲン)かを特定する
 
 食物アレルギーは、一度発症すれば、程度の差はあれ、生涯治るものではない。しかし、「治らない病気」だからといって、「治せない病気」ではない。
 では、治すにはどうすればいいのだろうか。その第一歩は、体のかゆみや湿疹などの症状に悩んでいる犬が、本当に食物アレルギーかどうかを適切に診断することである。そのためには、食べ物の「除去食試験」を行うのが有効といえる。
 これはまず、これまで食べていた食べ物を一切食べず、食物アレルギーを起こしにくい療法食のようなフードだけを6週間から8週間食べることから始まる。その期間、通常のフードやおやつなど、それ以外の食べ物を一口も食べさせてはいけない。もし、この期間にかゆみや湿疹などが改善していけば、症状の原因が食物アレルギーだったと判断できるだろう。
 なお、同様の症状を現すアトピー性皮膚炎も食べ物を要因とすることもあるが、その場合、食べ物だけでなく、花粉やハウスダストマイト(家のほこりの中にいる小さなダニ)などいくつかの原因物質(アレルゲン)が関係していることが多く、療法食だけで症状がすべて治まってしまうというわけではない。
 この試験によって食物アレルギーと診断されれば、次は食べ物の中で何がアレルゲンかを確かめるために、1週間単位で異なった種類の食べ物を順次加え、症状が悪化するかどうかを調べていく。例えば、最初の週は牛肉を与え、それで問題なければ、次の週は豚肉を試す。さらに翌週は卵、その次の週は小麦粉、などのようにである。その過程で、もし卵を与えた週に症状が悪化すれば、卵がアレルゲンと考えることができる(アレルゲンが複数の場合もある)。
 アレルゲンが特定できれば、それを含まない食べ物を与えていけばいい。もし、アレルゲンが複数あって、市販フードを選ぶことが難しければ、除去食試験で使った療法食を与え続けてもいい。

【予防】
症状が出れば、病因の究明、アレルゲン(原因物質)の特定に力を注ぐ
 
 食物アレルギーを予防することは難しい。食物アレルギーは、かゆみなどの症状が出た後、厳格な除去食試験を行っていかなければ、それが食物アレルギーかどうかさえ診断できないためである。
 繰り返すが、もし、食物アレルギーと診断され、さらにアレルゲンが特定できれば、それを含まない食べ物を選び、ずっとその食べ物を食べさせ続ければいい(もし食物アレルギーでなければ、病因は他にあるため、食べ物の選定に悩む必要はなくなる)。また、食物アレルギー対策に作られた療法食を常食としても問題はない。
 食物アレルギーは「治らない」病気だが、「治せない」病気ではないので、気長に付き合ってほしい。

*この記事は、2006年3月20日発行のものです。

監修/東京農工大学 農学部獣医学科 教授 岩崎 利郎


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