歩行障害やけいれん発作が起こる
小型犬に多い「水頭症」
小型犬の歩き方がおかしかったり、けいれん発作が起きたりしたら、
まれに「水頭症」の可能性も考えられる。特に発症例が多いのは
生後6か月未満の子犬。普段から様子や体調をチェックすることが大切だ。

【症状】
歩き方、動作の異常やけいれん発作、意識障害、視覚障害など

イラスト
illustration:奈路道程

 「水頭症」とは、脳内を循環する脳脊髄液が過剰にたまる状態をいう。脳脊髄液は主に脳内の側脳室(にある脈絡叢)で造られ、脳内部から脳表層へと循環しながら脳細胞に栄養をもたらし、老廃物質を運び去る重要な体液である。しかし、何らかの要因で、過剰に造られたり(産生過剰)、流れが悪くなったり(通過障害)、脳外への流出が滞ったり(吸収障害)すれば、脳内にたまる量が増え、脳細胞を圧迫していく。
 脳細胞は、動物の知覚や運動、生命維持などをつかさどる極めて重要な器官である。水頭症によって脳細胞がダメージを受ければ、損傷部位や程度によって、歩行障害やけいれん発作、意識障害、旋回運動(同じ場所をくるくると歩き回る)、斜視や視覚障害などの脳神経症状が、単独で、あるいは重なって発症しやすくなる。
 そのような脳神経症状を示す病気には、水頭症の他、てんかん、脳炎、脳腫瘍、外傷、先天性疾患などの脳神経疾患、あるいは肝性脳症や中毒などの脳神経疾患以外の疾患がある。水頭症はまれな病気だが、M・ダックスフンド、チワワ、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、パグなどの小型犬に多く、大型犬は少ない。なお、生後6か月未満の子犬の発症例が目立つが、それ以降、高齢犬に至るまでどの年齢でも発症する可能性がある。
 

【原因とメカニズム】
外傷、脳炎、ウイルス感染症、脳腫瘍、脳内出血、先天性疾患など
 
 では、水頭症の引き金となる脳脊髄液の産生過剰や通過障害、吸収障害はなぜ起こるのだろうか。
 その要因として考えられるものはいくつもある。

●脳の損傷や脳内出血

 例えば、頭を強く打ったりして、脳に損傷を受けたり、頭部のケガや病気による脳内出血などによって、脳脊髄液の循環に問題が起こることがある。


●脳炎

 ウイルス、細菌、真菌の感染によって脳炎を発症し、水頭症となることがある。なかには、「パグ脳炎」といわれる、パグに多い脳炎が原因となることもある。


●脳腫瘍

 脳腫瘍ができ、それが段々大きくなり、脳脊髄液の流れを止めてしまい、水頭症となるケースもある(特に高齢期の犬に多い)。


●先天性

 その他、先天性疾患の場合もあると思われる。

 このように水頭症発症の要因は様々で、診断のつきにくいケースもあるが、現在、水頭症自体は、CTやMRIなどの画像診断法の普及で発見されやすくなってきた。しかし、CTやMRI検査においては、麻酔が必要となることが多い。すでにいろんな脳神経症状を示している犬や猫に麻酔をすれば、リスクの心配もある。事前に飼い主と獣医師が、診断方法や治療方法についてよく話し合い、お互いが納得した方法を採用することが大切だ。


【治療】
内科的治療と外科的治療、症状緩和と病気の原因治療
 
 水頭症の治療には、水頭症による脳細胞への圧迫を抑えるための治療と、水頭症を引き起こす病気の治療の両方が必要になる。

●内科的治療

 水頭症治療には、内科的治療と外科的治療がある。内科的治療では、まず、脳脊髄液が過剰にたまるのを抑えるための「降圧剤」投与を行う。脳細胞が水ぶくれ状態となっていれば(脳浮腫)、その症状を緩和するために副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を投与する。また、けいれん発作が起こっていれば、抗けいれん剤も必要だ。
 なお、抗圧剤やステロイド剤などの投与はあくまで症状緩和であって、脳脊髄液が過剰にたまる原因を取り除く根本治療はない。そのため、投薬治療によって症状が緩和されたからといって、飼い主が投薬を中止すれば、リバウンドがひどく、一命にかかわらないとも限らない。


●外科的治療

 水頭症の外科的治療には、脳脊髄液を造る「脳室」から「腹腔」まで管を通して、余分な脳脊髄液を排出する「V-Pシャント」手術がある。これは、頭蓋骨に穴を開けて側脳室に管を挿入し、管の反対側を腹腔に挿入する手術である。手術自体、難易度が高く、また、術後、管が詰まったり、脳内への感染症の恐れもあるため、細心のケアが必要となる。
 脳腫瘍によって水頭症を発症している場合、腫瘍組織の摘出手術や放射線治療、抗がん剤による化学療法などを併用する。


【予防】
早期発見・早期治療を
 
 水頭症の要因のほとんどは予防が難しい。
 最初にふれたように、水頭症は生後6か月未満の子犬に発症例が多い。そのため、特に子犬の健康管理が大きな意味を持つ。普段の動作に気をつけ、歩行障害や意識障害、視覚障害、けいれん発作などの症状が疑われたら、できるだけ早く動物病院に連れて行き、早期に診断してもらい、適切な治療を開始することが重要である。

*この記事は、2005年11月20日発行のものです。

監修/長屋獣医科病院 院長 長屋 好昭
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