ケンネルコフ

【症状】
 子犬が、コフォ、コフォ、とはげしい咳をすれば…

illustration:奈路道程
 寒い季節、飼い始めたばかりの子犬が、急に「コフォ、コフォ、コフォ…」とはげしい咳(せき)をしだしたら、要注意。「ケンネルコフ」の可能性がある。
 「ケンネル」とは英語で「犬舎」、「コフ」とは「咳」のこと。つまり、「ケンネルコフ」とは、犬がたくさん集まる犬舎などではやりやすく、咳の症状がめだつ、ウイルス感染などによって引き起こされる伝染性気管支炎や咽喉頭炎(合わせて「上部気道炎」という)のことである。
 ケンネルコフを起こす代表ウイルスには、人のカゼの原因として名高いインフルエンザの親戚、犬パラインフルエンザや、犬伝染性肝炎の原因ウイルスと非常に近い関係の犬アデノウイルスII型がある。また、ウイルスだけでなく細菌(ボルデテラ)も深く関与している。いずれも上部気道炎を引き起こすが、単独で感染した場合、症状はそれほど重くない。ケンネルコフは、これらのウイルスや細菌に一つ以上感染したときに起こる。
 通常は、ウイルス感染して一週間から十日前後で治ることが多いが、体力、免疫力のとぼしい子犬の場合、はげしい咳で体力を消耗し、さらに肺炎などの二次感染を起こして、たいへんな目にあうこともある。
 あるいは、子犬がはげしい咳をして、「ケンネルコフ」と思っていると、実はジステンパーに感染し、鼻水や発熱、下痢や肺炎、さらにはチックや痙攣などの脳神経症状がひどくなって死に至るケースもある。
 成犬の場合、咳がひどいと、フィラリア症や心臓病、気管虚脱など、いろんな病気の可能性がある。単純に、「咳」=「かぜ(ケンネルコフ)」と思い込まないことが大切だ。

【原因とメカニズム】
 ウイルス感染した犬の唾液や痰からの飛まつ感染
   「ケンネルコフ」の要因となる犬パラインフルエンザウイルスなどは、一般に、犬が定期接種する混合ワクチンで予防できる。
 しかし、ワクチン接種前の子犬、あるいはワクチン接種回数が少なく、ウイルス感染を防ぐほど免疫力の高くない子犬が、自宅にやって来る前や外出時に、ウイルス感染した犬たちが咳をして、まわりにまき散らした、ウイルスのひそむ唾液や痰(たん)などが直接口内に入ったり、からだについた唾液や痰をなめてしまったりすれば、感染することも少なくない。
 とくに寒く、空気の乾燥する冬は、寒冷による体力の低下だけでなく、空気の乾燥により、気道粘膜の働きが弱まり、これらのウイルスや細菌を体外に排出する機能が弱まる。子犬たちも、母犬から離され、慣れない環境に置かれると、心身ともに弱り、抵抗力も落ちてきて、ウイルス感染しやすくなる。
 また成犬でも、高齢や他の病気などにより、体力、免疫力が落ちてくると、たとえワクチン接種していてもウイルスに感染するケースがないとはいえない。犬パラインフルエンザウイルスやボルデテラといった細菌は、日常的に犬たちを取り巻く環境に存在している。したがって、成犬になっても、からだが弱まるときに感染を起こすことがある。

【治療】
 咳や炎症を抑え、体力、免疫力の回復をめざす
   はじめに述べたように、「咳」という症状だけで、すぐ「ケンネルコフ」という診断をくだすことはむずかしい。とくにウイルスの同定、つまり、ほんとうに犬インフルエンザウイルスに感染しているかどうかをチェックすることは簡単ではない。子犬なら、ジステンパーかどうか、成犬なら心臓病や気管虚脱などの病気があるかどうか慎重に見きわめる必要もある。とりわけワクチン接種の有無や回数、さらに「咳」をする数日から一週間ほど前に、ウイルス感染する機会があったかどうか、という感染の可能性を確かめることが重要だ。
 ケンネルコフの治療方法といっても、直接、ウイルスを退治する薬剤はない。対症療法で、咳を鎮め、炎症を抑えるために、吸入治療や抗生剤、鎮咳剤の投与をおこなったり、点滴や栄養剤を投与して、体力の回復をはかっていく。そうして、愛犬の免疫力を高め、自然治癒するのを手助けするわけである。
 ふつうは数日から一週間、あるいは十日前後で元気をとりもどすが、ときには、愛犬が弱っていたりすると、症状が長引き、肺炎などを併発することもある。人でも同じだが、「かぜ」、「咳」といって油断すれば、厄介なことになるおそれもある。

【予防】
 ワクチンが済むまで複数の犬が集まるような
 感染しやすい場所を避ける
   子犬を飼い始めるとき、健康状態をよくチェックし、動物病院でよく相談して、ワクチン接種をきちんとおこなうことが大切だ。また、ワクチン接種を必要な回数だけ済ますまで、いろんな犬たちが集まる場所に連れていかないようにする。また、清潔で快適な環境を整え、十分な栄養と休養、飼い主家族とのスキンシップなどを与えて、愛犬が元気はつらつとした生活をすごせるように努めること。とくに感染しやすくなる冬場は、暖かい環境とこまめな換気、適度な湿度が必要だ。
 毎年、ワクチン接種している成犬でも、高齢化すれば、寒い冬はからだが冷え、体力、免疫力が低下して、外出時、ウイルス感染しやすくなる。住環境や食生活、スキンシップやスキンケアなど、こまやかな気づかいを忘れないでいただきたい。

*この記事は、2002年11月20日発行のものです。

監修/千村どうぶつ病院 院長 千村 収一
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