血便が出る
どんな病気の可能性があるのか?
一言で血便といっても、体内からの出血の場所は様々。
それによって血の混じり具合も色も異なる。
じっくり観察して、危険な「兆候」を見逃さないように。

【症状】
ウンチの内外のどこに、どんな色の「血」が付着、混入しているか

イラスト
illustration:奈路道程

 「ウンチに血が混じってる!?」
 愛犬のウンチを片付けようとして、血便を発見し、驚いたことはないだろうか。そんな時、大騒ぎせず、じっくりと便の状態を調べ、冷静に愛犬の体調を観察し、ウンチ持参でかかりつけの動物病院を訪ねてほしい。
 ウンチは、口から入った食べ物が食道・胃・十二指腸・小腸・大腸と順に通過するなかで、撹拌・消化・吸収されたあとの「食べかす」がひとかたまりとなって肛門から排せつされた物だ。だからウンチに血が混じっていれば、口から肛門までのどこかで出血が起こっているはずだが、それ以外にも原因はある(後述)。一口に「血便」といっても、実際は多種多様。その血便がどんな状態かをよく見れば、口から肛門までの体内のどのあたりから出血しているか、推測できることも少なくない。

●ウンチの外周に鮮血が付着

 食べかす(ウンチの元)は大腸(結腸)の前半部分で水分やミネラルが吸収され、固体化しながら直腸の手前まで下ってくる。そこで一定量が蓄えられ、便意をもよおすと、一気に直腸を通過して肛門から外界に出る。だから、ウンチの外周に鮮血が付いていれば、大腸後半(下行結腸・直腸)から肛門までの間で出血している可能性が高い。


●ウンチの内外全般に血が混じる

 ウンチの内外全般に血が混じっていれば、食べ物が消化され撹拌されてドロドロ状態の小腸や大腸前半での出血を疑うことができる。


●血の色が黒っぽい

 さらに、血便の血の色が黒っぽいのなら、胃や小腸で消化液の作用を大きく受けているため、小腸から上、つまり口から胃、小腸に至るどこかが出血部位と考えられる。血便は一般的に赤いものだが、広い意味では黒いものも含まれる。黒いタール状便(メレナ)では、より深刻な場合が多い。

 


【原因とメカニズム】
中毒、異物のみ込みから、肛門、胃腸、肺・心臓、口腔内の病気まで
 
 血便の要因は、出血部位ごとに様々だ。

●肛門周辺から

 例えば肛門周辺なら、「におい袋」といえる肛門嚢の炎症や腫瘍、肛門周囲腺の腫瘍、肛門周囲瘻(直腸から肛門周辺へ細い通路ができてしまう)、肛門狭窄など。それらの患部からの出血がウンチの通過時に付着するのだ。ウンチが便秘などで硬くて、直腸や肛門の一部が傷ついたり、または逆に下痢のために何度も力を入れて排便するために、粘膜が傷んで出血することもある。さらに骨盤内の腫瘍や会陰ヘルニアなどによって直腸が圧迫されたり蛇行したりして、あるいは直腸脱(直腸が裏返って肛門から外に出てくる)により、粘膜から出血が起こることもある。そのほか、かみ傷などの外傷が原因していることもある。


●大腸から

 その奥の大腸(結腸・直腸)が問題なら、大腸の腫瘍(良性が多いポリープや、悪性のがんなど)や、過敏性大腸炎、特発性大腸炎なども考えられる。


●大腸から小腸にかけて

 大腸から小腸にかけてなら、中毒、寄生虫、腫瘍、異物のみ込みによる腸管の傷、炎症性腸疾患、腸閉塞や腸重積など、要因は様々だ。
 色々なウイルスが原因していることもあり、ひどい下痢の場合、パルボウイルス感染症の疑いもある。生後数か月で、ワクチン未接種の子犬なら、体力も抵抗力も弱く、一命にかかわりかねない。また、免疫力の落ちた老犬なども要注意だ。これらのウイルスは粘膜の育成を阻止するため、出血性の下痢症状を伴うことも多い。赤くドロドロした「トマトジュース」状の下痢便となることもある。もっとも、赤いウンチをよく調べると、食べ物の着色料が原因だったという、のどかな話もある。


●胃や口腔、気管や肺からも

 黒い血便の場合、それほど多くはないが、胃潰瘍や胃がんのケースもある。そのほか、歯茎や口腔内の炎症による出血から、あるいは気管や肺に病巣があり、咳をして出た血痰を自分でのみ込んで起こることもある。また、血液が固まりにくくなる病気によっても血便を起こすことがある。もっとも、血液の多いレバーを食べたりすれば、健康でも黒いウンチになったりする。
 いずれにしろ、致死性の高いウイルス感染症や悪性腫瘍、中毒などの場合、すでに食欲も元気もなく、一目で容態が悪化していることが分かる。


【治療】
出血の原因を的確に診断して、治療する
 
 血便の要因は、このように多種多様。だから、それぞれの病気や症状に合った、適切な治療をしていかなければならない。そのためには、出血部位と要因の確定が不可欠だ。一般的な身体検査、血液検査、レントゲン検査、超音波検査、糞便検査をはじめ、直腸検査、細胞や組織の検査を含む内視鏡検査、バリウム造影検査(肛門から入れることもある)などを行う必要がある場合もある。

●胃腸炎の場合

 下痢がひどければ、脱水症状や電解質のアンバランス、栄養不足を補うため、点滴などで水分や電解質、栄養分を補給する。胃腸の粘膜が傷んでいれば、腸内細菌が体内に入ってしまうため、抗生物質を投与して敗血症を防ぐ。胃腸炎の原因の中には自己の免疫機構が胃腸を攻撃する自己免疫疾患もあり、その場合には免疫抑制剤や消炎剤を投与する。胃腸炎には、ストレスなど心因性のものもあるから、普段の愛犬の生活環境などを見直すことも必要かもしれない。また、食事管理はどんな場合にも大切で、特にアレルギーが関与していれば大変重要になる。


●胃や腸の腫瘍、異物のみ込みなどの場合

 胃や腸の腫瘍なら、手術できるものは手術して切除し、必要に応じて、抗がん剤などを投与していく。異物のみ込みなら、場所や物によっては内視鏡で取り出すか、あるいは開腹手術をして異物を取り除き、さらに傷んだ胃腸の部分を切除しなければならないこともある。中毒なら、原因を特定して、必要な緊急処置をする。


●肛門周辺の疾患の場合

 肛門周辺の病気の場合、発見も早く、治療もしやすいことが多い。肛門嚢炎なら炎症を治し、肛門嚢を切除することもある。肛門周囲腺腫や会陰ヘルニアはオスの老犬に多く、去勢手術をしておけば起こりにくい。


●消化器官以外の疾患の場合

 口腔内の疾患なら、それに合わせた治療法が必要だ。注意すべきは、「血痰」がウンチに混じっているケースである。もし、犬フィラリア症で心臓から肺動脈にかけて、たくさんのフィラリア成虫が寄生していれば、手術による除去や駆虫剤投与などを含めた緊急の対処を行わなければならないこともある。心臓病や肺がん、肺炎などの恐れがあれば、緊急事態である。



【予防】
日ごろから愛犬のウンチとしぐさ、動作をよく観察する
 
 ウンチは健康のバロメーター。愛犬の排便後の処理の時、ウンチの色、大きさ、形、固さ、におい、量や内容物などをチェックして、健康状態を判断することが大切だ。日々見ていれば、わずかの異常、異変を察知することもできる。そしてウンチの状態だけでなく、排せつの回数や姿勢、出やすさ、そして、日ごろの愛犬のしぐさや動きにも気をつけること。そうすれば、血便の陰に潜んでいるかもしれない重い病気やケガなどに、素早く対処することもできるに違いない。

*この記事は、2005年3月20日発行のものです。

監修/千里ニュータウン動物病院 院長 佐藤 昭司


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