血尿が出る
血尿は、膀胱や尿道などの病気の大切なシグナルである。
犬の場合、膀胱炎や膀胱結石などが多いが、ときには、前立腺肥大や膀胱がんなどにかかわるものもある。

雌犬に多い膀胱炎

illustration:奈路道程
 オシッコは健康のバロメーターという。
 朝起きて、透明なオシッコがたっぷりと出れば気分爽快だが、茶色いオシッコがしょぼしょぼ出るようなら、気が滅入る。もし、オシッコに血が混じっていれば、ハッとして病院に駆けこむことになる。
 犬やネコは自分から訴えることはないが、飼い主が気づきやすい愛犬、愛猫の健康異常のひとつが「血尿」である。
 尿は、腎臓でつくられ、尿管で膀胱(ぼうこう)に送られてためられる。ある程度以上たまると、副交感神経の働きで膀胱壁が収縮し、出口(内尿道口)の開閉にたずさわる膀胱括約筋(かつやくきん)がゆるんで、尿は尿道から排泄される。だから、血尿があれば、膀胱か尿道、もしくは腎臓、さらに雄犬なら、尿道をかこむ前立腺などのどこかに出血をともなう病因がひそんでいることになる。
 犬の血尿の要因でめだつのは、まず、膀胱炎、次に膀胱結石や尿道結石だ。あるいは、前立腺疾患や、膀胱がんなどの腫瘍、ときには腎臓疾患の場合もある。
 膀胱炎とは、大腸菌などの細菌が膀胱内に侵入して、膀胱の内壁に炎症をひきおこす病気である。おもに犬が六、七歳以上になり、免疫力が低下すると、細菌の侵入を防ぐ力が弱くなる。とくに雌犬の場合、尿道が短いために、外陰部からの細菌感染を受けやすい。そのうえ歳をとると尿が膣にたまりやすく、膣炎になりがちだ。患部で異常繁殖した細菌が、雌犬の短い尿道をつたって膀胱炎を併発することが多いのである。
 膀胱炎になると、膀胱内壁が刺激されて、排尿の回数が増え、患部から出血して血尿となる。もっとも、急性膀胱炎なら、抗炎症剤や抗生剤を数週間服用させれば完治する。

尿の成分が結晶化する膀胱結石や尿道結石
   膀胱結石や尿道結石など、「尿石」にかかわる病気も、血尿の要因となる。
 尿には、尿素をはじめ、ナトリウム、カリウム、塩素、アンモニウム、さらにはリン酸、カルシウム、マグネシウムなど多くの成分がふくまれている。それらが結晶化して「尿石」となるわけだ。ごく小さな尿石は、膀胱から尿道をつたって、体外に出る。しかし、体質的な代謝異常や食餌内容などにより、結晶化しやすい成分が尿内に多ければ、尿石が大きくなって、あちこちにつまり、各器官の内壁を傷つけて、出血する。とくに尿が滞留する膀胱内で大きくなるのが膀胱結石である。食餌内容が原因となるケースが多く、ときには膀胱と同じぐらいの尿石が摘出されることもある。
 膀胱結石は、雄犬、雌犬ともにみられるが、尿道結石は、雄に多い。それは、雌の尿道は太くて短いために、尿と一緒に体外に排泄されやすいが、雄犬のほうは、尿道が長く、また先すぼみになっているので、どうしても詰まりやすいのである。
 大きな膀胱結石を手術などで摘出しても、原因を見きわめて、治療しなければ、また数カ月で尿石に苦しむことになる。
 なお、尿石の成分によっては、処方食を数カ月与えて、尿石そのものを溶かす治療法もある。いずれにせよ、尿石予防には、食生活に注意することが大切だ。フードの選定ばかりでなく、ふだんから水をよく飲ませ、オシッコを何度もさせて、小さな尿石をはやく体外に排泄することを習慣づけるようにしたい。

中高齢期にめだつ前立腺肥大や膀胱がん
   犬は六、七歳以上になると、前立腺疾患や膀胱の腫瘍などもめだってくる。
 前立腺は、雄犬の膀胱の前部で、尿道をとりかこむように存在する生殖器官である。前立腺が出す分泌液は、精液の一部となり、精子の運動機能を高めたり、尿道内を殺菌したりする作用がある。しかし歳をかさねると、精巣の男性ホルモンの影響で、肥大化しやすくなる。それが、いわゆる「前立腺肥大」である。そうなれば、尿道を圧迫してオシッコが出にくくなるばかりでなく、患部が炎症をおこして出血。血尿となる。そのまま放置すると、炎症がひどくなり、血膿が出る「前立腺膿瘍(のうよう)」となりかねない。
 前立腺肥大なら、精巣(睾丸)を摘出する去勢手術を受ければ、短期間に症状が改善される。もっとも、前立腺膿瘍となれば、患部を切開して、洗浄するなどの外科治療が必要となる。なお、雄犬が若いころに去勢手術を受けていれば、前立腺疾患に悩まされることはほとんどない。
 膀胱の腫瘍はほとんど悪性腫瘍、つまり「がん」であり、いったん膀胱がんとなれば、進行がはやく、手遅れになるケースも少なくない。初期の段階で見つかれば、がん化した膀胱の一部を切除すれば治癒する可能性も高いが、なかなか早期発見がむずかしい。
 というのは、膀胱がんに由来する血尿があっても、初期の段階では、血、つまり赤血球の量が少ないために、肉眼では、正常な「尿」としか見えず、そのまま放置しがちなことである。だから、ピンクや赤いオシッコが出て、飼い主が異常に気づき、動物病院で尿検査や超音波検査を受け、膀胱がんと診断された時点では、大きくなりすぎ、またほかに転移していたりして、手術できず、あきらめざるをえなくなることが多い。なお、膀胱がんは、雄犬、雌犬ともにみられるが、とくに雌犬のほうにめだつようだ。
 悪性腫瘍は、六、七歳以上になれば、発現率も高くなる。できれば、ふだんから健康チェックを心がけ、年に一、二回は尿検査などを受けることが大切だ。また、五歳以上になれば、年に数回、できれば季節の変わり目ごとに定期検診を受けることが望ましい。犬は歳をとるのが早い。人同様に「年に一度の健康診断」では手遅れになる病気が少なくない。
 そのほか、「血尿」には腎臓疾患にかかわるものもあるが、それはネコのページでとりあげることにする。

*この記事は、2001年11月15日発行のものです。

監修/麻布大学獣医学部助教授 渡邊 俊文


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