大型犬の子犬が足を引きずったりする
大型犬に多い「骨軟骨症」と「股関節形成不全」
カルシウムの過剰摂取や激しい運動が引き金となる「骨軟骨症」、遺伝性疾患の「股関節形成不全」。
いずれも大型犬の子犬が注意したい病気である。歩き方や座り方がおかしいと思ったら、動物病院でよく調べてもらったほうがいい。

【症状】
足を引きずったり、後肢をスキップする

イラスト
illustration:奈路道程

 よく食べ、元気に遊びまわっているはずの、成長期の“大型犬”の子犬たちが、歩く時、足を引きずったり、頭を下げ、後肢の歩幅を狭めて、スキップするように歩く。ジャンプを嫌がる。オスワリをすると、内股になったり、横座りしたりする。そんな時、どこかの関節に異常がある可能性があるので、動物病院でよく調べてもらったほうがいい。
 例えば、誕生時、450gほどのグレート・デーンの子犬は、生後1年半ほどで、通常、体重68kg前後まで成長するという。単純計算すれば、実に151倍の成長率である。同じ犬でも、小型犬や中型犬と違い、大型犬(体重23kg以上)の子犬の発育具合は想像もつかないほどである。そのためか、大型犬の子犬には、なるべく栄養価に富んだフードをできるだけたくさん与えなければ、という、“間違った”思い込みが広まっているような気配がある。あるいは、毎食のフードに、カルシウム剤などのサプリメントを混ぜたほうがいい、という“誤った”アドバイスがなされることもある。
 実は、子犬期の過剰な食事、過剰な栄養摂取が、関節の“異常”など整形外科疾患の引き金になる場合が少なくない。

【原因とメカニズム】
子犬期の過剰な栄養と運動が引き金になる
 
●骨軟骨症
 例えば、大型犬の子犬がカルシウムを過剰摂取すると、どうなるのか。
 成長期、骨の先端部には骨端軟骨(成長板)といわれる軟骨組織があり、そこにカルシウムやコラーゲンが集まり、骨が形成されていく。成長期に十分なカルシウムを摂取できないと骨が正常に発育せず、「クル病」になる。その反対に、カルシウムを過剰摂取すると、軟骨の「骨化」の働きが阻害され、軟骨部位が分厚くなり、損傷を受ける。これが、大型犬の子犬に発症しやすい「骨軟骨症」である。
 もっとも、体の内部には、カルシウムの濃度をチェックするホルモン(上皮小体ホルモン、甲状腺ホルモン)やビタミンDがあり、それらの働きによって、カルシウムが少なければ、腸からの吸収を高めたり、多過ぎれば、吸収を制限したりする。しかし、生後6か月以内の子犬には、この、カルシウムの吸収調整機能がなく、フードに混ぜて、カルシウム剤をたくさん与えられると吸収を抑えることができない。そうして軟骨部位が分厚くなっていく。
 よく知られるように、肩やひじ、ひざなどの関節を構成する骨の外側は軟骨でできており、クッションの役目を果たしている。ところが、幼犬期にカルシウムの過剰摂取をすると、肩、ひじ、ひざ、足首などの関節軟骨が正常に骨化せず、分厚くなっていく。そうなると軟骨の基底層が壊死して軟骨に亀裂ができやすくなる(亀裂に関節液が染み込むと、痛みを生じる)。
 亀裂の入った軟骨の一部がはがれて、切り離される(遊離)と、いわゆる「関節ねずみ」となる(離断性骨軟骨症)。そうなると、関節に痛みを感じるだけでなく、遊離した軟骨片が軟骨表面を刺激して、2次的な変形性関節症を起こしていく。
 これが、幼犬期、カルシウムだけでなく、リンやビタミンDを含む高カロリーの食事をたくさん与えられた大型犬に発症しやすい病気である。
 なお、ある報告によれば、市販フードを食べたゴールデン・レトリーバーのうち、肘関節に骨軟骨症を発症した犬が14%いたとか、ロットワイラーやバーニーズ・マウンテンなどの大型犬で48%発症したともいわれ、発症の要因のひとつに遺伝的なものがあると考えられている。

●股関節形成不全
 それ以外にも、大型犬に発症しやすい骨の病気として有名なのが「股関節形成不全」である。この病気は遺伝性のもので、遺伝的に病気の素因を持って生まれてきた犬に発症する。といって、遺伝的な素因がある犬がすべて発症するわけではない。子犬期の育ち方(飼い主の育て方)によって発症する割合(環境素因)が約30%あるといわれている。
 では、どんな育て方だと、病気の遺伝的素因を持っている子犬に発症しやすいのか。
 そのひとつが食べ過ぎ、太り過ぎ、肥満である。体重が増え過ぎると、股関節にかかる負荷が大きくなり、異常、問題が起きやすくなる。もうひとつが、運動のさせ過ぎである。


【治療】
運動制限をする「内科療法」と、遊離軟骨を除去する「外科療法」
 
 関節の軟骨部位が分厚くなり、「関節ねずみ」ができたりする骨軟骨症の治療には、内科的療法と外科的療法がある。
 内科的療法とは、症状が軽い場合、運動制限を2〜6週間続ける保存療法を行い、痛みがありそうな(歩き方に問題がある)場合、非ステロイド系の鎮痛薬を投与することがある。しかし、体重の重い大型犬は、正常な場合でも関節への負荷が高いため、骨軟骨症を起こし、関節ねずみがあれば、関節に負荷、負担が高まり、関節炎がひどくなりやすい。
 痛みがあれば、日常生活に支障をきたすため、できるだけ早期に外科療法で、遊離した軟骨片を取りだしたほうがいいだろう。いずれにしても治療については、動物病院でレントゲンやCTなどの検査を受け、しっかりと判断してもらうのが大切である。
 股関節形成不全※の治療法については、以前、何度か取り上げたので省略する。

※股関節形成不全について関心のある方は、動物の遺伝性疾患の診断、データベースの構築などによって、遺伝性疾患に関する科学的な研究と情報提供を行っているNPO法人「日本動物遺伝病ネットワーク(JAHD)」のホームページをご覧ください。
http://www.jahd.org/

【予防】
子犬期に過剰な栄養、運動を避ける
 
 骨軟骨症の病気予防の基本は、大型犬の子犬期、過剰な栄養を与えないことである。小型犬や中型犬の体の成長は通常、1年未満なのに対し、大型犬の場合、生後1年から2年かけて成長する。そのため、成長期に必要な栄養素も、小型犬や中型犬よりも少なくていい。例えば、フード1g当たり、大型犬の子犬に必要なカロリーは3.5〜4kcal(それ以外の子犬は4〜4.5kcal)で、フードに含まれる脂肪の割合も大型犬の子犬は15%以下(それ以外、20%ほど)。必要なカルシウムもフード量の1%ぐらいである。
 つまり、大型犬は、ゆっくりと、時間をかけて大きくなるようにできているのである。
 それともうひとつ、遊び盛りだからといって、成犬が行うような、フリスビーやアジリティなどの激しい運動は避けたほうがいい。ある報告によれば、大型犬は子犬期、時速20km以上の速度で走る(飼い主が自転車で一緒に散歩するなど)と関節に問題が生じやすいともいわれている。

*この記事は、2009年3月20日発行のものです。

監修/おさむら動物病院 院長 長村 徹


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