皮膚がベタつき、赤く腫れる
皮膚炎などが引き金になる「マラセチア感染症」
「マラセチア」とは犬の皮膚に寄生する常在菌のこと。
普段は無害だが、アトピー性皮膚炎などが原因で異常繁殖すると、皮膚炎を悪化させたりと悪影響を及ぼすことも。
愛犬の皮膚がベタついてきたな、と思ったらすぐに適切な対応を。

【症状】
表皮が過剰にベタつき、赤く腫れる

イラスト
illustration:奈路道程

犬の皮膚の断面図  愛犬の皮膚がベタベタと脂っぽく、赤く腫れ、かゆくなる。そんな場合、「マラセチア感染症」の可能性がある。
 マラセチアとは、真菌(カビ)の一種(酵母菌)で、犬の皮膚に寄生する常在菌である。通常、ほとんど無害だが、犬の体に何らかの問題が生じると、異常繁殖しやすくなる。
 まず、皮膚とマラセチアとの関係について述べる。
 動物の体は皮膚で覆われ、外部からの病原体の侵入を阻み、同時に体内の水分が失われるのを防いだり、体温の調節をしたりしている。そんな皮膚の構造は大きく3層に分かれ、下から皮下組織、真皮、表皮となっている。その中で、直接、外気や外的環境にさらされる表皮は、基底層から角質まで何層にも分かれ、一定の期間で新陳代謝していく(これをターンオーバーという)。犬の場合、通常、20〜25日前後で表皮細胞は一巡し、役目を終えた最上層の角質は、フケやアカとなる。
 この表皮の各層の間には脂の層が挟まり、表皮に張り巡らされた皮脂腺とともに表皮に脂分を供給し、角質表面にバリアとなる皮脂膜を形成して皮膚を守っている。
 乾燥を嫌うマラセチアは、通常、口周りや首、耳(耳介)、わきの下や下腹部、陰部周辺などに寄生し、皮膚表面に付着するフケやアカに含まれる皮脂分を栄養源として生きているのである。

【原因とメカニズム】
アトピー性皮膚炎などや、犬種や個体差による皮脂の分泌過多などが引き金となる
 
 犬が健康で、免疫力も高く、皮膚のバリアもしっかりしていればマラセチアがいても問題はない。
 しかし、例えばアトピー性皮膚炎などになった犬がかゆくて体をかいたりすれば、皮膚のバリアが崩れ、角質やその下の表皮各層が傷つきやすくなる。そこで表皮は早く修復しようと新陳代謝の速度(ターンオーバー)を速めていく。そうなれば、表皮各層の間に挟まる脂分の層もどんどん皮膚表面に押し出されていく。つまり、皮脂分を栄養源とするマラセチアが栄養源の急増に伴って異常繁殖し、皮膚炎が悪化していくのである。
 なお、いろんな要因でターンオーバーが速くなり、表皮に皮脂分が急増して起こる皮膚炎を「脂漏性皮膚炎」といい、マラセチア感染症を誘発しやすい。また、外耳炎なども、症状悪化の要因にマラセチア感染症がかかわっている。
 また、犬種によって(あるいは個体差によって)マラセチア感染症を発症しやすい体質の犬もいる。
 例えば、中国(チベット高原)が原産であるシー・ズーなどは、厳しい寒さや乾燥から身を守るために、皮脂の分泌が他の犬種よりも多い。そんな犬たちが高温多湿の日本で暮らせば、体がいつもベタつきがちになり、マラセチアが増殖しやすい。また、パグやフレンチ・ブルドッグなど顔や首、体に深いシワの出る犬種などもシワの間にフケやアカがたまりやすく、マラセチアが増殖しやすいといえる。
 なお、これらの要因で皮膚にマラセチアが異常繁殖する(マラセチア感染症)犬は、球菌など細菌感染も併発しやすくなる。

【治療】
皮膚の基礎疾患と感染症への適切な薬剤治療と角質溶解シャンプーの活用
 
 アトピー性皮膚炎など何らかの基礎疾患がマラセチア感染症の背景にある場合、その両方の治療が必要になる。さらに、球菌などの細菌感染症を併発していれば、3通りの治療が求められる。つまり、アトピー性皮膚炎なら症状を抑えるためにステロイド剤を投与しながら、アトピーの原因物質を特定していき、それら原因物質の接触や摂取をできるだけ控えるような対策を行っていく。
 マラセチアの異常繁殖を抑えるためには、抗真菌剤の投与が必要である。さらに細菌感染には抗生剤の投与が欠かせない。
 万一、アトピー性皮膚炎の症状緩和のためだけの治療しか行われなければ、マラセチアや細菌感染の症状を悪化させる可能性が高い(アトピー性皮膚炎は自己免疫疾患のひとつで、治療薬として活用されるステロイド剤は体の免疫力を低下させるため)。
 それらの治療と並行して、マラセチアの異常繁殖の温床となる皮脂分に富んだフケやアカ、そして過剰な皮脂分を取り除くためのシャンプーが必要不可欠となる。この時、有効なのは角質溶解シャンプーであり、週に2回程度、治療目的で実施するのが望ましい。
 シャンプー時、注意すべきことがある。皮脂分の溶解、除去を目的とするシャンプーでは、シャンプー成分をいかに表皮に染み込ませるかがポイントである。
 まずシャンプーを患部周辺にかけた後、しばらく(10〜15分程度)マッサージしながらシャンプー液を染み込ませ、その後、泡立った状態のまま置いておく。そうして、よくシャワーをかけて洗い落とし、保湿のためにリンスする。その後、ドライヤーを使わず、タオルでよく水気を吸い落としてから(タオルドライ)、自然乾燥させる。

【予防】
定期的なシャンプー&リンスで皮膚を清潔に保つ
 
 アトピー性皮膚炎などを起こしやすい犬たちには、普段からそれらの皮膚炎が悪化しないように適切な薬剤の投与や生活環境の整備を行うことがマラセチア感染予防に不可欠である。また、各犬種や個体差に応じて、適切な成分のシャンプーを定期的に行い、マラセチアの栄養源となるフケやアカ、皮脂分が過剰に皮膚にたまらないように心掛けること。なお、保湿のため、シャンプー後にリンスすることを忘れずに。
 外耳炎予防のため、耳(耳介)の洗浄も有効である。ただし、素人判断で、綿棒を使って耳アカを除去しようとすれば、皮膚を傷め、かえって外耳炎になりやすくなる。要注意である。

*この記事は、2008年7月20日発行のものです。

監修/泉南動物病院 院長 横井 慎一
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