首がねじれる
末梢性と中枢性がある「捻転斜頸」
愛犬の首が片方に傾いたままになったら、それは「捻転斜頸」かも。
内耳炎や脳炎など様々な要因が引き金になって起こる病気で、異変が見られたらすぐに動物病院で確定診断を。

【症状】
首がねじれ、「眼振」が起こる。吐き気がひどくなる

イラスト
illustration:奈路道程

犬の耳の構造  ある日、突然、愛犬の首が左右どちらかの方向に傾き、ねじれていく。「捻転斜頸」である。これは、単に首がねじれるだけでなく、ひどくなると、立っていることができず、横転する。さらには、何度も回転することもある。また、吐き気が激しくなると、飲食ができなくなる。眼球が不随意に、左右(水平)や上下(垂直)、あるいは振り子のように揺れ動く「眼振(眼球振盪)」という症状が現れることもある。
 これらは、内耳の「前庭部」(三半規管と蝸牛の間)が障害された場合に認められる症状である。この前庭障害には、内耳の前庭部が障害されて発症する「末梢性前庭障害」と、生命維持に不可欠な「脳幹」が障害されて発症する「中枢性前庭障害」とがある。
 脳幹に問題が起こる中枢性の場合、前述の諸症状に加えて、顔面まひや手足の運動異常などの脳神経症状が現れることがある。
 末梢性の場合は眼球の運動を調節する神経が障害され、通常、悪い側の眼球が縮瞳して奥の方に引っ込み、瞬膜が出てくる症状(ホルネル症候群)が現れることもある。また、眼振の動き方で障害部位を判定できる場合があり、「水平眼振」の場合は末梢性、「垂直眼振」や「振り子眼振」の場合は中枢性と考えられる。

【原因とメカニズム】
“突発的”な老齢疾患や中耳炎・内耳炎、脳炎などに起因する
 
●末梢性前庭障害の場合
 「末梢性」の場合、細菌や真菌(カビ)、寄生虫(耳ダニ)などによって外耳道が炎症を起こし(外耳炎)、それが鼓膜の奥に広がり、中耳炎からさらに内耳炎を起こして前庭障害を発症することがある。
 しかし、犬の末梢性の症例は8歳以上、なかでも10歳以上の老齢期に“突発的”に発症するものが多く、その原因はよく分かっていない(小さな血栓が脳内の血管を詰まらせるからではないか、という説もあるが、確かめられていない)。
 もっとも老齢期の犬に多い末梢性の前庭障害は、捻転斜頸や眼振、吐き気などの症状が、ある日突然現れたのち、1週間から10日ぐらいすれば症状が治まり、回復していくことが多い。ただし、捻転斜頸の特徴といえる首の傾き、ねじれの回復は遅れがちで、治るまでに数か月かかることもあり、完全には元に戻らないこともある。

●中枢性前庭障害の場合
 脳幹に障害を起こす「中枢性」の場合、何らかの脳炎が原因することが多く、一命にかかわりかねない。
 例えばそのひとつに、通称「パグ脳炎」とも呼ばれる「壊死性髄膜脳炎」がある。このような脳炎は比較的若いパグ犬に認められる。また、マルチーズやヨークシャー・テリア、チワワ、パピヨンなどの小型犬にも類似した脳炎が発生している。はっきりとした原因は不明だが、自己免疫性疾患と考えられている。
 一方、老齢犬では様々な腫瘍が原因となる場合が多い。


【治療】
確定診断して適切な原因治療と対症療法を行う
 
 捻転斜頸など前庭障害の症状が現れた時、それが末梢性か中枢性かを確定診断することが極めて重要である。
 レントゲン検査で中耳内の鼓室胞が濁っている(炎症を起こしている)ことが判明したら、内耳炎を併発している可能性がある(末梢性)。そんな場合、炎症を引き起こしている原因が細菌や真菌、寄生虫かを明らかにして、必要な投薬治療を行っていく。また、鼓膜や鼓室胞に穴を開けて、内部洗浄を施す場合もある。
 しかし老齢期の犬が突発的に発症する末梢性の前庭障害の場合、原因不明のため有効な治療法はなく、対症療法が中心となる。例えば吐き気が激しければ吐き気を抑える制吐剤を投与し、点滴などで栄養と水分を補給して、後は安静にして症状の改善を待つ(先にも記したが、発症後、1週間から10日前後で回復していくことが多い)。捻転斜頸がひどいと横転しやすいので、自宅で看護する場合はケージに入れておいたほうがいいだろう。
 中枢性の場合、MRIなどの画像診断や脳脊髄液検査などによって確定診断する。その場合、まず眼振の様子や運動神経まひの有無によって中枢性かどうかを判断し、より詳しい検査を行っていく。
 脳炎が原因なら、脳の炎症を抑える投薬治療を行っていく。

【予防】
外耳炎の早期治療やワクチン接種など
 
 愛犬の耳垢がたまりやすい場合、何らかの要因による外耳炎の可能性が高い。ひどくならないうちに動物病院で治療してもらうのが望ましい。もっとも、老齢期の犬が突発的に末梢性の前庭障害を発症する場合、予防は困難である。
 中枢性の要因に多い脳炎の場合も原因不明がほとんどで予防は困難である。ただし、「ジステンパー脳炎」とのかかわりも考えられるため、子犬の時からきちんとワクチン接種を行うことは大切である。

*この記事は、2008年4月20日発行のものです。

監修/渡辺動物病院 院長 渡辺 直之


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