お産をする
犬の妊娠・出産、準備から産後のケアまで
愛犬のお産は犬にとっても飼い主にとっても一大事。妊娠前に飼い主が気をつけることは?
出産の時はどうすればいいのか? 犬の妊娠、出産の経過から産後のケアの仕方まで、詳しく取り上げる。

【妊娠】

イラスト
illustration:奈路道程

●妊娠前の注意
 愛犬の妊娠、出産は、犬にとっても飼い主にとっても大変な出来事である。
 通常、性成熟を迎えたメス犬は、以後、半年から10か月ほどの周期で、妊娠可能な「発情期」を迎えていく。しかし、やせ過ぎていれば、たとえ妊娠しても受精卵が死滅する確率が高く、また胎仔(動物の場合、「胎児」ではなく「胎仔」または「胎子」)が大きく育つべき妊娠後期、母犬が栄養不足になって胎仔の生存率が低くなる。一方、太り過ぎだと、受胎率が低く、妊娠しても流産、死産、難産の確率が高くなる。普段から適切な質と量のフードを与え、適切な散歩や運動を行い、健康な状態を維持していることが大切である。また、交配前に必要なワクチン接種、フィラリア予防などを済ませておくこと。純血種であれば、遺伝性の病気がないか事前に獣医師に相談したほうがいい。
 なお、ビーグル犬65頭を調べたある報告によると、高年齢になればなるほど出産頭数が減少し、子犬が乳離れするまでの死亡率も高くなるという。

●妊娠前後
 メス犬がオス犬を受け入れる発情期間は平均9日間で、妊娠期間は62、63日前後といわれるが、卵子は排卵後、数日しないと受精可能な成熟卵子とならないため、正確な出産予定日を予測することは難しい。
 また受精後、受精卵は5、6日たって子宮内に降りてくるが、受精後15日目ぐらいに着床し、発育して20日ごろには各器官が形成され、胎仔と呼ばれ始める。とりわけこの期間中に何らかの悪影響があれば奇形をもよおす可能性が高いので、投薬や(人の)喫煙などは控えることが大切である。
 なお、受精後28日以降になるとエコー検査で胎仔の心拍を確認することができる。受精後38〜47日ぐらいになるとエコー検査で胎仔の骨格が見え始め、分娩前1週間になるとX線検査で頭数を確認することができる。
 妊娠中の食事については、妊娠中期までは通常通りの量で良い。胎仔が大きく発育し始める5、6週目ぐらいから通常の2割5分か3割増しに増やしていく。妊娠期間中、過保護になってフードを与え過ぎたり、運動不足になったりすれば肥満傾向になって母子ともに問題を生じやすくなる。また、母犬にカルシウムを与え過ぎると、体内でのカルシウム循環が妨げられ、母犬が低カルシウム血症になって難産の要因になりかねない。要注意である。


【出産】
 
●分娩前
 犬は、自宅出産が基本である。
 分娩時期が近づいてくると、母犬は食欲が落ち、安心してお産のできる場所を探して家の中をうろうろし始める。そこで、予定日の10日前ごろには「お産箱」を、家の中の、人の出入りの少ない静かな部屋、場所に置いて、母犬がそれになじむようにしてあげる必要がある。なお、お産箱は、母犬が簡単に出入りでき、一方、生後日の浅い子犬が乗り越えられないほどの高さと、母犬がゆったりと寝転び、子犬たちにお乳をあげたり、世話したりできる広さを備えたものが良い。

●分娩直前
 分娩の最初の兆候は「開口期」と呼ばれる、子宮の入り口(子宮頸管)が開く時である。このころになると、母犬はお産箱の内外をぐるぐると回ったり、寝床を引っかいたりと落ち着きがなくなってくる。また、おなかが気になって下腹部をなめたり、体温が下がって体が震えたりする。
 この「体温低下」が分娩直前のしるしである。通常、分娩2日前ぐらいから体温が下がりだし、12時間ほど前には37℃(平温は38〜38.9℃)付近まで低下する。体温計で直腸温を測り、低下が見られればスタンバイである。
 やがて陣痛が訪れ(産出期という)、じっと座ったり、横になったり、目を閉じて痛みに耐えたりする。初産の場合だと痛くて鳴くこともある。分娩前後は極度に神経質になるので、少し距離を置いて様子を見守るほうがいいが、母犬が初産で甘えん坊の場合は、付き添ってあげる必要があるだろう。

●分娩
 陣痛が激しくなり、母犬がいきみだすと、最初の胎仔が子宮から産道に降りてくる。この時、羊膜(胎嚢)の外側の膜が破れて第1次の破水がある。
 やがて胎仔が羊膜に包まれたまま(途中で破れることもある)産道から姿を現してくる。それからしばらくしてようやく第1子の「出産」となる。母犬が胎嚢をかみ切って(2次破水)子犬を出し、顔や体をきれいになめてあげ、無事、誕生となる。
 その後しばらくたって第2子、またしばらく間を置いて第3子の誕生となるが、それぞれの分娩の間、時間がかかる場合も多いので、その間、気分転換に母犬におしっこさせたり、少し散歩させても良い。
 なお、子犬の出産後、子宮内から後産(胎盤)が出てくるが、1頭ごとに出る場合と何頭分かまとまって出てくる場合がある。
 予定頭数の子犬がすべて生まれ、後産がすべて出てきたかどうかをよく確認することが極めて重要である。

●難産の場合
 分娩直前、体温が低下しても陣痛の兆候がない時や、子犬がなかなか生まれてこない時は、すぐにかかりつけの動物病院に連絡して、帝王切開が必要かどうか相談したほうがいい(帝王切開に手間取ると、子犬が死亡する確率も高くなる)。なお、子犬の生まれ方は、頭からとおしりからがほぼ半々であり、「逆子」だといって驚くことはない。ただし、頭からの場合は前足が、おしりからの場合は後ろ足が最初に産道から出てこないと、自然分娩は難しい。すぐに獣医師に適切な処置をしてもらわなければならない。


【産後のケア】
 
 出産後、神経質な母犬なら、飼い主でも近づいたり、子犬を触ったりするのを嫌がる場合もある。一方、過保護に育った母犬の中には哺乳放棄しかねない犬もいる。
 産後、通常、2週間前後、母犬は片時も子犬たちのそばを離れず、哺乳に専念する。その間、飼い主は、母犬が子犬たちにお乳をあげ、下腹部をなめてウンチやおしっこをさせているかどうか、よく確認してほしい。また、子犬たちの首に色違いのリボンを結び、毎日体重測定して、それぞれの子犬が順調に育っているかチェックする。そうして、発育の遅い子犬がいれば、優先的にお乳が飲めるように手助けしてあげる。あまり子犬の世話をしない母犬なら、ウンチやおしっこをさせるために、下腹部を刺激してあげることも忘れてはならない。
 なお、授乳期間中、母犬は通常の何倍もの栄養が必要なため、授乳期の特別食を子犬の頭数に合わせて、十分に与えてほしい。

*この記事は、2008年3月20日発行のものです。

監修/寝屋川グリーン動物病院 院長 長村 徹


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