朝、手足の関節に「こわばり」があると…
放置すれば歩行困難になる「関節リウマチ」
犬も人間と同じように「関節リウマチ」になることがある。
最初は朝起きた時に手足の関節がこわばる程度だが、そのまま放置するとどんどん症状が悪化し、いずれ歩けなくなる。

【症状】
「朝のこわばり」から、症状が進行し、ついには関節が変形して、寝たきりに

イラスト
illustration:奈路道程

 朝起きると、前後肢の関節がこわばっていて、うまく動かない。そのため、目が覚め、起き上がろうとしても、しばらくじっとうずくまる。そんなふうにモゾモゾしながらも、歩き始めると、ちょうど「しびれ」が治っていくように、だんだん前後肢の関節が動きやすくなってくる。これが、「関節リウマチ」の初期症状に多い現症である。
 関節リウマチは、関節包に存在する「滑膜」内に生じた「パンヌス(糸くず状の血管の固まり)」が、滑膜から関節の「軟骨」部位に侵入して炎症を起こし、その内部で異常増殖を始め、腫れていく。すると、関節周辺を圧迫して体液(血液やリンパ液)の循環が悪くなる。睡眠中、血液循環は少なくなるが、それ以上に問題なのはリンパ液である。血液は心臓の収縮で循環するが、リンパ液は体の筋肉が動くことにより、体の末端から中心部へと循環する。そのため、関節リウマチになると、睡眠中、関節周辺の体液循環が滞り、いわゆる「朝のこわばり」が起こる。
 しかし、少しずつ体を動かしているうちに体液の循環が活発になり、こわばりが薄れていく。軟骨組織は神経組織がなく、「病態(パンヌス)」がそこに留まっている限り、患部からの痛みを感じない。そのため、動物病院で診察を受けても、視診や触診では異常を発見することは難しい。
 といって、放置していれば大変なことになる。パンヌスが異常増殖を続けて関節の軟骨部位を破壊。硬い骨組織へと侵入して、激しい痛みを引き起こす。関節リウマチは進行性の病気で、関節の変形がひどくなる一方で、歩くこともできなくなる。

【原因とメカニズム】
体の「免疫機能」の異常が引き金になる
 
 関節リウマチは、体の免疫にかかわるヘルパーT細胞(Th)の情報伝達物質(Thサイトカイン)である「Th1」と「Th2」のアンバランスによって起こる病気で、Th1が優位になると症例が発現する。いわゆる自己免疫疾患のひとつで、自己の血管が異常増殖するなどして、自分自身の体を攻撃する病気と考えられている。また、病気の元凶が自分自身の細胞組織のため、自己の免疫によって攻撃されることもない。そのため、最初、指などの小関節から飛節(かかとの関節)、ひじ、ひざなどの大関節へと、左右対称に、関節リウマチが進行していく。もっともこの病気は、関節以外に悪影響を与えることはなく、内臓の働きは正常で、生涯、痛み、苦しみが続くのである。これを「免疫学的堅牢性(イムノロバスト)」という。
 先に、関節リウマチは、「Th1とTh2のアンバランス」によって引き起こされると述べたが、具体的に、どんな異常があるのだろうか。
 外部から侵入する「病原体(抗原)」から体を守る「免疫」には、大きく、病原体を直接攻撃する「キラーT細胞」などの細胞性免疫と、抗原に対応してつくられる、抗原を無毒化する「抗体(免疫グロブリン)」が働く液性免疫がある。このような働きを誘導するのがヘルパーT細胞。つまり、ヘルパーT細胞(Th)は、情報伝達物質(Thサイトカイン)を出して、Th1とTh2のアンバランスを招いて病気を誘導するのである。
 ところが、普段、バランスの取れているそれらThサイトカインが、体に害のある病原体が侵入しなくとも、何らかの免疫機能の異常で、Th1生体反応が過剰になったり、反対にTh2生体反応が過剰になったりする場合がある。これが問題で、Th1が過剰に増えると関節リウマチになりやすく、反対にTh2が過剰に増えると、アトピーなどアレルギー疾患になりやすいのである。



【治療】
早期に病巣を切除したり、サイトカインのバランスを整え、進行を抑える
 
 関節リウマチは進行性の病気で、自己免疫疾患のため、いったん発症したら、根本治療は難しい。とりわけ、病気が進行し、病巣が関節の軟骨部位から内部の骨組織にまで浸潤すれば、治療自体が不可能に近くなる。大切なのは、病気が軟骨部位に留まっている間に、できるだけ早く治療することである。
 例えば、画像診断で軟骨部位にパンヌス(糸くず状の血管の固まり)が見つかれば、その病巣を切除する。また、血管の異常増殖を抑えるため、血管を構成するたんぱく質の変性を抑制する薬剤を投与する。
 さらに、Th1/Th2/Th3生体反応検査で、Thサイトカインのバランスが崩れ、リウマチを促進するTh1生体反応の過剰が見つかれば、その産生を抑え、Thサイトカインのバランスを整える薬剤を投与することである。早期発見・早期治療できれば、この抗サイトカイン療法で、病気の進行を食い止めることも不可能ではない。
 しかし、最初に述べたように、発症後、病巣が関節の軟骨部位に留まっている間は、朝のこわばりで動きづらくても、激しい痛みを感じることはなく、しばらく体を動かしていれば歩けるようになる。そのため、視診、触診レベルでは病気を発見することが難しく、気づいた時には、骨組織にまで病巣が広がり、手遅れになりがちである。



【予防】
ストレスの少ない、Th生体反応のバランスの取れた飼い方、暮らし方を実践
 
 根本治療法のない関節リウマチは、病気の進行を抑えるための予防が極めて重要である。とりわけ、免疫異常を少しでも防止するため、子犬の時から、心身へのストレスの少ない飼い方、暮らし方(LOHASスタイル)を考え、実践する。
 例えば、適度な運動と栄養バランスの取れた食事を継続する(過激な運動、刺激性のある食べ物は良くない)こと。あるいは、しつけ、トレーニングを行い、節度ある生活態度を身につけること。中・高年齢期に発症するケースが多いが、若年性の場合もある。若いからといって油断はできない。
 現在、関節リウマチの治療で動物病院に通う犬はそれほど多くない。しかし、その背景には病気発見の難しさが潜んでいて、統計データによる判断を下すことはできない。これまでの臨床データによれば、シェルティやダックス系統の犬種に多いといえそうである。とりわけ、関連品種の犬と暮らす飼い主は、普段から生活の仕方に気をつけ、万一、様子がおかしい場合は、画像診断やTh1/Th2/Th3生体反応検査で確定診断し、一刻も早く適切な治療を行うことである。

*この記事は、2006年11月20日発行のものです。

監修/日本大学生物資源科学部 獣医学科 助教授 桑原 正人
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