緑内障2

【症状】
眼球の激しい痛みと角膜の混濁、視覚消失状態
イラスト
illustration:奈路道程
 犬も七、八歳になれば高齢期に入り、体のあちこちで問題が起こりやすくなる。その一つが「眼」の病気だ。眼の水晶体が白く濁って見えにくくなる「白内障」は、日々、愛犬の瞳を観察していれば、飼い主にも症状の変化が分かりやすい。しかし、長時間にわたる眼圧異常(高眼圧)によって眼球の奥の視神経が圧迫されて障害を起こし、視野狭窄から失明に至る「緑内障」の進行状態を、一般の飼い主が発見することは難しい。
 例えば、今までスムーズだった、段差や階段の昇り降りに手間取り、足をひっかける。ソファやテーブル、椅子などに顔をぶつける。飼い主が顔を向け、手を振っても、声をかけるまで気づかない。そんな時、視覚異常を疑い、すぐに動物病院で検診してもらった方がいい。急性の緑内障発作が起こると、わずか一、二日で失明してしまう。緑内障は、視神経が障害を起こし、萎縮していく病気のため、恒久的な視覚障害になれば、失った視覚を回復する方法はない。
 といって、むやみに恐れる必要はない。よほどの急性発作でもない限り、それまでに「高眼圧」といわれる、眼球の圧力異常がある。緑内障を防ぐには、何よりも高眼圧の早期発見・早期治療が大切だ。もし、愛犬が眼をショボショボさせたり、涙目がひどかったり、眼を閉じたりしだしたら、要注意である。なお、シー・ズーやパグ、マルチーズなど、頭部が前後に縮まり、「出目」がちの短頭犬種の犬たち、あるいはコッカー・スパニエルなどは犬種的に緑内障になりやすい。


【原因とメカニズム】
眼圧を維持する「房水」の排せつ異常による眼圧上昇が続くと…
   眼圧を維持している、つまり眼球を一定の大きさに保っているのが、「房水」と呼ばれる液体である。房水は、水晶体の周りにあって水晶体の厚みを伸縮させ、眼の焦点を調節している「毛様体」という組織で産生され、血管のない水晶体や角膜に栄養を補給する”命の水“でもある。
 毛様体で産生された房水は、水晶体と虹彩(カメラでいえば、しぼりに当たる)の間を通り、瞳孔から流れ出て、前房(水晶体と角膜の間の空間)内を対流した後、角膜と虹彩の間(「隅角」という)に開く出口(人間では「線維柱帯」、動物では「櫛状靭帯」という)から流れ出す。常に一定量の房水が産生され、一定量の房水が排出されていれば、問題はない。しかし、房水の出口が開く隅角が狭かったり、出口そのものに「フィブリン(線維素)」が詰まったりすれば、前房内に房水が滞留して眼圧が上がり、眼球の奥にある「視神経」、正確には「視神経乳頭」と呼ばれる、視神経が束になった部位が圧迫されて障害を起こしていく。水晶体がずれる病気にかかったり、虹彩などが炎症を起こしたりすると、フィブリンができやすい。
 なお、犬の正常眼圧は、通常、10〜20mmHgといわれ、21を超えると高眼圧になる。何らかの原因で、眼圧が急に50、60ぐらいに跳ね上がる急性の緑内障発作になれば、眼の痛みが非常に激しく、また角膜の組織が壊れて白濁するため、発見しやすい。しかし、25から30前後の場合は痛みもあまりなく、角膜も濁らず、急には視野狭窄も起こりにくいため、放置されがちだ

【治療】
内科的治療と外科的治療で、「房水」の産生抑制と排せつ促進を図る
   視覚障害を回復させることは不可能なため、緑内障の治療と言っても、いかに高眼圧を抑え、病気の進行を食い止めるかがポイントである。眼圧をコントロールするには、内科的、および外科的治療法があり、それぞれ、房水の産生を抑えるか、房水の排せつを促すか、大きく二つの方向性がある。
 眼圧があまり高くない場合、内科的治療も有効で、房水の産生を抑制する内服薬や点眼薬を投与していくか、副交感神経の働きを刺激することによって、房水の排せつを促す点眼薬を投与していく。しかし眼圧が30以上で視覚異常であれば、内科的にコントロールすることが極めて難しい。
 外科的治療には、房水の出口付近となる角膜と強膜の移行部に、弁のような開口部を開けて櫛状靱帯を切除し、そこから虹彩をつまみ出してその一部を切除し、房水の排せつ経路を設ける手術法がある。この手術法は、眼圧が高くても、視覚の確保が可能な場合に適している。しかし、犬の場合、術後、眼球内に炎症を起こしやすいため、定期的に診察していく必要がある。また、術後も、房水の出口にフィブリンが詰まって、再手術が求められることもある。
 もう一つの外科的治療法として、毛様体にレーザー光を照射して、房水の産生を抑制する手術法がある。これは症状の進行が急激で、視覚の損傷が危惧される場合に採用されることが多い。ただし、レーザー光によって毛様体組織を破壊するため、あまりレーザー光を照射し過ぎると、房水の産生が極度に低下して低眼圧になる恐れもある。そうなれば、眼球萎縮の可能性もあり、細心の注意が必要だ。

【予防】
高齢期になれば、定期的に眼圧検査を行う
   緑内障予防には、高眼圧の防止が何よりも大切である。もっとも、犬の場合、まったくの盲目状態にならない限り、不自由を感じない可能性が高く、飼い主の発見が遅れがちだ。先にふれたように、緑内障になりやすい犬種の犬と暮らす飼い主は、愛犬が六、七歳を過ぎれば、動物病院で定期的に眼圧検査を受け、高眼圧の恐れがあれば、早めに眼圧コントロールする方がいいだろう。また、室内外での生活のなかで、視覚の異常らしき動作、眼の異常などを感じたら、すぐに精密検査を受けるべきである。

*この記事は、2004年8月20日発行のものです。

監修/奥本動物病院 院長 奥本 利美
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