大きなしこりができ、膿が出る
感染性と無菌性に分かれる「脂肪織炎」
「脂肪織炎」とは聞き慣れない病名だが、しこりに穴が開いて膿が出る病気で、体のあちこちに発症することも。
中でも近年、M・ダックスフンドの間で増えている無菌性の脂肪織炎には、特に注意したい。

【症状】
体幹部に大きなしこりができ、先端に穴が開いて膿が出る

イラスト
illustration:奈路道程

 皮膚(表皮と真皮)の下には、いわゆる皮下脂肪といわれる脂肪組織「皮下脂肪(組)織」があり、体を衝撃や寒さから守っている。この「脂肪織」に何らかの要因で炎症が起こる病気が「脂肪織炎」である(内臓の周囲にも脂肪織があるが、そこで脂肪織炎が発症しているかどうかは、外から分かりにくいこともあり、ここでは扱わない)。
 脂肪織炎は、主に胸やおなか、脇腹や背中などの体幹部に発症し、発症前後に発熱することもある。最初、小さかったしこりが腫れて盛り上がり、やがてその真ん中が突出して、まるで噴火口のように穴が開き、膿が出てくる。時には、体のあちこちで発症することもある。放置すれば、開口部から新たに細菌が侵入したりして、炎症が脂肪織下の骨や筋肉などに広がれば大変なことになりかねない。
 脂肪織炎の要因は様々で、大きく、細菌や真菌などの感染症によって起きる「感染性脂肪織炎」と、細菌感染とは無縁な「無菌性脂肪織炎」に分けられる(後述するが、無菌性脂肪織炎にも要因がいくつか考えられる)。
 「感染性」と「無菌性」の場合、治療法が異なるため、確定診断せずに治療を始めると、かえって症状を悪化させるケースもある。
 もし、愛犬の体幹部にしこりを見つけたら、症状がひどくなる前に動物病院できちんと診断してもらい、適切な治療を受けることが大切である。

【原因とメカニズム】
細菌感染や遺伝的な免疫介在性疾患など
  ●感染性脂肪織炎
 感染性脂肪織炎は、先にも触れたが、何らかの細菌や真菌が皮下脂肪織に侵入し、増殖して発症するものである。例えば、先の鋭い木片が刺さったり、猫のつめに引っかかれ、傷口が皮下に達して炎症を起こしたり、皮膚のデキモノが化膿して、皮下まで炎症が広がったりすれば、このようなことが起こり得る。この場合、患部が限局していることが多い。しかし、発症時、体調が悪かったり、他の病気にかかっていたりして免疫力が低下していれば、体のあちこちに広がる可能性がある。

※病変が体の一部に限定されていること

●無菌性脂肪織炎
 無菌性脂肪織炎で近年、特に注目されているのが「免疫介在性」と考えられる症例だ。自らの免疫システムが何らかの要因で脂肪織組織を「異物」と認識して攻撃していると思われる。とりわけミニチュア・ダックスフンドに多く、その遺伝子の中に発症を促す「誘発遺伝子」があるのではないかと推定されている(コーギーなどの犬種にも見られる)。この場合、体のあちこちに発症することがある。なお、東京農工大学附属家畜病院で取り扱った脂肪織炎30例中、半数がミニチュア・ダックスフンドで、コーギーは1割であった(残りはシー・ズー、シェルティ、チワワなど)。
 その他、何らかの手術後、手術跡に無菌性脂肪織炎が発症するケースも少なくない。この場合、皮膚縫合に使用された「糸」が脂肪組織にアレルギー反応のような悪影響を及ぼしているのではないかと疑われているが、詳しい因果関係はまだ明らかではない。
 また、皮下注射後、その跡に発症することもある。


【治療】
「感染性」か「無菌性」かを確定診断し、それに合わせた治療を行う
 
 同じ脂肪織炎でも、「感染性」と「無菌性」では治療法が異なるため、最初に注射器のようなもので患部の膿を採取(細胞診)して顕微鏡で見るとともに、それを培養し、細菌感染の有無を明らかにすることが何よりも大切である。
 感染性脂肪織炎なら、抗生物質や抗真菌剤を投与して、細菌や真菌を抑える必要がある。なお、無菌性の時は抗生剤を投与しても症状はまったく改善しない。
 一方、無菌性脂肪織炎の場合、ステロイド剤を投与する。万一、感染性なのにステロイド剤を投与すれば、免疫力が低下して症状が悪化する。数か月、ステロイド剤の投与を続ければ症状が改善していくが、「免疫介在性」と思われる場合、副作用を恐れてステロイド剤投与を止めると、再発することも珍しくない。また、場合によっては、治療と生検(バイオプシー)を兼ねて、病変部を切除することもある。

※病変から組織を一部採取し、顕微鏡で調べる検査


【予防】
体をよく触って、しこりを早く見つけること
 
 感染性脂肪織炎の場合、ケガをしたりデキモノができたりすれば、脂肪織炎が発症しないように、できるだけ早く治療すればいい。しかし、無菌性脂肪織炎の場合、特にミニチュア・ダックスに多い免疫介在性なら、いつ、どの部位で発症するか分からない。もし、体表部にしこりを見つけたら、できるだけ早く動物病院で詳しく検査してもらい、もしそうなら早めにステロイド剤を投与して、症状を抑えること。いったん症状が治まっても、再発する可能性があるため、愛犬の体をよく触り、早期発見、早期治療に努めることが大切である。

*この記事は、2007年9月20日発行のものです。

監修/東京農工大学 農学部獣医学科 教授 岩崎 利郎
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