けいれんしたり、意識がもうろうとなったりする
脳炎に起因する「てんかん発作」
「てんかん」には原因不明の「特発性」と、何らかの要因で発症する「症候性」のふたつがある。
中でも症候性では、近年、主に小型犬に発症しやすい何らかの「脳炎」が引き金になっているものが少なくないという。

【症状】
体がけいれんしたり、強張ったり、脳神経症状を起こす

イラスト
illustration:奈路道程

 ある時、愛犬の体がけいれんしたり、強張ったり、意識がもうろうとなったりすることがある。いわゆる「てんかん発作」の症状である。
 てんかん発作とは、脳内のどこかが電気的にショートして、脳神経細胞が正常に働かなくなる状態が繰り返し起こる「発作」のことをいう。電気的にショートを起こす場所が脳の中心の奥深いところになり、原因が不明のものは「特発性てんかん」といわれる。
 一方、何らかの要因(病気や外傷などで脳神経細胞に異変が起こる)で発症するものは「症候性てんかん」といわれる。この症候性てんかんの中に、近年、主に小型犬に発症しやすい、何らかの「脳炎」が引き金になっているものが少なくないことが分かってきた。
 通常、てんかん発作の治療には、抗てんかん薬を投与して発作を抑え、症状を緩和させていくケースが多い。しかし脳炎が引き金になっている場合、脳炎に気づかずに放置していれば、抗てんかん薬の投与を続けても脳炎の進行を止めることができずに、てんかん発作が続いたりする。また、体や顔のどこかがマヒしたり、首がどちらかに傾いたり、運動障害や意識障害を起こしたりといった脳神経症状が強くなってきて、半年から1年、ひどい場合は数日から数週間、数か月以内に死亡することもある。
 脳炎を発症しやすいのは、パグ、チワワ、パピヨン、マルチーズ、ヨークシャー・テリア、ミニチュア・ダックスフンド、シー・ズー、ペキニーズなどの小型犬が多い。また、年齢的には比較的若い犬に目立つが、高齢期の犬にも発症することがある。

【原因とメカニズム】
原因不明の自己免疫疾患やウイルス感染症など
 
●壊死性髄膜脳炎(パグ脳炎)
 小型犬に目立つ脳炎の中で注目されるものに、「壊死性髄膜脳炎」という原因不明の脳炎がある。これは一般に「パグ脳炎」とも呼ばれるようにパグの発症例が多いが、その他、マルチーズやヨークシャー・テリア、チワワ、パピヨンなどにも見られる。
 これは自己免疫性疾患が疑われていて、細胞が壊死して脳内に空洞ができていく病気である。けいれんなどの発作を始め、視力障害、運動障害、捻転斜頸や昏睡などの症状が現れ、時には急性症状でわずか数日で死亡するケースもある。

●肉芽腫性髄膜脳炎
 やはり原因不明の脳炎に「肉芽腫性髄膜脳炎」がある。これも自己免疫性疾患ともいえるもので、小さなコブ、あるいは腫瘍のような塊(肉芽腫)ができて周りの脳神経細胞に悪影響を及ぼし、視力障害を起こすことも多い(眼型といわれる)。その他、単発にできるもの(焦点性)、あちこちに病変ができるもの(多病巣性)があり、脳内のどこに発症するかによって現れる神経症状が異なってくる。
 なお、肉芽腫性髄膜脳炎は小型犬ばかりでなくあらゆる犬種に発症する。

●犬ジステンパーウイルス性脳炎
 ウイルス性の脳炎には、「犬ジステンパーウイルス性脳炎」がある。これは、よく知られる「犬ジステンパーウイルス」に感染して発症するものだが、予防ワクチン未接種の犬だけでなく、時には、接種済みの犬にも発症することがある。そのような犬の抗体価を調べると、ワクチン接種後も何らかの要因で抗体価が上がらず、低いままで、ウイルス感染したと考えられる。あらゆる犬種に発症し、脳神経細胞が委縮したり、空洞化を起こし、発作や様々な脳神経症状を現していく。

【治療】
てんかん発作と脳炎を抑えるための適切な治療を行う
 
 脳炎が疑われたら、MRIによる画像診断、脳脊髄液検査などで病変の様相や脳炎の種類、病因を明らかにして、それに必要な治療を選択していくことが大切である。
 てんかん発作が認められるならば、抗てんかん薬を投与して発作を抑えながら、それと同時に、例えば壊死性髄膜脳炎(パグ脳炎)や肉芽腫性髄膜脳炎は自己免疫疾患が疑われるため、免疫抑制療法を行って、脳炎の進行を抑えていく。なお、肉芽腫性髄膜脳炎の中には放射線治療が有効なものもある。
 犬ジステンパーウイルス性脳炎の場合、感染した犬の自己免疫力によって、自然治癒することもある。ただし、感染初期の段階で脳炎を抑えるために免疫抑制療法を行えば、ウイルスが生き残り、感染が持続しないとも限らない(病気が進行していれば、免疫抑制療法が有効なケースもある)。その辺りの見極めが重要である。 
 いずれにしろ、脳炎を放置しているとどんどん症状が進行して、半年から1年、早い場合は数日から数週間で死亡することがある。脳炎の種類、症状に合わせて、定期検査をしながら適切な治療を行っていけば、1年から2年、3年と延命を図れることもある。時には、動作も緩慢で意識ももうろうとしていた愛犬が、治療の効果が出て、飼い主の呼び掛けに応え、ひざの上に乗って甘えたり、“犬らしく”なるほどに回復することもある。

【予防】
画像診断や脳脊髄液検査などの精密検査で早期発見、早期治療を!
 
 犬ジステンパーウイルス性脳炎などは、予防ワクチンを接種していれば、感染を防げる可能性が高い。しかし、先に触れたように、ワクチン接種をしていても、抗体価が上がらず、感染するケースがないとはいえない。動物病院で抗体価をチェックしてもらったほうが安心かもしれない。
 壊死性髄膜脳炎や肉芽腫性髄膜脳炎などは原因不明で、いつ、どのようにして発症するか分からない。万一、疑わしい症状があれば、動物病院でよく検診してもらうこと。精密検査が必要なら、MRIなどの画像診断や脳脊髄液検査などを行って、脳炎の有無を、また、どんな脳炎が発症し、どんな病変が形成されているかを調べてもらい、適切な治療をできるだけ早く開始したほうがいい。

*この記事は、2009年1月20日発行のものです。

監修/渡辺動物病院 院長 渡辺 直之
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