血尿が出る
6、7歳以上の犬がなりやすい膀胱炎
頻繁にオシッコに通ったり血尿が出る「膀胱炎」。
高齢期の犬がかかりやすく、きちんと完治させないと、再発や、慢性化しやすいので注意が必要だ。

【症状】
排尿回数の増加や血尿

イラスト
illustration:奈路道程

 愛犬のトイレシーツがピンク色に染まっていて、「血尿だ」と慌てて動物病院に駆け込むことも少なくない。血尿は、泌尿器系の疾患の代表的な症状の一つで、腎臓から尿道、前立腺に至る様々な要因が潜んでいる。その中でも多いのが「膀胱炎」である。
 膀胱は、伸縮性に富む、筋肉組織の薄い膜からできていて、腎臓で作られる尿を蓄える。一定以上尿がたまると、副交感神経の働きで尿意を感じ、尿道括約筋がゆるんで、尿は尿道から体外に排せつされる。しかし、膀胱内壁の粘膜に炎症が起これば(膀胱炎)、炎症により内壁が刺激され、尿が十分にたまらなくとも尿意が起こり、排尿回数が増える。「うちの子、このごろ、すぐにオシッコをしたがって」という場合などがそうだ。
 炎症がひどくなれば、膀胱内壁からの出血も増え、尿も、肉眼で見えるほどに色づいていく。ピンクから赤になれば、かなり症状が進んでいるといえるだろう。
 膀胱炎は、犬の体を含め、身近な生活空間に潜む細菌が尿道から膀胱内に侵入し、異常繁殖を起こす病気だ。健康な動物であれば、自分の免疫システムのおかげで無菌状態に保たれている(尿も、体外に排せつされたばかりならきれい)。万一、細菌が膀胱内に侵入をはかっても、すぐに退治される。
 

【原因とメカニズム】
加齢や余病による体力、免疫力の低下と細菌感染
 
 では、どうして膀胱炎が起こるのか。
 膀胱炎になりやすいのは、6、7歳以上の高齢期の犬で、メス犬のほうがなりやすい。歳をとれば、誰でも体力が衰え、免疫システムも弱くなってきて、細菌が膀胱内に侵入しやすくなる。特にメス犬の場合、歳をとると、排尿後、膣周辺に残尿がたまりやすく、膣炎が起こりやすい。膣周辺で異常繁殖し、勢力を増した細菌が尿道から膀胱内に侵入し、内部で異常繁殖しやすくなるのである。一方、オス犬も歳をとれば包茎のペニス先端が不潔になりやすく、膀胱炎の可能性も高くなる。
 さらに、高齢期になると、膀胱の伸縮力が衰え、排尿後、膀胱内に尿が残りやすくなる。その他、膀胱内に尿石ができたり(膀胱結石)、腎臓や肝臓、前立腺などの病気が潜んでいれば、体調もすぐれず、細菌感染も起こりやすくなる。また、普段から犬の排尿の機会が制限されていれば、膀胱内にたくさんの尿がたまりがちとなり、膀胱の筋肉組織が伸びきって、断裂しやすくなる。そうなれば、膀胱内壁が外傷性の炎症になりかねない。知らない間に、膀胱炎発症の素地ができていくのである。
 もっとも、症例は少ないが、生後1、2年の犬に(若年性)膀胱炎が発症するケースもある。そのほとんどは、膀胱の奇形などの先天性の泌尿器系疾患から起こると考えられている。

【治療】
適切な抗生物質や消炎剤などの投薬治療
 
 膀胱炎は、適切な抗生物質と抗炎症剤の投与で治療する。急性膀胱炎の場合、それほど症状が悪化していなければ、通常、1〜2週間、きちんと薬剤投与を続けていけばほとんどが治癒する。ところが、中途半端に治療を中断すると、再発しやすい。
 例えば、治療を始めて3、4日たつと、細菌の活動も衰え、炎症も表面的には収まってくる。排尿の回数も減り、血尿も肉眼で判別できなくなれば、飼い主が自分の判断で投薬を中止することも少なくない。そうすれば、膀胱内壁の粘膜内に身を潜めていた、生き残りの細菌が少しずつ勢いを増し、膀胱炎を再発させることになる。再発を重ねると、慢性化して、最初、1〜2週間の投薬で治癒できたのが、3週間から1か月、さらに1か月以上と長引いていく。
 また、何度も再発を繰り返すうちに、使用できる抗生物質が少なくなってくる。そんな場合は、慎重に有効な薬剤を選別してから、治療を行う必要がある。
 問題は他にもある。慢性化すれば、膀胱内壁がぶ厚く、固くなってきて、伸縮性を失っていく。そうなれば、細菌も繁殖しやすく、また、膀胱も尿を十分ためることができなくなり、何度も尿意を催し、排尿回数も増えてくる。もし、余病を併発していれば、免疫力も低下しているため、さらに膀胱炎を再発しやすくなる。
 とにかく、膀胱炎と診断されれば、獣医師の処方する薬剤を、決まった分量、決まった回数と日数だけ、きちんと愛犬に服用させること。また、治療途中で尿検査をして、細菌の有無を確認してもらい、治癒するまで治療を継続することが大切だ。
 なお、先天的な疾患から(若年性)膀胱炎になった場合、膀胱炎治療ののち、原因となった疾患を治療しないと、再発の可能性が極めて高い。

【予防】
心身の健康を保ち、定期検査を
 
 子犬の時から、適切な食事、運動、グルーミングなどを欠かさず、心身の健康を保ち、体力、免疫力を低下させないこと。特に発症しやすい6、7歳以降は、健康管理に注意し、定期的に尿検査を行うのがいいだろう。万一、発症しても、早期発見、早期治療に徹すれば、それほど問題はない。
 それから、排尿回数などは、杓子定規に1日何回と決めず、犬が自然に尿意を感じた時、排尿できる環境作りを心掛け、膀胱にあまり負担のかからないようにすることも必要と思われる。

*この記事は、2005年10月20日発行のものです。

監修/麻布大学獣医学部 助教授 渡邊 俊文


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