ペットのための快適生活情報P-WELL
HOMEへもどる
 
動物をめぐる人びと
 
バックナンバー

私の場合、どうしてもその絵に描けない最後の一言を言葉にするんです。
犬が主人公の、シンプルで飄々とした、哲学的な絵本を描きつづける絵本作家
きたやまようこさんにインタビューしました。

きたやま ようこさん
1949年、東京生まれ。
小さいときから犬や猫にかこまれて育つ。文化学院卒業。「もし、犬が仕事をもって、自立してひとり暮らしをはじめ、自分で一緒に暮らす人を選べたら、いいよね。そしたら、自分が選んでもらえるか、ドキドキしていたりして(笑)」。主な著書に「ゆうたくんちのいばりいぬ」シリーズや「じんぺいの絵日記」(あかね書房)、「りっぱな犬になる方法」「イスとイヌの見分け方」(理論社)、「どうぶつことわざえほん」(のら書店)など。現在、筒井康隆氏が執筆中の著書の「挿し絵」を担当。

白熊のようなカーリー(右)ととっても甘えたのピーブー(左)。



「ゆうたくんちのいばりいぬ」シリーズのモデル犬になった今は亡きチェス。




最新刊『ぼくとポチのたんてい手帳(理論社)』
右から呼ぶときはピー。
左から呼ぶときはブー。正面からだと、ピーブー。


 いま、うちに犬が二頭います。一頭はカーリーといって、六年前の二月、保護センターから、処分寸前のを引き取ったんです。とてもやさしい子ですが、とても大きくて白熊のよう(笑)。きっと、下の部屋で眠りこけていますよ。
 この子は、一昨年、北海道でひろってきました。兄弟六匹、生後五十日ぐらいのとき、袋に入れられて、橋の上から川に投げ捨てられていたのを、友だちが見つけて助けだしてきて。そのときは四匹で、次の日、六匹に増えてました。先に流された二匹が、兄弟たちの声を頼りに一晩がかりで川ぞいにのぼってきたのです。まるでお話のようでしょ。
 北海道で三匹、里親を見つけて、残りの三匹をこちらに連れて帰ってきて、知り合いに二匹もらってもらい、残ったのがこの子。名前はピーブーです。なぜって、この子の顔、右と左で全然ちがうでしょ。正面から見て、右から呼ぶときはピー。左から呼ぶときはブー。正面からだと、ピーブー。とても甘ったれの弱虫でね(笑)。
 捨てた人がわかったので、去年の夏は北海道へ里帰りして、親に会わせました。最初の日、母犬は私たちにすごく怒ってたのですが、「子犬を助けて、いい人にもらってもらったから、心配しなくても大丈夫よ」と言いきかせると、じっと聴いていて、最後はシッポを振りました。翌日の対面のとき、はじめ、用心してピーブーを見ていた母犬が、「自分の子」って、わかったとたん、ぴょん、と飛びあがって…。


そんなに急がなくても、かならず、
いろんなことが起こるし、いろんな発見がある


 私、学生のころから仕事をしていましたが、犬を主人公にして描いたのは、もう十何年前でしょうか、「ゆうたくんちのいばりいぬ」が初めてです。そのいばりいぬ「じんぺい」は、私が最初に飼ったハスキー犬がモデルになっています。この写真、見てください。生後六十日ぐらいのチェス。私の家は小さいときからずっと犬や猫がいましたけど、チェスは自分が意識して、連れてきて飼った初めての犬ですから、私にとっては特別な犬です。
 私の作品について、ですか。絵本って、「絵を読む」本ですよね。絵からどれだけのものを読みとるか…。私の場合、どうしてもその絵に描けない最後の一言を言葉にする、という創り方です。それに本って、子どもなら子ども、おとなならおとな、それぞれの人の読み方、人生経験によって、ひとつの言葉でも、とらえ方がちがい、奥行きとか広がり方がちがってくる。それが、私の感性とぴったりと合えば、うれしいですね。
 この春に出した「ぼくとポチのたんてい手帳」は、ウォンテッド、おたずね者というポスターが最初のモチーフで、「ぼくとポチ」が、「あやしい森」や「あやしい海岸」で、「ハチの巣どろぼうのクマ」や「たこのサギグループ」などを追跡する話なんです。でも、今日の手がかりは、これ、次の日は、これ、と、のんびりと、追跡を楽しんでいく…。
 勉強なんかでも、別に急がなくても、今日ひとつできればいい、みたいな、その子なりの速度って、あるじゃないですか。そういうのを理解して子どもに接すれば、自分も楽になるのでは、と思うのです。どうしても、今日中にどの子もみんな理解しなきゃ、というの、つらいでしょ。きっと、教えるほうもつらい。そんなに急がなくてもいい、という価値観の転換…角度を変えてみれば、みんな楽になるんじゃないかな。
 とにかく、その子、その子によって、いろんな熟成の仕方があって、足し算・引き算でも、掛け算・割り算でも、ちょっとはやくできたからって、大したことはない。
 私たちが小さいとき、時間って、豊かだったじゃないですか。一日が長くて、一年がすごく永かった。そんななかで、何をしようかな、と考えている時間って、すごく素敵。でも、いまの子どもは、そうじゃなくて、次にすることが全部きまっていて、かわいそう。
 だから、ゆったりとした時間や空間を、せめて一冊の本のなかだけでも味わってもらえればいいな、と思います。そんなに急がなくても、かならず、いろんなことが起こるし、いろんな発見がある。みんなが自分にとっていちばんいいテンポで、いい時間をすごしてくれれば、それが幸せだ、と。

*この記事は、2001年5月15日発行のものです。



  Top of page ▲
<< [前の記事] [HOMEへもどる] [次の記事] >>