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動物をめぐる人びと
 
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海外撮影から帰ってすぐは、猫たちは知らんぷり。
掃除してると、急に「お母さん、どこに行ってたの」と。

新美 敬子さん(犬猫写真家)
1962年、愛知県豊橋市生まれ。
子どものときから写真に惹かれ、近所の犬や自宅の猫を撮る。高校卒業後、郵便局勤務。のち、テレビ番組制作の世界に入り、海外取材のかたわら、現地の猫を撮りはじめる。やがて独立して上京。犬猫写真家として、ひとり、世界各地を旅して、街角で出会う犬や猫と心を通わし、撮影。写真集やエッセイとして発表する。主な作品に「猫を旅する」「犬を旅する」「猫のアジア」「化け猫のつくり方」など多数。今秋、河出書房新社より「マルタ 世界でいちばん幸せな猫の島」を上梓予定。



どんどん増えて、今や6匹体制に。




新美さんの写真集。世界中の猫や犬たちと出会える(共に河出書房新社)。

以前は自分中心でしたが、いまは、猫が生活しやすいよう、猫のことばかり考えています

 いま、うちには猫が六匹います。
 いちばん年上がチンチラの雑種で十四歳のプーシュキン。名古屋に住んでるときからずっと一緒で、新幹線に乗ってふたりで東京へ来ました。約六年前にミーシャが、その一年後にマリージョゼフィーヌを拾って、その猫の産んだ子がタンニンとペクチン。それで二年間、五匹体制だったんですが、去年のニューヨークテロの翌日、マンションの一階に新聞を取りに下りたら、生後二、三日の子猫が二匹捨てられていました。また拾うと大変だから見ないようにしていたんですが、大きい鳴き声がして、ついのぞき込んだら、かわいそうで拾わないわけにはいかなくて…。急いでママゴト用の哺乳ビンと猫用粉ミルクを買ってきて、二時間おきにミルクをあげて育てました。でも元気なほうの子猫が死に、ダメかと思ったカテキンが生き残って、猫六匹体制になったんです。カテキンは、わたしがお茶を飲んでいると、自分も来て、前足をお茶につけて、チュ、チュ、チュ、と。わたしが育てたから、きっと自分も人間だと思っているんでしょうね。
 一匹で飼っていたときは、猫のことあんまり尊重しなかったですね、自分が中心で。でも、いまは猫中心。猫が生活しやすいように、猫のことばかり考えています。冬は床暖房、夏はエアコンをつけっぱなし、梅雨の時はドライをつけて、と。
 海外撮影のときですか。一匹のときは、知人の家にあずかってもらっていたのですが、いまはもう運べません(笑)。その間、親戚の人に住んでもらっています。海外から帰ってくると、一時間ぐらい、だれも寄ってきませんね。大きな荷物をもって入りますから、怖がるんです。肌も日焼けして黒くなってるし、服も荷物もにおいがちがうのだと思います。
 とにかく帰って一時間ぐらいは、内心わかっているかもしれないけど、知らんぷりしてます。わたしが家のなかを掃除していると、その姿を見てわかるみたい。急に「お母さん、どこに行ってたの」という感じで顔をのぞきに来て、しばらくべったりしています。
 猫の良さですか、やはり見た目が、…太っていても美しいし、どんな動作をしても美しい。それに、いつもここにいて、わたしを待っていてくれること、かな。


猫が一瞬ざわつく瞬間がある。あ、来たかな、と思うと、ギ、ギ、ギ、とドアが開いて…

 わたしは子どものときから写真に興味があって、いま思うと、小学一年のとき、うちの前の太陽軒という大衆食堂のハチという犬を撮ったのが最初です。中学のころは、親戚のお兄さんに借りた一眼レフのカメラをもって、わけもわからず撮ってました。
 高校を出てから七年七カ月十六日間、名古屋のちょっと田舎の郵便局に勤めていたのですが、仕事だけではつまらないので、自分ちの猫を撮ったりしていました。すると、地元のテレビ番組制作会社の社長が、猫の番組を立ち上げたいから手伝ってくれないか、と。写真の勉強もできるし、いいかな、と。それが二十六歳のときでした。そしてテレビの海外取材のとき、空き時間に、まるで収集家のようにいろんな国で現地の猫を撮りつづけ、やがて独立して東京に出て、犬猫写真家として世界中の猫や犬を撮りはじめたんです。
 いま地中海のマルタ島に夢中で、この二年間でもう四回撮影に行き、顔なじみの猫がいっぱいできました。
 マルタには猫がたくさんいて、みんな自然に暮らしています。人びとは猫を大事にしていて、どの通りにも一軒ぐらい猫のごはんを道端に置いている家がある。夕方四時か五時ごろになると、猫たちがその家の前に集まってくる。わたしも一緒に待っていると、猫が一瞬ざわざわとする瞬間がある。あ、来たかな、と思うと、おばあちゃんが、ギ、ギ、ギ、とドアを開けてごはんをあげたりしている。また、マルタには漁師さんがいっぱいいて、網から魚をはずすとき、傷ついたのや小さくて人間が食べない魚は、猫にあげています。
 マルタ島の魅力のひとつに、わたしが写真を撮っていると、いろんな人が話しかけてくることがあります。たとえば、ちょっと変わったおじさんが、「あなたは、前世が猫だ」と言う。なぜわかるの、と聞くと、「実は、ぼくもそうだ」って(笑)。いまは、悲しいかな、マルタ人と日本人というちがう人種に生まれ変わったけど、前世は同じ猫だった、と。
 そんな出会いが、旅の良さ。地球上に何十億人もいるのに、たまたまどこかの国、どこかの町を歩いていて、いろんな人や猫や犬に出会う瞬間って、すごく大事だと思います。わたし、いつも猫に、撮らしてもらっていいですか、と眼で確認するんです。そして、「いいよ」と言ってくれた子だけを撮り、「撮らないで」と言った子は撮ってない。だから、撮影のとき、猫のほうが「ここでも撮ってもらおうかな」とリードする。そんな子たちと遊ぶのが楽しいですね。

*この記事は、2002年9月20日発行のものです。



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