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何匹も犬に出会っても、どの犬も吠えない街がある。
平和な街なんじゃないかな、怪しい人が来ないような。

林 丈二さん(イラストレーター&エッセイスト、路上観察家)
1947年、東京都生まれ。
イラストレーター&エッセイスト。武蔵野美術大学卒業。子どものころからの「調査マニア」で、大学時代、カメラ片手に街角で出会うさまざまな物を写して歩き、本格的な「路上観察」の道に入る。日本、さらにはヨーロッパ各地の街を歩き、ユニークなマンホールの蓋研究をはじめ、看板、装飾、彫刻、狛犬から、犬、猫などを独自の視点で観察。ユーモアあふれる文章と写真とイラストの作品を次々に発表。根強いファンをもつ。かの「路上観察学会」の会員でもある。主な著書に「イタリア歩けば…」「フランス歩けば…」「犬はどこ?」「猫はどこ?」「林丈二的考現学」など。


著書「犬はどこ?」より、“自由への窓”と名付けられた一風景。


「猫はどこ?」より、植木鉢にどっかり座り込んだ“肥やし猫”は、林さんの路上観察仲間の報告写真。同書には、路上で出会った犬猫たちのフシギな光景、笑えるシーンが満載だ。




林さんが40年間に出会った135匹の犬たちが登場する「犬はどこ?」(廣済堂出版)。姉妹編「猫はどこ?」は文庫化されている(講談社文庫)。

前庭のない二階屋の家で、
犬を、一階の屋根の上に
放し飼いしてる家がありました


 小学校のとき、狭い道で犬が真ん中で寝そべっていたら、ちょっと嫌だな、と思うぐらいで、飼ったことはなかったですね。僕は下町で育ったので、放し飼いの犬は多かったですね。
 あるとき、うちの隣りの家の犬と、思いがけなく離れた場所で出会いました。僕のこと知ってるはずなんだけど、気がつかない。知らない人がいるな、という感じで、あれぇ、と思いながら、どこまで行くのか後を追いかけたことがあります。探偵ごっこみたいな、昔の子どもの遊びですね。その犬は、わが物顔ではなく、淡々と走りまわってる。だいたい行く範囲は決まってるみたいでした。
 昔そんなことがあったから、街歩きするとき、そういう犬がいると、後をつけたりしたことがあります。すると、一生懸命逃げる。犬は嫌なんですね、後をつけられるのが。それで隠れたりする(笑)。以前、ストーカーが話題になったとき、犬も嫌なんだろうな、と思ってやめました。でも、放し飼いの犬がいるのは下町的なところが多いですね、人が職住近接で生活しているような…。
 おかしいのは、犬を飼うのに、庭がないのでしかたなく、二階屋の家で、一階の屋根の上に放し飼いしてる家があります。生活の知恵…鎖につなぐのはかわいそうだけど、道に放し飼いすると問題がおきたりするので、屋根の上に、みたいなことなんでしょうが、あれは日本でしか見たことないですね。
 ところで、犬でも吠えるやつは吠えるけど、吠えない犬がいっぱいいるところもあります。たとえば山形県の鶴岡市…。その街で何匹も犬に出会ってるんだけど、僕の顔を見て、「オッ」とするだけで、吠えない。平和な街なんじゃないですか、あまり怪しい人が来ないような。反対に、吠える犬がいる地域は、そこいら中の犬が吠える。
 鶏でもそうです。九州の都城から少し入った田舎の神社に行ったら、近所に鶏を飼ってるらしくて騒いだんです。コケッコーコーって、ね。すると、そのあたりの鶏が一斉に鳴いた。アッ、これは鶏も犬と同じで、地域を守るために団結している、と。もしかしたら、その鶏の親戚だったかも知れないけど(笑)。


その国の言葉を知らなくても、
猫とは、なんとなく
知り合いのような安心感がある


 よく路上観察っていわれるけど、僕は、行ったことのない場所で、まだ見たことがない物、自分の好きな物、「オッ」と思う物を見つけることに興味があります。それ以前に、行ったことのないところへ行きたい、という思いがあるんだけど。
 でも、おもしろい町だと、また出かけます。パリなどへ何度も行くのは、ある期間たつと、町の表情が変わるんです。いつ行ってもちがう。住んでる人も、なんか楽しんでる感じがします。ヨーロッパでは、散歩で連れられている犬はいますけど、放し飼いは見たことがない。その点、猫にはよく出会いますね、とくにイタリアでは、野良猫が多い。
 日本の猫とヨーロッパの猫は、どこか顔がちがうような気がしますが、反応は同じです。人慣れしてるやつは、こっちが害を与えないとわかると出てきて、僕が「ニャオ」と言うと、かならず「ニャオ」と答える。そして足元に来て、からだをすり寄せ、臭い付けをして、地面でごろごろと転げまわる。猫は国がちがっても反応が同じで、それがいい。その国の言葉を全然知らなくても、猫とは、なんとなく知り合いのような安心感がある。
 それにベルギーやフランスなどでは、ショーウインドーのなかに猫がいることが多いんです。そこなら日向ぼっこができるし、だれにも邪魔されない。もしかして、店の主が意識的に招き猫としてショーウインドーに入れているのかもしれません。猫好きが多くて、猫を見て寄ってきたりするから、それはあるかな、と思います。
 でも不思議なことに、ベルギーの隣り、オランダに行くと、そんな猫はいなかった。オランダといえば、最初に行ったとき、街角に犬のウンコがよく落ちてました。まだ日本ではドッグフードなんかあまり食べてないころでしたが、ヨーロッパの犬は食べていて、道を歩いていると、どぎつい色のウンコが…。グリーンだったり、ピンクだったり、真っ黄色のほんとにきれいな色だったり。はじめに食べたのと次に食べたのが色がちがって、すばらしいツートンカラーの配色のやつがあったりする。最初見たとき、食べ物によってずいぶん色がちがうんだな、と思いました。あれも、踏んづける人が気づきやすいというので、やってるのかも知れないな、と(笑)。
 でも日本では、地味な色が多い。着てる物だって、向こうの人に比べると、明らかに地味です。もしかしたら、日本人は、あまり毒々しい食べ物は犬によくない、と思うのかもしれませんね。だから自然素材が受ける、とか。

*この記事は、2002年10月20日発行のものです。



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