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動物をめぐる人びと
 
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ヘンリーのおかげで、医療の向こう側にいる
難病の人たちへの「いたわりの心」を学べました。

山本 央子さん(「家庭犬育成指導活動」推進者)
1958年、大阪市生まれ。
小さいときから犬や鳥と暮らす。国内で建築関係の仕事に従事したのち、1989年、アメリカへ。ニューヨークでのひとり暮らしのなか、1992年、シェルターからヘンリーを引き取り、愛犬暮らしを始める。現地でのボランティア活動を志し、人と動物のペット・パートナーシップ活動をおこなうデルタ・ソサエティのハンドラーとペット・パートナーとなって、病院や福祉施設などへの訪問活動に力を尽くす。前後して、家庭犬育成指導活動に着手。2002年秋に帰国後、「安全で快適な犬との暮らし」「いたわりの教育」の啓発普及活動に専念する。著書に「ヘンリー、人を癒す」(角川文庫)など。



ヘンリー(上)。下はヘンリーと、問題行動が見られるため現在、山本さんが預かっている子と一緒に。。


セラピー犬へと成長していくヘンリーと著者の活動をつづった「ヘンリー、人を癒す」(角川文庫)。
この子を手放したら、
もらい手なんてぜったいない。
自分で何とかしなきゃ、と


 小さいときから犬と一緒に育ったのですが、公園から捨て犬を拾って帰ってくると、母に「育てられないから」と言われて、泣きながら元の場所に戻しに行ったのがわたし。親が何と言おうと捨てなかったのが妹(笑)。だから、自分で見つけてきて、自分で飼ったのはヘンリーが初めてです。
 現実問題として、犬の専門家でもないわたしが、ニューヨークでのひとり暮らしのなかで、家賃を払って、近隣の迷惑にならないように犬を飼うことって、大変でした。シェルターから生後7カ月ぐらいのヘンリーを引き取って、すぐに去勢して、トイレット・トレーニングをして、ぜったい吠えないようにして、と。
 でも、反抗期っていうのか、ヘンリーは自分が遊んでいるとき、呼ばれても行きたくない。すきをみて、何でも拾い食いする…。そんなときは叱りなさい、と教えられて、「ヘンリー、ダメ!」と叱っていると、わたしの目も見ないような犬になってしまったんです。
 最初、うちに来たとき、わたしの後ろをついてきた姿が記憶にあるから、自分がどこかで間違えたのかな、という思いがありました。とにかく、この子を手放したら、雑種だし、7カ月で大きいし、もらい手なんてぜったいない。一生懸命、自分で勉強しながら、何とかしなきゃ、と。
 その頃、ニューヨークに暮らして2、3年。思いもしなかったことがいっぱい起こって、自分ひとりでほんとに暮らしていけるのか、という決断を迫られたときでした。自分は、いざとなれば野たれ死んでもいい、でも、自分の意志でヘンリーを飼いだした責任がある。ヘンリーがいたから、一からやり直すことができたんです。
 そんなふうにヘンリーと暮らしはじめたら、偶然、いろんな人が声をかけてくれて、やりだしたのがデルタ・ソサエティのボランティア活動です。わたし、高校のときからボランティア活動をやっていて、ニューヨークでもボランティアをするつもりで看護婦の友人に相談すると、「ヘンリーを連れてできるから」と。それでデルタの試験に通ったので、ふたりで福祉施設や医療施設の訪問活動を始めました。
 ヘンリーがいてくれたおかげで、わたし、医療の向こう側に置き去りにされている難病の人たちに対する人びとの思いや努力など、いままで見えなかった「いたわりの心」を学ぶことができました。たかが犬、されど犬。犬がいたおかげで、人のこともたくさん、たくさん勉強できて、ほんとによかった。


犬を飼おうと思ったその日から、
お子さんを育てる気持ちで
準備していけばいい


 ヘンリーと一緒に訪問活動をおこなってきたので、よく、うちの犬をセラピードッグにしたいとか、動物で人を癒(いや)したい、と言う人に出会います。
 でも、そこに動物がいて、動物をさわっても、動物は癒しません。「動物介在療法」という言葉があるように、動物を連れてきた人びとの思いと心と、プロフェッショナルな、きちんとした「療法」があるから、人を癒すことができるんです。
 心やからだを病んでいる人の治療に犬を連れてきて、その人が「おすわり」と言っても、座らない。「おいで」と言っても来ない。そうすると、犬にまでばかにされたと思って、その犬をたたいたり、ということが起こります。なぜ、“そこ”に動物が必要か、医療なら医療の、教育なら教育の専門家と、専門的なプログラムを組み立てられる方の介入なしに、動物だけを連れてきてもダメなんです。
 訪問活動は、個人的なボランティア活動で、わたしがニューヨーク時代からいろんな方に教えられながら取り組んできたのが、家庭犬育成指導活動です。
 世の中には、何も知らないで犬を飼いだし、自分が過去に経験したように、つらい思いをされている人がたくさんいます。本来、楽しいはずの犬との生活によって、家のなかがすさんだり、ご近所との付き合いが悪くなったり…なんて、とても哀しいですね。
 たとえば、小さな子どもにトイレット・トレーニングをするとき、失敗しても叱らずに、おまるの上に座らせて、うまくできれば、みんなで喜ぶじゃないですか。それを、犬がその辺でおしっこすれば、どうして叱ったり、たたいたり、おしっこに鼻づらつけて、ってお話しすると、みなさん、「わたし、悪いことしちゃった」と。
 だから、飼い主さんが、犬を飼おうと思ったその日から、自分で勉強したり、専門家に話を聞いて、お子さんを育てるような気持ちで準備していけばいい。なぜ犬がそうするのかを考え、犬に聞くように、わたしたちが彼らのことを学ぶという姿勢が大切です。
 「癒し」だとか「なごみ」だとか、人間から動物に要求するばかりで、動物の要求、思いを考えたことがあっただろうか、ということを考えられる、動物を受け入れる余裕のある社会であるべきじゃないでしょうか。

*この記事は、2002年12月20日発行のものです。



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