
| クロ役には、幼犬、成犬あわせて4頭の犬がキャスティング。なかでも最も活躍した、成年・老年時代を演じた山本クロ。 |

| 主人公・木村亮介を演じる妻夫木聡氏。高校3年生の亮介はクロとの出会いがきっかけでやがて獣医を目指すように。 |

撮影中のひとコマ。用務員・大河内徳次郎を演じる井川比佐志氏とクロ。
以上三点、
『さよなら、クロ』(配給シネカノン)から。 |
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クロが病気でなければ、妻夫木聡
演じる木村亮介は、とっくの昔に
東京に帰っている。
僕は、今まで犬と暮らしたことはないですし、別に好きでも嫌いでもなく、どちらかというと、動物を冷めた視点で見ているほうです。
でも、以前CMの撮影で、トレーナーの人が「この子いいですよ」と言って手渡されたチワワの子犬を抱いた瞬間、その子がおでこを僕の胸元にくっつけてね。「なんだよ、この温もりは…」みたいな、“どうするアイフル状態”になって(笑)。でもそのチワワは珍しい品種で高価だったので、どうにか吹っ切れました。だから、もし、自分が飼い始めたら、違う部分が見えてきて、溺愛するかもしれませんが…。
それはともかく、最初、この映画「さよなら、クロ」の話があった時、製作者の李鳳宇さんが、「これをやらないか」と言わずに、「こんな話があって、犬の葬式をやったらしいよ」って。僕が関心を示すかどうか、試していたみたいです。
僕としては、初めから「ハチ公物語」みたいな犬を主人公とする映画を撮るつもりはなくて、”人が犬の葬式をした“という事実に引かれて、人と犬との関係性を撮ってみたいな、と思いました。
いつもは人と人との関係性を撮っているのですが、人と犬とはない。犬は犬として生きて、人は人として生きて、お互いがたまに交差する点があって、そこを見つめていくと、自然に”物語“になる、と。
クロは、ペットとしてだれかが飼っているというより、学校という場所で、好きに生きながら、いろんな人との関係を結んでいく。そこがポイントじゃないですかね、この映画は。だから犬は物語の真ん中にいるけれど、主役じゃない。人間が主役なんです。ただ、そこにクロがいたことで、別れ別れになった主人公が十年後に再会する。
結局、クロが病気だということが判明しなければ、妻夫木聡演じる木村亮介は、とっくの昔に東京に帰っているわけです。それが帰れなくて、伊藤歩演じる五十嵐雪子と再会し、いろんな思いを抱きつつ故郷に滞在することで、彼らの気持ちが動いていく。
その意味で、クロの果たした役割は大きいですね。
本番中、トレーナーから
「オスワリ」の声がかかっても、
聞かないことを前提に演じていく
映画を撮る時、犬を題材にしようが、人間を題材にしようが、いつもの心持ちと同じでした。ただ、犬の”演技“というのは、もう待つしかない。それと、いちばん気にしたのは、現場の雰囲気です。映画の撮影って、時間のないところで進むから、うまくいかないことが続くと、「これは、大丈夫かな」という雰囲気が漂うでしょ。その犬を見守る俳優やスタッフが、平常心というか、いかにふつうの気持ちでいられるかが重要だったんです。
どこまで感じるか分からないけど、人がザワザワして、焦って気持ちがいらいらすれば、犬だって感じるわけです。だから、犬がドッグトレーナーの言うことだけを聞くというルールにしないと、撮影が成り立たない。犬好きのスタッフは、犬と目を合わさないこと。知らないふりをして、犬の興味を引かないようにしました。
みんなが愛情を持って犬を見れば、現場が温かくなって、犬のほうもそれに甘えてしまう。そうなると表情が撮れない。だから、なるべく犬の存在を無視するわけです。
本当にみんなよくやってくれました。
本番中、トレーナーの声があっても、その声を聞かないことを前提に演じていく。例えば、犬は、トレーナーが「オスワリ」と言わないとオスワリしないから、俳優が集中して演技している時に、「オスワリ」という声がかかって、最初はすごく違和感があった。だけど、俳優もスタッフもそれにだんだん慣れてきて、現場にチームワークが生まれてくる。おそらく、犬のほうも、現場に慣れてくる。それに群れの動物だから、監督がいちばん偉いというのが分かってくるんです(笑)。
とにかく、今までやってきた経験の成果なのか、この映画は落ち着いて撮れました。たしかにできてみないと分からないというのは正しいんだけど、できる前に分かることがある。撮影中に、おそらく計算通りにいっている、平均点を越えたものが撮れている、という手応えを感じました。
僕はいつでも、青春物を撮るなら、青春物のマスターピースになるぐらいのつもりでやっているんですが、この映画も、人と動物の物語として、こういうアプローチの仕方があるのかと、ほかの人が、同じ映画の作り手として、「松岡がやったから、もうあの手は使えないな」と思うぐらいのものを目指してきましたから。
*この記事は、2003年6月20日発行のものです。
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