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動物をめぐる人びと
 
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猫にはいろんな思いを託せるし、
体の曲線が色っぽい。そこが好きですね。

大野隆司さん
(木版画家)
1951年、東京都葛飾区生まれ。1981年に版画家・谷中安規の作品に出合い、木版画の道を歩み始める。猫をモチーフにした作品が多くの人々に愛され、個展、頒布会、雑誌や新聞、本の挿絵や装丁など、様々な分野で活躍。読売新聞夕刊連載の「北村薫のミステリーの小部屋」の挿絵(木版画)で好評を博す。著書に『ねこのてからのおくりもの』『猫の幸福光線』『めげないで』など。

愛猫「テン」と。

ユーモアとメッセージ性にあふれたポストカード。

 そこに黒板が見えるでしょ。若いころ、父親の跡を継いで、そろばん塾をやっていて、このアトリエも教室だったんです。ところが三十歳ごろに、戦前、貧困と放浪の暮らしの中で独自の世界を作り、敗戦後亡くなった版画家・谷中安規の作品に出合いました。その衝撃がじわじわと効いてきて、何年かして自分でも彫りたくなって、塾と並行して独習で木版画を始めました。四十歳ごろに、どうしても木版画だけでやりたくなって…。当時、たまたま教室に来ていた野良猫をスケッチして、猫の版画を作るようになってから運が向いてきました。猫のお陰です(笑)。
 今、うちには猫が三匹います。この子がテン。拾った時、目が“点”だったから。二階にいるのがマダとウル。一匹は拾ってすぐ病院へ連れて行き、名前を尋ねられて、「まだつけてません」と答えたのでマダ。もう一匹は、前の垣根でビービーうるさく鳴いてたからウルです(笑)。
 犬は、長年一緒に暮らした子がいました。最初、塾の生徒が拾ってきて、前の道で「誰か飼いませんか」と呼びかけたんですが、新しい飼い主が見つからず、結局、ここで飼うことにしました。それがクロで、十八歳まで生きてこの九月に亡くなりました。白い骨壷が寂しそうなので、周りにクロが遊んでいる絵を描いてあげたら、ほら、あの世で楽しく暮らしてるみたいで、かわいいでしょ。
 犬も猫もどちらも大好きですが、版画には猫のほうが作りやすいですね。犬はかわいいばかりだけど、猫にはいろんな思いを託すことができるし、オスでもメスでも体の曲線が色っぽいでしょ。そこが好きです。それに、耳があって、目があれば“猫”になる。版画は単純化できるので、ぴったりなんです。
 「描く」というのは、絵でも版画でも文章でも、自分をさらけ出すことですよね。描かずにいられないもの、この人のためにどうしても作りたいものがある。だから、創るという行為は、“ヌード”だと思います。それに自分の中の醜い部分、怒りや不安などがバックボーンにないと、嘘になる。ただ、作品を見る人には、お年寄りや子ども、入院中の人など、いろんな人がいます。初期の作品はもっと暗かったのですが、その人たちを励ましたいという思いがあるので、自然に明るくなってきました。
 わたしは、木版画を彫る時、誰か一人を念頭に置いて、その人への思いを伝えようとして作っています。よく“みんな”と
言うけれど、ほんとは一人ひとり。“その人”に対してやっていることに、別の人が感じてくれたり、意外と普遍的なんです。特に版画は、刷った作品全部が本物で、刷った枚数だけ、“本物”をいろんな人に届けられる。それも一枚ごとに濃淡があったり、色がずれたりして、作り手の意図を超える効果も出てくる。学校教育だと、ずれたら“失敗”なんですが、その“ずれ”がいいですね。

*この記事は、2003年12月20日発行のものです。



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