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動物をめぐる人びと
 
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人間は犬や猫を抱くことで、その時だけ
“体”を回復する。それが“癒やし”の内実では。

photo:松本明彦
押井 守さん (映画監督)
1951年、東京都生まれ。
東京学芸大学卒業。在学中から自主映画を創る。77年、タツノコプロに入り、アニメ制作を開始。80年、スタジオぴえろに移籍。84年、フリーとなる。主な劇場用アニメ作品に「機動警察パトレイバー 劇場版」、「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」など。実写映画に「アヴァロン Avalon」。「GHOST―」の続編となる最新アニメ作品「イノセンス」が今春一般公開。

監督自ら撮影した「ガブリエル」

 小学校のころ、家には代々雑種の犬がいました。昔のことだから、発情するたびに脱走していなくなり、またもらってくる。名前はいつもマルでしたが、僕が覚えているのは「もう家では犬を飼わないから」と、まだ子犬だった最後のマルがどこかへもらわれていったこと。それが悲しくて、学校の帰りにその家を探し当てて会いに行ったことがあります。
 映画が好きでアニメの仕事を始めてからも、いつも犬を飼いたかったのですが、アパート暮らしで飼える環境になかった。ところが四十歳になったころ、突然「犬とも暮らせない生活なんて、つまんない人生だ」と思い始めて、すべてを犠牲にしてもいいからと、熱海に家を建てました。引っ越して二週間目ぐらいに「ガブ(愛犬ガブリエル)」が来たんです。僕は、前からバセットが好き。ガブと暮らしていると、あくせくしているのがバカみたいに思えてくる(笑)。一日中ゴロゴロして、食べることと散歩以外に何かしようという気がまるでない。ただ犬も猫も人間も大好きで、十歳過ぎだけど頭の中は子犬と変わらない。それこそ“イノセンス”なんです。
 今回の映画「イノセンス」では、サイボーグの主人公バトーが犬、それもバセットと暮らしているんですが、そのテーマは、“体”をなくした人間は、なくした“体”をどうやって埋めるのか、です。人間、つまり“頭”だけで生きている現代人は“体”を失って久しいですね。“体”を意識するのは、せいぜい病気やけがに怯えたりする重荷としての体でしかない。その行きつく果ては“脳みそ”人間。だけど、どこかで不安感がある。それを解消する方法は二通りしかない。一つは、動物を通して“体”を回復していくこと。だから、人間は犬や猫を抱くことで、その時だけ“体”を回復する。それが“癒やし”の内実なんじゃないか、と。
 もう一つは、体をもっと積極的になくしていくこと。僕の興味は「人間って、どっちを選ぶのか」ということだけど、ほんと言うと、人間の運命はエデンの園を出た時から決まっている。だから、におわない体、冷たい体、“人形”なんです。でも、それはそんなに悲観することでもない。冷たい体は冷たい体なりに、未来はきっとあるだろうと思うから。
 体に変な幻想は持たないほうがいい。まだ“体”があるんだと思ってしがみついていると、病気や死を受け入れられなくなると思うんです。昔の人はそれなりに死と向き合う知恵があった。でも現代は誰も死に対する覚悟がない。自分自身、三年前、猫に死なれ、もうフカフカになっちゃって、“死”に対して何の用意もできていないことが判明した。他人の死は、肉親でも「年だから」とか受け入れる方法があるのに、自分が愛した動物が死ぬことは受け入れられない。ガブの死も迫っているから、「なんとかしなきゃ」という思いでこの映画を作り始めたんです。

*この記事は、2004年2月20日発行のものです。



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