『盲導犬クイールの一生』
(秋元良平・写真/石黒謙吾・文/文藝春秋) |
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おやじの仕事の関係で、岩手で生まれたんですが、すぐに転勤で四国の宇和島へ。四、五歳まで宇和島近くの野村という田舎町で暮らし、愛犬と裏山を走り回って遊んでました。その後、東京に引っ越ししたのですが、その時の記憶がすごく強いですね。
大学は畜産学科で人工受精卵移植などを学んだのですが、動物が好きなのに、これは違うな、と写真の方に転向。卒業後、夜間の写真専門学校に通いながらバイトで勤めていた新聞社の写真部に一つ席が空き、ろくに写真も撮れないのに入って(笑)、通信販売向けの鍋や包丁、宝石や洋服などを撮ってました。でも、もともと自然の写真を撮りたかったので、新聞社を辞めて長野県へ。白樺湖のほとりでログハウス作りやレストランの手伝いをしながら頑張ったんですが、夢破れて帰京(笑)。フリーペーパーの仕事で、料理やタレントさん、温泉地などを撮りながら、経済的にギリギリで生活してました。
そんなころ、知り合いの方のラブラドールが出産するのでカメラ片手に手伝いに行き、撮る機会がありました。ところが、五頭生まれた子犬の一頭が盲導犬になるため京都に行くことになり、僕、撮りたいけど京都まで通うお金がない。でも、ここまで来たら行くしかない。何度も京都に通って、初めジョナサンと呼ばれたクイールが、視覚障害者の渡辺さんの盲導犬になるまでを最初の写真集『盲導犬になったクイール』にまとめたんです。クイールは、生ませの親、育ての親、しつけの親、渡辺さんと、いろんな人と暮らしましたが、いつも楽しく“普通”に生きていたんじゃないですか。でも、僕が写真を撮りに行くと喜んで、渡辺さんが「そっちの方ばかり向くから、困るんだよ(笑)」と言ってました。僕はなるべく距離を置いて撮っていたんですが、犬好きなので、どうしてもね。
クイールの写真集を出したころ、女性週刊誌の取材で、横浜にある、お年寄りが犬や猫と暮らしている※「さくら苑」という特別養護老人ホームに行きました。僕、以前からさくら苑に興味があったので、桜井苑長にお願いし、その後も時間のある時に通ってました。最初は写真を撮らず、お年寄りの方々と仲良くなって昔話をしてくれるような形になった時、あ、これでやっと撮れるかな、と思いました。カメラって“構える”でしょ。でも、その構えがなくなる時がある。そういう時って、何か、いいシーンに出会えますね。そんなふうに撮った写真を『老人と犬』という写真集にまとめたのですが、僕が一番言いたかったのは、なぜ、動物じゃなきゃだめなの?ということ。写真集の最後は、若い介護士の女性とお年寄りが顔を寄せ合っている写真で、動物は写ってないんです。
確かに動物がいることによって慰められ、生き生きと暮らしている。でも、本当は、人と人が触れ合うことによって、そんな暮らしができるはずなのに、いろんな経験をされ、いろんな知恵を持って生きてきたお年寄りが、家庭や社会で、ないがしろにされ過ぎているこの時代というのが、僕としては、ちょっと違うんじゃないか、と思ったんです。
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日本で初めて施設内にお年寄りと動物の同居を実現させた特別養護老人ホーム。動物との触れ合いによる癒やし効果を高齢者介護のサポートに取り入れ、“寝たきり防止"などに大きな効果を上げている。 |
*この記事は、2004年7月20日発行のものです。
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