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動物をめぐる人びと
 
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猫と人との関係は恋愛と同じで、多少“美しき”誤解はあっても、
「わたしは猫に好かれてる」と。

北村 薫さん (作家)
1949年、埼玉県生まれ。
早稲田大学卒業。在学中はミステリ・クラブに所属。母校の県立高校(国語科)で教鞭を執りながら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年、『夜の蝉』で日本推理作家協会賞受賞。主な作品に『円紫さんと私』シリーズや『覆面作家は二人いる』シリーズ、また、「時」をテーマに数奇な人生を歩む女たちを描く『スキップ』『ターン』『リセット』や『語り女たち』など多数。最近刊に、読売新聞夕刊の好評連載コラムを集成した『ミステリ十二か月』(猫の挿絵・大野隆司)がある。

初めて飼った愛猫「ゆず」と


読売夕刊に連載されていた人気コラムが単行本に。

 猫には感心しますね。夏なんか、あんなに暑くても、多少毛が抜けることがあるとはいえ、あの毛皮を着ていて、そのあとだんだん冷え込んできても、基本的には同じ着物でいるわけだから。我々ならひとたまりもないな、と思います。

 わたしは小さい時から犬も猫も飼ったことがなかったんです。ところが、五、六年前、うちの娘が猫を飼いたいというので、近くのブリーダーさんの所に行きました。そこにいたアメリカンショートヘアの子猫の中の一匹と娘の目が合って、運命の出会いですね。その子が「ゆず」。彼女が、和風の名前がいいといって名付けました。

 家の中に、生きて、動いて、感情を持っている者が、家族以外にいるというのはいいことですね。ゆずが寝てれば、「あ、寝てる」と思うし、夕方、わたしが仕事をしてると、仕事部屋のドアをカリカリして、「飯をくれ!」。朝は早いうちから「朝飯をくれ」といって、みんなのところを回ってる。寝ることと食べることしかないんです、彼には(笑)。普段、あまり鳴かないんですが、おなかが空いた時だけすごく哀れな声で「ミィー」と哀願する。それがかわいいんです。

 虫が部屋に入ってくると、やっつけようとしてじっと見ている。彼は臆病で、自分より強そうな者にはとことん弱いんですが、自分より弱そうな者にはとことん強い。だから小さな虫だと威嚇する。でも、風船の犬を買ってきて、ポンポン弾いて見せたら、驚いて、すごい勢いで二階へ逃げていきました(笑)。

 とにかく、猫は柔らかな感じがあって、心が落ち着きますね。ゆずは、わたしがコタツで寝ていると上に乗ってきて、顔をすり寄せてきたりする。それはいいんだけど、たまに、顔をすり寄せてくる途中で、ウッ、ウッ、と戻しそうな声をあげる。これはいやだな(笑)。最初に吐いた時、わけが分からなくて知り合いに電話したら、「猫は大丈夫だよ」と。やはり、今まで飼ったことがないと、ちょっとしたことでも驚きますね。ほかに大きな病気や事故はないけど、一回、尿道結石を患って、病院に連れて行ってびっくりしました。今は、尿を採って、顕微鏡で観て、「このままだと死んじゃいますよ」と言って、その映像をスクリーンに出して見せてくれるんですね。幸い、食事療法で治りましたけど。

 何かに書いてあったのですが、勤めに出ている女性が帰ってくると、いつも帰り道に「ミャー」と出てきて、足元にすり寄ってくる猫がいた。それを偉い先生が「別に猫に好かれているのじゃなく…」と動物行動学的に説明していた。でも、それじゃ、つまらないですよね。自分の主観として、その猫がわたしを判別できて、わたしを愛してくれている、と思いたい。例えば、恋愛ってのは美しき誤解だというわけですから、やはり、多少誤解はあっても、「わたしは猫に好かれてる」(笑)。

*この記事は、2004年12月20日発行のものです。



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