処分寸前で著者に救われた雑種の捨て犬「チロリ」が、セラピードッグとして育成され、活躍するまでをつづった一冊。
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今日まで大木トオルという人間を助け、支えてくれたのが、音楽と犬たちです。
わたしは東京の下町に生まれたのですが、子どもの時、言葉がうまく出ない吃音に悩みました。世間の人はわたしが話すのを待ってくれない。でもうちの犬はいつまでも待ってくれる。そんな犬たちに勇気をもらい、日々、暮らせたわけです。
それから、十代でFEN(米軍放送)を聴き、奴隷としてアメリカ大陸に連れて来られた黒人たちから生まれたブルースに夢中になりました。英語の歌を歌っていると、すらすらと言葉が出る。それで一生懸命歌を歌って吃音を克服できました。やがて、ブルースバンドを組んで国内で活動したりしていたのですが、無理がたたって二十代半ばに結核に倒れて闘病生活を送り、退院後の一九七六年、渡米。カリフォルニアの黒人街で大らかな“ビッグ・ファミリー”と暮らしてブルースの心にめざめ、再起できました。
その後、ニューヨークに出て自分のバンドを結成し、東洋人唯一のブルースシンガーとして生きてきました。アメリカには、様々な人種の人々が厳しい環境の中で懸命に暮らしています。その中で、自分は、黒人や白人と違い、日本人、東洋人として“イエロー・ブルース”を歌うべきだと気づくことができたのです。
そんなニューヨーク暮らしを始めたころに出会ったのがセラピードッグ活動です。以後、わたしは日本公演で“来日”するたびにセラピードッグの普及活動に携わってきました。セラピードッグはお年寄りや病気の人、子どもたち、引きこもりや自閉症の人々に無償の愛と生きる勇気を与えてくれます。でも、わたしの一番の願いは、年間、何十万頭も捨てられ、殺される犬たちを助け、彼らに生きるチャンスを与えることです。セラピードッグは、対応能力があれば、雑種の犬、捨て犬にも大きな活躍の場があります。この「チロリ」も雑種で捨て犬ですが、セラピードッグとして非常に大きな能力を持っています。捨てられたり、障害を持っている犬たちには、他人の“痛み”がよく分かるんです。
それに、盲導犬や聴導犬、介助犬などは、目や耳、体の不自由な方と一対一で生活していますが、セラピードッグは誰のところでも行くことができます。現在、セラピードッグの素晴らしさが全国的に知られてきて、訪問依頼も多くなってきました。今回の、長野での「スペシャル・オリンピックス」でも、言葉も環境も異なる日本に来た世界中の人々を、レッドクロスのチョッキを着た日本の捨て犬たちが温かく出迎え、とても喜ばれています。
とにかく、人は生きている限り、誰でも老いたり、病気になったりします。それに、生活環境がとても厳しくなって、みんな大きな悩みを背負って生き、誰でもセラピードッグを必要とする時代になってきました。そんなふうに、人間を救っている犬たちの命を救わなくていいのか、と言いたいですね。
*この記事は、2005年4月20日発行のものです。
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