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動物をめぐる人びと
 
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猫の脳に前頭葉を足せば、人間の脳になる。
それで、お互いの感情がすごく読み取りやすいみたい。

米原万里さん (作家)
1950年、東京都生まれ。59年〜64年、在プラハ・ソビエト学校に学ぶ。東京外国語大学ロシア語学科卒業。東京大学大学院露語露文学修士課程修了後、ロシア語会議通訳などで活躍。主な著書に『魔女の1ダース』『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』『オリガ・モリソヴナの反語法』『ヒトのオスは飼わないの?』など多数。 

米原さんとロシア生まれの「ターニャ」


ヒトのオスにはちと厳しい米原さんが、計6匹のイヌとネコとのにぎやかな日常を綴ったエッセイ/文藝春秋

 今、うちには猫が4匹、犬が3匹います。この子は「ターニャ」。10年ほど前、モスクワから連れて帰ってきた2匹のブルー・ペルシャの片方です。姉妹の「ソーニャ」は今年5月26日に亡くなりました。

 不幸な猫や犬と出会うと、その一瞬に決まるんです。「この子には私しかいない」と思い込む。そして、万難を排して連れて帰ろう、となるんです。仕事で大変な時にかぎって(笑)。命あるものを一度引き受けたら、最期までみるのは当たり前。というか、愛おしくて離れられませんよ。それに、生き物が側にいると、私も生き生きしてくるんですもの。

 猫は、絶対に人の言う通りにしないじゃないですか。それがいい。それに体がすごく軟らかいでしょ。犬は、あの、喜ぶ時の表現がすばらしい。イギリスの演劇学校では、演技の勉強のために動物園に行って、動物の物まねをするんですって。私は、俳優が喜びの表現を勉強するには、“散歩に行く”と決まった時の犬の喜び方、あれを学べばいいと思います。体全体で喜びを表現されると、どんなに眠くて辛くても、散歩に出かけようと思いますから。

 犬は、猫よりも表現力が豊かですね。ただ、猫の脳のほうが人間の脳に近い。人間の脳から前頭葉を引けば、猫の脳になる。猫の脳に前頭葉を足せば、人間の脳になる。それで、お互いの感情がすごく読み取りやすいみたい。私、猫の気持ちは、ほとんど分かります。おなかが空いている、甘えたい、優しい気持ちになっているとか。でも、結構嫉妬深くて、ごはんを食べたいけど、この子と一緒じゃ嫌だとか、なでてもらいたいけど、あの子と一緒になでられるのは嫌だ、なんて。

 ターニャとソーニャはロシア生まれだけど、日本で育ったから日本語が分かります。ロシアの猫は、ロシア語で話すと、大体こっちの言うことは分かります。猫って、言葉を身につける能力が優れていて、生まれ育った土地の言葉を理解していく。

 ところで、ターニャとソーニャを連れ帰る時、アエロフロートのスチュワーデスがみんな猫好きで、猫たちが客室を自由に飛び回るのを認めてくれました。

 ロシア人って、ものすごくガチガチに規則を守る時と、規則を無視する時の落差が大きいんです。その点、日本人って、いい人も悪い人も小粒でしょ。ロシア人は、悪い人はうんと悪くて、いい人は“絶望的”にいい。あまりに人が良過ぎるから、“悪”を許してしまうのだと思います。それに、日本人って、強い人には優しくて、弱い人にはいじわるなところがあるけど、ロシア人は逆。どちらかというと、弱い人、貧しい人に優しい。もっとも、金持ちにはよくたかる。いわば、富の再分配をしているのね。ロシアに行って、ロクでもないロシア人が寄ってくるのは、その人が、ロシアではそんなふうに見られている、ということになるのかもね(笑)。

*この記事は、2005年11月20日発行のものです。



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