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平岩米吉という“ブレない”飼い主とずっと一緒にいられて、
犬たちはほんとに幸せだったんだな、と。

片野ゆかさん(ライター)
1966年、東京都生まれ。東洋大学社会学部卒業。人材募集広告会社の営業職を経てフリーライターとなる。05年、『愛犬王 平岩米吉伝(原題『昭和犬奇人 平岩米吉伝』)』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞受賞。他の著書に『旅する犬は知っている』(kkベストセラーズ)、『犬が本当の「家族」になるとき』(講談社)など。

愛犬「ダルマ」と。

犬を愛し、犬の研究に生涯をかけた男、平岩米吉の評伝/小学館

 うちは祖父母からの犬好きで、幼稚園から中学生ぐらいまでグレーハウンドがいました。その犬は、人間に意志を向けてしゃべりかけてくるような、強烈な個性の持ち主で、亡くなったあと、他の犬を飼えなくなりました。ですから、子犬の時から自分で育てたのは「ダルマ」だけなんです。

 13年ほど前、会社勤めを辞めてぶらぶらしていた時期がありました。子犬は最初の半年は特に手をかけないとかわいそうですが、ちょうどそういう時間もあるし、飼うにはいいな、と。夫婦や友人関係と同じで、人と犬も“ペアのニュアンス”ってありますね。それをくみ上げるキャパシティーは、自分で鍛えて勉強しなければ身に付かない。わたしも、ダルマのキャラクターをつかめるようになるまで、5、6年かかったような気がします。

 ダルマと暮らし、犬関係の仕事を始め、色々なことを学んでいく中で、7、8年前に偶然出合ったのが平岩米吉の『犬の行動と心理』です。当時、犬の動物心理学を基本にした、アメリカやイギリスのドッグトレーニング法が日本に紹介されだしたころで、わたしも、「さすがペットの先進国」と思っていました。でも、平岩米吉の本を読むと、犬のしつけの仕方が、飼い主の都合ではなく、かといって犬の言うことをそのまま聞くのでもなく、犬の心理に基づいて、犬がしつけを覚えることで、犬が生活しやすいように導いてあげる、と説かれている。戦前の日本に、最新の欧米流のやり方を実践していた人がいたんだ、と驚きました。その後、彼の生い立ち、生き方を知るにつれ、とても興味をひかれ、本にまとめてみようと思ったんです。

 例えば、平岩米吉の犬科動物研究も、何頭もの犬やオオカミを飼い、家の中も外も自由に出入りさせて観察する方法で、動物行動学者ローレンツのやり方を、世界で注目される30年も前にやっていたわけです。また、戦時中の人間が生きるのも大変な時代に、「人類に尽くしてくれる動物をいたわるのは当然であり、またどんな動物でも虐待してはならない」と動物愛護を訴える。早死にする犬たちを救うため、戦前から懸命にフィラリア撲滅運動に取り組み続ける…。平岩米吉は、わたしにとって、犬関係でこれほどすごい人はいない、という人物ですね。

 今、改めて、平岩米吉にはどうしてこんなに“迷い”がなかったんだろうかと思います。自分で犬を飼っていて感じるのは、自分が迷ったり、気分によって行動を変えたりすると、犬ってすごく不安がるということ。犬と平和に暮らすには、自分がブレてはいけないわけです。平岩米吉には、生涯、そんな“ブレ”がなかった。研究生活そのものもそうですが、何十頭もの犬やオオカミにあれだけ好かれ、混乱もなく暮らすことができたのは、生き方、考え方に、一貫した姿勢が貫かれていたから。“ブレない”飼い主とずっと一緒にいられて、犬たちはほんとに幸せだったんだなと、つくづく思うようになりました。

*この記事は、2006年9月20日発行のものです。



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