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ペットはかけがえのない家族の一員。
病気ともなれば、「最善の治療を受けさせたい」と願うのが、飼い主心だろう。
従来、日本の獣医界には専門医というのが存在しなかった。
しかし、最近では、さまざまなジャンルで、
専門知識と技術を有したスペシャリストたちが登場してきている。
今回は、「外科専門治療」「行動治療」「猫専門診療」「エキゾチックペット専門診療」と、
4つのジャンルで活躍する第一線の獣医師を取材した。

  
“治らない”と思われがちな難病も、
的確な診断と最新の治療法でなおしたい


相川動物医療センター 院長
相川 武先生

 東京都新宿区にある「相川動物医療センター」の院長、相川武先生のもとには、毎日、関東を始め、日本各地から、股関節や膝関節の病気、椎間板ヘルニア、脊椎骨折、悪性腫瘍などに苦しむ犬や猫たちが、最先端の外科治療を受けに訪れている。

 獣医科大学在学中からアメリカの高度な専門医制度に関心の高かった相川先生は、卒業後数年、国内の動物病院に勤務した後、渡米。外科の専門医研修に挑戦して、最新のさまざまな治療技術を修得した。以後、大学病院の脳神経外科や整形外科、軟部外科などの執刀医として多くの症例治療に携わり、帰国後しばらく各地の動物病院の顧問外科医として活動。平成十二年に、国内では珍しい外科専門病院を開設した。

 特にミニチュア・ダックスフンドやシー・ズー、コーギーなどに多い症例の一つに椎間板ヘルニアがある。この病気は、背骨(脊椎)を構成するたくさんの椎骨同士をつなぐ椎間板内部から噴出した髄核が、脊髄(神経)を圧迫して足などをまひさせる。問題の椎間板だけを手術したのでは、この病気になりやすい犬たちは再発しがちだ。相川先生は、手術時、患部ばかりでなく、発症しやすい部位のいくつかの椎間板の髄核を抜き取り、再発を予防する。

 「例えば、股関節形成不全でも、症状がひどくなれば、人工股関節を入れる大掛かりな手術が必要ですが、子犬期、まだ症状が軽い時に病気を発見すれば、予防的な手術で、関節炎がそれほどひどくならずに済みます」と相川先生は言う。

 これまで効果的な治療法のなかった、チワワやヨークシャー・テリアなど小型犬の頚椎(首の骨)が不安定になる病気も、やはり相川先生がアメリカで修得した新たな手術法によって治るケースが増えてきた。頚椎のつながりが悪くなると、立てないばかりか、頭をなでられても、抱っこされても激痛が走る。問題の頚椎の内部にピンを打ち込み、骨セメントで固定するのである。

  
  相川先生のもとには、毎日、各地の動物病院から紹介された重症の犬・猫たちが、最新の外科治療を受けるためにやって来る。
 また、交通事故で背骨を骨折しても、脊髄(神経)さえ切れていなければ、早く処置すれば、まひにならずに回復する。悪性腫瘍でも、各症状に最適の手術を行えば、再発を防ぐことができる。このように、これまで”治らない“と思われがちだった病気も、的確な診察と最新の治療法によって治るケースがたくさんある。

 相川先生は、月に二、三回、日本各地を回り、どのような獣医療技術によって、どのような治療が可能か、最新の情報を地元の獣医師たちに伝える啓発活動に力を注いでいる。「まずは獣医の先生方に知っていただかないと、飼い主さんたちに”情報“も届きません。今、うちの患者さんの約八割は、各地の動物病院からのご紹介です。難病やケガに苦しむ犬や猫たちを救うために、最善の治療を提供することが私の願いです」

※軟部外科 頭部、体表、胸腔臓器、腹腔臓器の疾患や腫瘍切除などの外科分野


  
ずっと一緒の愛犬・愛猫たちと、
お互いが心地よく生活するために


相川動物医療センター
行動治療科担当獣医師
高倉はるか先生

 相川動物医療センターにある行動治療科には、「うちの愛犬がかみついて」「よくほえて」「お留守番ができなくて」などの悩みを抱いた飼い主がよく訪れる。

 担当獣医師の高倉はるか先生が、「行動治療」分野に興味を持ったのは獣医学科の学生時代。当時日本で翻訳された数少ないアメリカの専門書を読んで、従来の獣医学にない概念と治療方法に興味を引かれ、大学院進学後にアメリカへ留学。専門講義を受けながら、大学付属家畜病院での実地研修によって数多くの症例を体験、診療技術を磨いてきた。

 行動治療の主役は”飼い主“である。そのため、獣医師は、飼い主と愛犬との関係や飼い主の知識とやる気、家族構成などを踏まえて、その飼い主が実行できる治療計画をいかにつくり、どう励まし、効果が現れるまで何か月も実践してもらえるか、がポイントとなる。
 例えば、「分離不安」の場合、「飼い主さんも愛犬に依存して、いつもべったりしていることが少なくありません」と高倉先生は言う。そんな時、愛犬と距離を置くように、とアドバイスしても無理。だから、「触る前に、オスワリさせてください」「一日に二時間、お掃除や洗濯、お料理の時だけ別々に過ごしましょう」「お化粧するのが外出の合図になっているので、一日に何度もお化粧してください」とか、実践しやすいことを具体的にアドバイスしていくと、頑張ってくれる方が多いんです、と。

 あるいは「むだぼえ」で、飼い主が「静かに!」と言ってもほえやまないのは、愛犬が飼い主を好きであっても、あまり信頼していないから。高倉先生によると、信頼回復の第一歩は簡単な服従訓練で、まず、飼い主が声をかけた時、愛犬が飼い主に注意を向けるようにすることから始める。
 「普段から愛犬に声をかけて、こちらを向いた時にごほうびを与えたり、また、いろんな物や動作の名前を覚えさせ、愛犬が飼い主さんの思いや動きを理解しやすいようにすることも大切です」
  
  高倉先生は、行動治療の専門医。時間をかけたカウンセリングを通じて、ペットの問題行動の原因を調べ、飼い主が実行可能な治療計画を立ててくれる。

 例えば、スリッパをくわえてきた時は「だめ」としかるが、骨をくわえてきた時は、「骨ね」と言いながらほめていると、愛犬が何かかじりたそうな時、「骨ね」と言えば、ほめられたくて、骨をくわえてくるようになっていく。

 「子どもなら、やがて自立して親元を離れて行きますが、愛犬は、生涯ずっと一緒。だから、お互いが心地よく生活できないとね」と、高倉先生は「問題行動」解消の大切さを説く。「犬は、一歳ぐらいまでに性成熟があり、一歳から三歳ぐらいまでに社会的な成熟を迎えます。つまり、性格の固定、アイデンティの確立ですね。だから、三歳ぐらいまでに攻撃行動が出なければ、その後、急に人や他の犬に攻撃的になることはあまりありません。三歳までにどんなしつけ、育て方をするかがとても重要なんです」


  
猫にとって最適の診療環境を作り、
猫をより良く診るために


キャットホスピタル
キャットドクター
南部和也先生/南部美香先生

 東京都渋谷区にある「キャットホスピタル」の南部和也先生と南部美香先生が、アメリカに猫専門の動物病院があることを知ったのは、獣医科大学卒業後、普通(犬猫中心)の動物病院を開業したあとだった。

 その時のことを、和也先生は、「それまで猫だけを診るという発想がまったくなかったので、衝撃でした」と振り返る。両先生は自分の眼で確かめようと何度か渡米。直接、見聞を深めるうちに、「専門性を持った猫の獣医療をやりたい」という思いがますます募り、ロサンゼルス近郊の、その猫専門の病院で一年間、研修医として研さんに励んだ。そうして帰国後、ユニークな猫専門病院・キャットホスピタルを始めたのである。

 なぜ、猫だけの病院を、と尋ねると、「猫をより良く診るために、としか答えようがないんです。確かに、猫だけを専門に診ていると、それに精通するものができてきます。それに…」と和也先生。すぐに美香先生が、「猫は単独生活の動物で、環境が変わることを嫌いますから、環境への配慮がとても大事です。猫は、自分以外の猫と会うことも嫌がるでしょ。ましてや犬はいや、知らない人はいや。だから、ここは他の猫と出会わないように予約制。それに、私たちは猫も飼い主さんもリラックスしていただけるように、白衣は着ませんし、おもちゃで遊びながら、知らないうちにワクチン注射をしたりと、気を遣っています」とつけ加えた。

 キャットホスピタルが最も力を注いでいるのは、従来型の”病気になってから“ではなく、”病気にならないように診る“という予防医学型の獣医療。事実、来院する猫たちの九割はワクチン接種や健康診断が目的という。和也先生は、「普段から健康な状態の猫たちをよく診ているので、はっきりとした症状が出る前のわずかな体調の変化を見逃さず、飼い主さんに、健康回復のアドバイスができるのです」と言い、動物は話ができないから、自分たちが気づいたことはどんなことでも飼い主に伝えていきたい、との言葉を添えた。

 日ごろの診療で特に気になるのは、肥満傾向の猫が多くなったことだと、和也先生は言う。言うまでもなく、肥満は万病の元。人間の場合、
  
  キャットホスピタルでは、神経質な猫がリラックスできるよう、万全の配慮がなされている。完全予約制なので、待合室で他の猫と出会うこともない。
肥満の二大要因は「食事」と「運動不足」だが、猫は、毎日、散歩の必要な犬と違い、室内飼いでも、普通に暮らしているかぎり、運動不足にはなりにくい。「やはり、食べ物ですね。猫がよく食べるものが、猫にとって良いキャットフードとは限らないんです」。美香先生は、猫の好き嫌いではなく、猫にとって、栄養学的に問題のないフードをいかに選び、食べさせるかが、肥満防止に大きく役立ちます、と断言した。

 近年、愛猫の健康を真剣に考える飼い主も多くなった。しかし、例えば、いろんな感染症の予防ワクチン接種率は、全国的に10%台の低さだ。和也先生は最後にこう言った。「日本で、猫の獣医療はこれから。やるからには、世界レベルの医療を目指したいですね」と。


  
それぞれの動物に
ふさわしい飼い方と定期検診で、
健康的で楽しい生活を


アーリン動物病院 
中村ちはる先生

 千葉県松戸市にある、犬猫以外の小動物専門の「アーリン動物病院」には、ハムスターやモルモット、ウサギ、フェレットから、インコやオウムなどの鳥、イグアナやカメ、ヘビなどの爬虫類に至る、エキゾチックペットたちがやって来る。

 院長の中村ちはる先生がエキゾチックペットの診療を始めたのは、十数年前のある動物病院での勤務医時代。以来、アメリカの獣医療情報を収集するなど、独学しながら、国内で数少ないエキゾチックペット専門医の道を歩み、昨年独立してアーリン動物病院を開業した。
 「私が診療する小動物は飼い方が難しく、被捕食動物がほとんどなので他者に弱みを見せません。ですから、飼い主さんが気づいて病院に連れて来られた時は病気がかなり進行していて、効果的な治療が難しいことも少なくありません」と中村先生は言う。

 だから、来院時、一年でかなり成長するはずのイグアナが、栄養的に不十分な食生活のため、何年も大きくなっていなかったり、視力を頼りに暮らすカメがビタミンA欠乏症で目が見えなくなり、食べられなくなって衰弱していたり。歯が伸びるモルモットやチンチラの歯のかみ合わせが悪くなり、そこに舌が当たって傷つき、食べられなかったり…。
 体のきわめて小さな動物は、手術時、極力出血を抑えないと、術後の回復が大変なので、レーザーメスで素早く執刀する。また、飼い主以外の人がフードを与えても怖がって食べない動物も多いので、手術後、入院より自宅療養が望ましいケースも多いとか。

 中村先生によれば、冷血動物の爬虫類は代謝がゆっくりで我慢強く、食事や温・湿度管理、紫外線管理などを正しく行わないと、知らないうちに”ゆっくり殺す“ことになりかねない。反対に代謝が盛んで老化の早いハムスターは、生後一年を過ぎると老化が始まり、だんだん背骨が丸く変形し、足腰が弱ってトイレに入りたくても足が上がらなかったり、かむ力が弱って今までのフードが食べられない場合もある。

 「初診の時、私は、それぞれの動物に必要な食事内容や食べさせ方、ケージ内のレイアウトや育て方までじっくりお話しています」
  
  ハムスターやフェレットから、爬虫類まで、最近はペットの種類も多岐にわたる。しかし、飼育方法をよく知らずに飼われているケースも多く、中村先生は、初診時にじっくり飼い方指導を行っている。
 中村先生は、「飼い主さんの間に、それぞれの動物にふさわしい正しい飼い方が普及することが、何よりも大事です」と力を込め、そのあと、「定期検査を重ねて病気をできるだけ防ぎ、健康的で楽しい生活を過ごしていただきたい」とつけ加えた。

 写真撮影時、病院のマスコット、ヨウムの「アーリン」を腕に乗せた中村先生に、「爬虫類の魅力は?」と尋ねると、「顔の筋肉が動かないので表情の変化は少ないですが、カメでも飼い主のことがちゃんと分かり、目が合うと寄ってきますし、イグアナなど、一緒に遊んでいて、ちょっと隣の部屋に行くと、走って追って来たりして、”うちの子、かわいくてたまらない“ってなります」とほほ笑んだ。

*この記事は、2003年8月20日発行のものです。

取材協力
●相川動物医療センター
 東京都新宿区西落合4-3-1 TEL.03-5988-7888
 http://www010.upp.so-net.ne.jp/aikawaVMC/
●キャットホスピタル
 東京都渋谷区千駄ヶ谷2-33-1
 http://www.cathospital-tokyo.com/
 ※診察の予約等は、ホームページをご覧のうえ、Eメールにて。
●アーリン動物病院
 千葉県松戸市小根本77-3 TEL.047-703-4833
 http://www.arling-ah.com/
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