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いつか来る日のために「ペットとの別れ」

「虹の橋」という詩をご存じだろうか。
天国の手前に「虹の橋」と呼ばれる場所がある。
動物は死ぬとそこへ行き、みんなで楽しく暮らしながら、
飼い主がやって来るのを待っている。
やがて現れた飼い主と歓喜の再会をし、
もう二度と離れることなく、共に虹の橋を渡って天国へ行く…
という内容だ。原文は英語、作者不詳のこの詩は、
動物を愛する人の間で、広く語り継がれてきた。
ペットの死に打ちひしがれている時、
飼い主仲間からこの詩を教えられ、心が救われた人も多いだろう。
ペットが掛け替えのない存在になればなるほど、
失った時の悲しみは大きく、立ち直りは容易でない。
今現在、高齢や病気のペットを抱えている人はもちろん、
元気なペットの飼い主にも、
「ペットとの別れ」について考えてみてほしい。
必ずやって来る別れを受け止め、その悲しみを乗り越えて、
ペットと暮らした日々をいい思い出にできるように。
別れの時 「老い」を学び、その日その日を楽しく暮らしていけば、お互いが幸せになれる。
『全国ペット霊園ガイド』(黙出版)、『老犬との幸せなつきあい方』(新星出版社)等の著書で知られるノンフィクション作家の吉田悦子さんにお話を伺いました。

 わたしは、ジョニーという十六歳になる愛犬と暮らしていますが、昨年秋、ギックリ腰で立てなくなりました。彼は、「元気になって歩きたい!」という強い意志を宿していたので、お互い、励み、励まされて療養生活を送り、二週間ほどで歩けるようになりました。老犬になると、こちらが考えている以上に犬本来の素晴らしさが増してきます。しかし、突然、ケガをしたり、病気になることもあるので、早めに的確な対応が求められます。こうした体験を通して、あらためて「生きるって素晴らしい!」と実感しました。

元気なうちから「老い」について学ぶ

 人間より寿命が短い犬や猫は、早く亡くなることは事実ですが、それはある意味「宿命」であり、先のことをくよくよと思い悩んでも仕方のないことです。飼い主が不安に思っていると、犬や猫も不安になります。人は人、犬は犬、猫は猫らしく、それぞれに無理なく穏やかに暮らすことができれば、お互い幸せになれますし、楽しい思い出もたくさん生まれます。とにかく、毎日できることを精一杯行って、楽しく暮らせたら、いざとなっても、後悔することはあまりないでしょう。
 核家族化でお年寄りと暮らすことが少なくなった現在、わたしたちは、「老い」とは何か、具体的にどのように老いるのかということが、分からなくなってきました。ですから、愛犬、愛猫が元気なうちから、老化とは何か、老いた犬や猫たちと快適に暮らすにはどうすればよいか、病気の時、またいざという時、どうすればよいかということを考え、心構えができたらいいですね。

ペット霊園で弔う

 例えば、「弔い方」も、このごろは、ペット霊園を動物病院やお散歩仲間に紹介されたり、インターネットや電話帳で検索して、「火葬にして納骨しました」、「自宅でお骨をまつっています」という方が多くなりました。
 しかし、ペット霊園の環境、施設、運営方法、料金システムなどは様々です。万一のことを考えて、家族で下見し、「ここなら安心して任せられる」というところを選んでおくとよいでしょう。

自治体に頼む

 忠犬ハチ公のふるさと、秋田県大館市のようにペット霊園を運営する自治体もあります。
 東京二十三区では、管轄の清掃事務所に連絡すると、有料で引き取ってくれ、合同あるいは個別に火葬され、都専用の動物共同墓地に埋葬されます。
 詳しくはそれぞれの自治体の担当窓口に連絡して、引き取り方法や火葬方法、埋葬方法、料金などをよく確かめておきましょう。

自宅の庭にお墓を作る

 自宅に庭のある方なら、いつも身近なところにと、庭に土葬にされたり(自分の所有地以外に土葬することはできません)、火葬にした後、お骨を庭に埋め、目印に木を植えたりする方もおられます。また、人間の墓地の隣に愛犬や愛猫のお墓をつくる方もおられます。
 亡き愛犬、愛猫との思い出はいつまでも消えることはありません。家族一人ひとりの気持ちに沿った、納得のいく弔い方を今からよく考えて、選んでいただきたいと思います。
弔う1 天国で安らかに!とっても楽しい日々でした…。



大館市ペット霊園
 JR秋田駅から奥羽本線の特急で二時間近く走ると、人口約六万八千人の大館市に着く。秋田県北東部の、緑にあふれ奥羽山系からの清流が流れるこの街は、国内の自治体で最初にペット霊園を開設したところだ。

 担当部署である大館市の生活環境課生活交通係・芳賀俊明さんによると、ペット霊園構想は、一九七一年ごろに芽吹いた。秋田犬の本場で、忠犬ハチ公のふるさととして知られる同市だが、それまで犬や猫が死ぬと、ゴミ焼却場で処理されてきた。そこで、「ぜひペット専用の霊園をつくってほしい」という愛犬家たちの要望が寄せられた。犬と暮らす市民へのアンケート調査でも、約九割近くがペット霊園を希望していることが判明。市当局では実施計画を練り、八〇年に事業化を開始。九一年二月、市営小柄沢墓地公園の南端に「大館市ペット霊園」を開いた。

 現在、年間利用件数五百余りのうち約三分の一が市外から。口コミや動物病院の紹介で、市東方の鹿角市やずっと西の能代市などからやって来る人たちも少なくない。もちろん犬、猫が中心だが、小鳥、ウサギ、ハムスター、フェレットなどの小動物もいる。なかには、「カメを火葬して、お骨を持って帰られた方もおられます」と芳賀さんは言い、「係員がカメのお骨を残すために、火力の調節に苦労したそうです」とつけ加えた。

 市役所から、芳賀さんの運転で大館盆地東端の、草木の茂る丘陵地に抱かれるように建つ大館市ペット霊園に行く。
 建物の右手が事務室と霊安室で、左手が火葬場。真ん中に慰霊塔があり、その奥に合同納骨堂がある。慰霊塔を眺めていると、背後の駐車場に車の止まる音がした。ダンボール箱に入れた愛犬の遺体を抱いた女性がうつむき加減に通り過ぎ、最後のお別れをするために霊安室に入っていく。すぐに線香の香りが漂い、嗚咽がもれてきた。やがて遺体は小さな火葬場に運ばれる。女性は霊安室を出て、よろめくように車に乗り込んだ。

 係員の立石長二さんの許可を得て、まだロウソクがともり、線香の煙が揺らぐ霊安室に入る。祭壇には、あの世に旅立った犬や猫、ウサギたちの遺影やお供えのぬいぐるみなどがたくさん飾られている。立石さんによれば、火葬後ここに納骨し、後日、お参りに来た人たちが思い出の写真を飾っていくという。
 「今の方も祭壇の写真を見て、あ、写真を忘れてきた、と言って、家まで遠いのですが、慌てて取りに帰られました」
 悲しみと愛おしさのこもった、今は亡き愛犬や愛猫たちの写真には、メッセージが記されているものも少なくない。その一つにこんな言葉があった。
 「天国で安らかに!
 とっても楽しい日々でした。
 どうもありがとうね」

霊安室の祭壇には、家族の思いがこもった遺影やお供えが並ぶ

大館市ペット霊園入口

ペットへの祈りが込められた慰霊塔

犬・猫・小動物が一緒に眠る合同納骨堂
弔う2 ここに来て、少しでも安らぎの気持ちを感じて帰ってくだされば、ありがたいですね。



深大寺動物霊園
 新宿から京王線に乗り、調布駅の手前、つつじヶ丘駅で下車。駅前からバスに揺られて十分前後で、奈良期・天平五年創建と伝えられる古刹「深大寺」に至る。鬱蒼とした木立に包まれた武蔵野の広い境内を歩いていくと、ひときわ静かな丘陵の一角に「深大寺動物霊園」があった。

 園内を進むと、木々の緑に溶け込むように、六角形の納骨堂が建っている。入口で記帳した参拝者が中庭に建つ万霊塔に手を合わせてしばらく祈った後、白いハンカチをそっと口元に当てた。
「今日、立会葬でお見えになった方です」
 受付から出て来た同霊園の永井治さんがそっとつぶやき、「緑に戻るのが生き物として自然じゃないでしょうか。都会からここに来て、少しでも安らぎの気持ちを感じて帰ってくだされば、ありがたいですね」と言い添えた。

 永井さんによれば、深大寺動物霊園が開設されたのは高度成長期の一九六二年春。動物の霊を慰め、人間同士がもっと和やかになれば、穏やかな社会に、争いごとのない世界になるはず、という願いから創建された。その後、世の中の動物への思いも深まり、家族同様から家族以上の存在にまでなりつつある現在、ペット霊園などできちんと火葬して、末永く供養したいという家庭が極めて多くなってきた。
 永井さんの案内で、納骨堂を見学させてもらう。幾筋かの通路の両側に納骨棚がびっしりと並び、写真やお供え物、メッセージの添えられた白い骨つぼが整然と並んでいる。なかには、何代もの犬や猫たちの骨つぼが重なり、「あの世」でのにぎやかな「生活」を空想させる棚もある。「ご覧ください。ここに、南極で越冬したカラフト犬ジロのお骨が…」と、永井さんは天井近くの棚を指し示した。
 ちなみに同霊園のペット慰霊行事には、春秋のお彼岸、夏の盂蘭盆、秋十月の大祭があり、毎回、たくさんの参拝者でにぎわっている。

 葬送時、パニック状態だった人が、後日、お参りして永井さんと会い、ぽつり、ぽつりと思い出を語り出す。“あの時、話をしてもらって、気持ちが安らぎました”と述べる人も少なくない。なかには、“生きてる時、こうしてやればよかった”と、いつまでも自分を責める人もいるとか。「それは優しさの表れなんですけど、それに気づくのに長い年月がかかる方もおられます」

 休息所には、同霊園の会員が新たに飼い出した愛犬・愛猫や、十五歳以上の長寿ペットの写真が飾られている。ここでの取材の最後に、永井さんはこう言った。「わたし、現役を離れたら、この隣にでも一室をもらって、かわいい動物たちと別れて寂しくなった方々の話し相手になりたいな、と思っているんです」と。

納骨堂の入口で記帳する参拝者たち(中央の石塔が万霊塔)

短冊につづられた遺族からのメッセージ

整然と並ぶ納骨棚には、骨つぼと写真やお供えなどが

亡くなったペットを一緒にまつる合同納骨所
ペットロス 大切なのは、自分自身にゆっくりと悲しむことを許して、たっぷり悲しむ時間を与えてあげること。
ペットロス体験を持つ飼い主の交流の場づくりに取り組む
「ペットラヴァーズ・ミーティング」事務局の梶原葉月さんにお話を伺いました。


 「ペットロス」、つまり、愛犬や愛猫などが亡くなって悲しい、というのは、病気でも何でもなく、人として当たり前の感情です。逆に、愛する者との死別の悲しみを感じないなんて、どんな暮らし方をしてきたのかな、と思ってしまいます。
 だから、「ペットロス」にならないように、などと思い悩む必要はありません。悲しいのなら、たくさん泣いて十分に悲しむことが大切です。そうすれば、また何か新しいことをやろう、という気持ちになってくるかもしれません。まずは、自分自身にゆっくりと悲しむことを許して、たっぷり悲しむ時間を与えてあげてください。

仲間との語らいが大きな励みに

 でも、一番つらい時って、実は愛すべき動物が死んだ時じゃない。例えば、うちの愛猫ゴマの時がそうだったのですが、突然、病院で事務的にがんの宣告をされた時や、飼い主がたった一人で死にそうなペットの看病をしている時なんです。
 もし、飼い主が動物病院への不信感を持ったまま飼っていたペットが亡くなったり、あるいは突然の事故で亡くなったりすると、後で自責の念が強くなって、いつまでもつらく悲しく、死を受け入れるのに時間がかかります。
 幸い、ゴマはインターネットで探した大学病院で適切な抗がん剤治療を受け、その後一年半、ほとんど普通の生活を送ることができました。また、わたしも同じ大学病院の患者さんと仲良くなっていろいろな話ができました。だから、ゴマが亡くなった時、もちろん「不在」の悲しみはありましたけど、仲間に支えられ、ありがとうという気持ちでゴマを見送ることができました。

「ペットロスホットライン」の開設

 仲間との語らいがとても大きな励みになったので、お互いが年に何度か会って、つらかったこと、悲しかったこと、楽しかったことを、何でも自由に話すお茶会をしよう、と生まれたのが「ペットラヴァーズ・ミーティング」です。
 その後、「家族であるペットの死を看取る」という講演会を開催した時、新聞の情報コーナーに連絡先を載せてもらったことがありました。すると、「遠くに住んでいるので行けないけど」とか、「今、最期の看取りで家を空けられないけど、お話を聞いてくれますか」といった切実な電話がたくさんありました。そこで、わたしたちが「いのちの電話」などの専門家から電話相談について学び、昨年十一月に「ペットロスホットライン」を開設したわけです。

「一緒に過ごせて楽しかった」と言える時まで

 わたしたちにできるのは、電話してきた方のお話をひたすら聴くこと。その方がいろんな話をすることで、自分の心が整理されていくのをお手伝いすることです。
 最初は、つらかったこと、悲しかったこと、悔しかったことばかりが心を占めていても、愛犬や愛猫との暮らしは楽しかった時期が大半です。それら、楽しかったこと、苦しかったことのすべてを、それぞれの方が自分の胸にしまう場所を見つけて、「この子と一緒に過ごせて楽しかった、ありがとう」と言えるようになるまで、わたしたちがそばにいられたらいいな、と願っています。











*この記事は、2004年8月20日発行のものです。


●取材協力
吉田悦子さん(吉田悦子のe-factory

大館市市民部生活環境課生活交通係 芳賀俊明さん
秋田県大館市字中城20番地  TEL.0186-49-3111(代)

世界動物友の会 深大寺動物霊園 永井治さん
東京都調布市深大寺元町5-11-3(深大寺境内)
TEL.0424-83-0915(代)

梶原 葉月さん
ペットラヴァーズ・ミーティング
ペットロスホットラインTEL.0424-53-1000
毎週土曜・午後1時〜4時受付(無料)
ペットロスサポート(インターネット掲示板)

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