夏の夕方、小田急沿線の静かな住宅街、東京都世田谷区砧町の富士見公園に、黄色い腕章を着けた「砧町町会わんわんパトロール隊」のメンバー、原岡充さんと愛犬ポチ、鈴木浩子さんと愛犬ゆり、山下純子さんと愛犬アブーが現れた。公園内で遊んでいた子どもたちがなじみの犬を見つけて駆け寄ってくる。
砧町に“わんパト”こと、わんわんパトロール隊が結成されたのは二〇〇三年七月。当初は事務局を担当する原岡さん家族とその散歩仲間の五家族ほどだったが、少しずつ口コミで参加希望者が増え、一年余りで百三家族の百九十一人・犬百六十四頭となった。
もっとも“わんパト”といっても、特別な防犯活動を行うわけではない。ただ、朝夕の愛犬との散歩時、飼い主たちが目印の黄色い腕章を着けて、町内外を気ままに散歩する。もし、空き巣やいたずらなどの犯罪行為を見つけたら、警察署に連絡する。といっても、そんなケースは実際にはほとんどない。
しかし、心のどこかに防犯意識を秘めたメンバーは、ごく自然に、不審な動きをする見知らぬ人や車に注意を払い、通学途中や公園で遊ぶ子どもたちの安全を気遣っている。
「散歩していて、普段、見慣れない物や人がいると気になりますね。それに、この辺りはマンションが多く、いざという時、子どもたちが飛び込める家が少ないので…」(“わんパト”歴一年の鈴木さん)。
「この子は子どもたちに好かれているみたいで、夜、塾帰りのお子さんが『アブー!』と言ってくれることもあります。特に“わんパト”を始めてから、お年寄りの方とお話することが増えました。それに、道端にゴミや吸い殻が落ちているのが目に付きます」(“わんパト”歴半年の山下さん)
事務局の原岡さんが「わんわんパトロール隊」結成を思いついたのは昨年五月。夕方七時ごろ、近くの幹線道路を散歩していて、引ったくりの現場に出会ってショックを受けたのがきっかけだ。原岡さんは、各地で注目されだした“わんパト”ができないかと、地元の警察署と砧町の町会に相談。町会活動の一つとして、自由参加方式で行うことにした。
聞けば、原岡さんは砧生まれの砧育ち。昔は黒土の畑と宅地が入り混じるのどかな田園だったが、近年、宅地開発でマンション建設が進み、現在、砧町の住民約二万二千人のうち、五年以内に転出入する人びとの割合は約四割。流動性が高く、また、昼間は留守の家も増えて、人口千人当たりの空き巣件数が東京都内トップといわれるほどになった。
「自分の身の回りにしか関心を持たなくなった住民の方々が、“わんパト”によって、地域に、町会の活動に目を向けていただくきっかけになれば」と原岡さんは言う。現在、小学校のPTAを中心に地区パトロール活動も行われ、住民同士の連帯感も高まり、原岡さんの言う「地域力」も上がってきた。実際、警察の犯罪データによれば、砧町における空き巣件数も“わんパト”活動開始後一年で半減したらしい。
町の防犯性能が上がって、子育てしている家族が「砧だったら安心だから住もうか」とか、マンション暮らしの若い女性が「結婚後も砧に住みたい」とか、若い世代の人びとに長く住んでもらえる、活気あふれる町にしたい、というのが原岡さんたちの願いだ。いつもの“わんパト”のあと、富士見公園に戻ってきた原岡さんは、かつて海外勤務先のスリランカで拾って一緒に帰国した愛犬ポチをなでながら、こうつぶやいた。
「“わんパト”は、黄色い腕章を着けて、飼い主さんが毎日やっている愛犬との散歩を普通にやるだけで、会費とか定例会とか、参加者の負担になることは何もありません。誰もが自分のライフスタイルに組み込んで、細く長くやっていただければ、それで十分。とにかく“わんパト”のメンバーでも、そうでない方でも、黄色い腕章のおかげで、出会えば会釈したり、立ち話したりする知り合いが増えて、すごく楽しいですよ」 |
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| “わんパト”中、ゆかた姿の人たちと交流 |
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| 山下さんと愛犬アブー |
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| 鈴木さんと愛犬ゆり |
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| 公園で子どもたちと遊ぶ |
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| 夕方のお散歩中。黄色の腕章が“わんパト隊”の印 |
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