
動物行動学の世界で、「犬が笑う」という説を唱える学者や研究者はいません。しかし、口を開けて、口角を上げて、一見、笑っているような表情をする犬はよく見かけます。それについて、笑いかける人間の表情をまねている、という人もいます。
本当のところはよく分からないのですが、犬はいつも飼い主のことをよく観察しているので、飼い主の笑ったり、首をかしげたりするしぐさを覚え、 まねをしていても不思議ではありません。そんなしぐさを犬が偶然まねた時、飼い主が「かわいいね」「お利口ね」とほめ、同じしぐさを犬にして見せていれば、犬の方も、飼い主の反応がうれしくて、そのしぐさを覚え、まねをする回数が増えていくこともあるような気がします。

わたしが留学していたアメリカのコーネル大学の行動治療科の教授が、同大学の動物病院に一般の病気で来院するラブラドールと、攻撃性にかかわる行動治療で来院するラブラドールの頭数を比較し、毛色と攻撃性のかかわりについて調べた報告があります。それによると、「イエロー」が最も攻撃性が高く、「ブラック」が中間値で、「チョコ」が最も攻撃性が低い、という結果になりました。
また、イギリスのあるグループがイングリッシュ・コッカー・スパニエルについて調査した報告によると、「ソリッドカラー」(単色)の方が「ブチ」よりも攻撃的。さらに単色の中でも、「レッドゴールデン」という少し茶褐色系の方が「ブラック」よりも攻撃性が強い、ということが分かりました。
興味深いのは、犬の毛色を決定する物質「ドーパ」が、脳を刺激して興奮させやすくする物質「ドーパミン」の前駆物質でもあることです。そのため、まだ科学的に実証されたわけではありませんが、「犬の毛色と性格との間に、何らかの関連性があるのでは?」と推測する人もいます。

犬が人間に家畜化されていくなかで、かわいくて人によくなつき、従順な性質が好まれ、そのような傾向を強く持った犬の子孫が選ばれ、繁殖されてきたと考えられます。そのような性質は、幼い動物に特有のもので、家畜化によって、動物の幼い特質がより強く現れることをネオテニー(幼若化)といいます。ちなみに、大人のオオカミは、遠ぼえ以外、あまりほえませんが、子どものオオカミは、キュンキュン、キャンキャンと親を慕うように鳴くことが多いのです。そのように鳴く犬が人間に好まれ、選ばれて、繁殖されてきたのかもしれません。
面白いのは、ロシアの研究者がやはりイヌ科動物であるキツネを使って、よりかわいい、従順な子孫を選んで何世代も繁殖させていったところ、最後には、耳が垂れ、体がブチ模様になり、しっぽが少し巻いた、犬のようなキツネの子孫が現れたとのことです。

子どものころ、「犬がしっぽを振るのは喜んでいるしるし」と教わりました。ある意味、事実ともいえますが、犬がしっぽを振るのは、“興奮している”時、と思ったほうがいいのです。当然、犬が喜んでいる時も“興奮”に含まれますが、そればかりではありません。例えば、見知らぬ犬や人が突然近づいてきた時、犬がすごく緊張して「攻撃するぞ!」と思っている時も、やはり興奮してしっぽを振ることがあります。
もっとも、攻撃性のある興奮状態の時は、しっぽをゆっくりと振るといわれています。その犬をよく見れば、耳を伏せていたり、ウーとうなっていたりすることが多いので、単にしっぽだけでなく、全体の雰囲気を感じとるようにしてください。特に子どもは“雰囲気”を感じとれず、むやみに近づいていくので、犬の方がとても怖がり、ほえたり、かんだりすることがあるわけです。小さい時に犬にほえられたり、かまれたりすると、ずっと後まで悪影響が残り、犬嫌いになってしまうことがあるので、注意が必要です。

犬が自分を人間だと勘違いすることはないと思います。でも他の犬を同じ動物種だと思っていない犬は少なくないかもしれません。それは、生後あまりに早く母犬やきょうだい犬から離され、人間の世界で育っていったためと考えられます。
生後6週齢から13週齢の時期は「社会化期」といわれ、極めて大切な時期です。この期間に母犬やきょうだい犬と一緒に暮らすことで、子犬は“犬の流儀”を身に着けていきます。そんな体験に乏しい子犬は、大きくなっても犬同士の付き合い方が理解できず、他の犬と出会うと怖がったり、逆に、ルールを無視して飛びかかっていき、相手に嫌われたりするわけです。
ラットを使った研究でも、この社会化期に他のラットとの接触がないまま大きくなった個体は不安傾向が強い、という報告があります。子犬を飼う前に、その子犬がどんなふうに社会化期を過ごしてきたかを知ることが、とても大切です。
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