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集合住宅にペットと住まう


少し前までは、集合住宅といえば“ペット禁止”が当たり前。
どうしても飼いたければ、郊外の戸建て住宅に引っ越すのが一般的だった。
それが、近年、賃貸・分譲ともにペット可物件が増え、
その流れは、いまや公団(現・都市機構)や高齢者向け施設にまで及んでいる。
とはいえ、住人のすべてが動物好きというわけではない。
お互いが気持ちよく共存するために、どのような努力や工夫がなされているのか、
最近の様々な“ペット可”集合住宅を取材した。


公団(都市機構)にも“ペット可”が定着 東京都足立区「ハートアイランド新田二番街」東京都江東区「潮見駅前プラザ一番街」今春、三棟二百六戸のペット共生型の賃貸集合住宅が東京・荒川河畔にオープン
入居間近の「ハートアイランド新田二番街」

左/左から「都市機構」の赤坂さん・加藤さん・日野さん・信田さん
右/キャットステップ・キャットウォークを設計した加藤さん

JR京浜東北線王子駅の北数キロ。東京都東北部を流れる荒川と隅田川に挟まれた足立区新田地区に、今春、三棟二百六戸という大規模なペット共生型の賃貸集合住宅「ハートアイランド新田二番街」が誕生する。

開発を進めてきた「都市機構」こと、独立行政法人都市再生機構・東京都心支社の計画担当・赤坂香里さんは、完成模型を示しながら、「北側が荒川の河川敷という恵まれた環境を生かすために、環境共生とペット共生をテーマにしました」と言う。

昭和三十年設立の「日本住宅公団」以来の歴史をもつ都市機構の前身「都市基盤整備公団(都市公団)」が「ペット共生」を模索し始めたのは、平成十一年のこと。社会的に愛犬や愛猫が家族の一員たる「伴侶動物」として見なされるようになり始めたころだ。東日本支社の住宅管理担当・日野康之さんによれば、同年十月、都市公団発足を機に、入居者をはじめ、約二万世帯を対象にアンケート調査を実施した。その結果、一定のマナーを守ることを条件に飼育を認めても良いという「条件付容認」を含め、ペット共生容認派が約半数もいた。多様化する居住ニーズに対応するという当機構の務めとして、本社に「ペット共生住宅検討委員会」を発足させた。

「集合型の賃貸住宅で、ペットを飼育するにはどうすべきか、弁護士や獣医師、大学教授などの方々と約二年かけて、ハード面、ソフト面、いろんな角度から検討しました」

その成果を生かして、公団住宅初のペット共生住宅となったのが、平成十四年三月、荒川と隅田川河口域の都内江東区潮見地区、JR京葉線潮見駅前に誕生した「潮見駅前プラザ一番街」(一棟)だった。その一階共用部分には足洗い場や汚物処理水洗設備。また、エレベーターには犬や猫の同乗を知らせるペットボタンがある。各戸の専用部分にはペットくぐり戸付ドアや下半分だけ張替えられる壁クロス(モールディング)、毛詰まり防止排水口、ペットの落下防止用バルコニーなど。ソフト面では、ペット飼育の規則を定め、飼育家庭がペットクラブに加入し、自主的にマナー、モラル向上に努める方式を採用した。

その「潮見」の経験を生かして計画、設計されたのが「新田二番街」である。設計担当の加藤裕靖さんは、共用部分では、ペット連れの入居者がほかの入居者とできるだけ鉢合わせしないように動線を工夫することや、階段や廊下などのすき間を五センチ以下にすることなどに気を使ったと言う。室内での工夫について尋ねると、「潮見では犬中心だったので、事前に猫のことをよく調べ、リビングに設置する自由棚を猫が上下したり、梁の上を歩き回れるようにしました」とほほ笑んだ。


右/「潮見駅前プラザ一番街」一階部分にはペットクリニックやペット美容室がある
左/左から「潮見駅前プラザ一番街」ペットクラブ副会長・笹沼さん、会長・山本さん、書記・吉田さん

「ペットクラブ」を核に、集合住宅の
コミュニティづくりに取り組む


様々な人々が暮らす集合住宅では、入居者同士がどんなコミュニティをつくり、どのように運営していくかが極めて重要だ。都市機構のペット共生住宅第一号、「潮見駅前プラザ一番街」のコミュニティづくりの核となるペットクラブの場合はどうだろうか。

「潮見」は、全百四十五戸中、現在、七十八戸の家庭で犬か猫のペットと暮らしている(入居開始時は五十八戸)。入居者募集時、“公団初”のペット共生型で、東京駅からJR京葉線でわずか八分という立地の良さも加わって、応募は十倍を超えたとか。その難関をくぐった入居者の多くは、それまでペット禁止住宅でひそかに愛犬、愛猫と暮らしてきたり、都心から遠い場所で長時間通勤の苦労に耐えてきたり、犬や猫との暮らしをずっと我慢してきたりした家庭だ。だから、初めて、愛犬とエレベーターに乗り、散歩に出かけた時、どれほどうれしかったことか、と会長の山本さん、副会長の笹沼さん、書記の吉田さんの三人は入居当初を振り返る。

入居後、愛犬の散歩で知り合った飼い主同士が少しずつ仲良くなり、やがて、入居者みんなが快適な生活を過ごせるように、積極的にペットクラブ活動に力を注ぐようになってきた。例えば、「ペット会則」に定めのある「会報作成」に加え、自主的にお散歩バッグをつくって会員に配布。さらに、どの階の何号室に、どんな種類のどんな犬や猫が暮らしているのかが一目で分かる写真入りマップを苦労して完成させ、全戸に配布した。このマップは会員家庭だけでなく、犬や猫を飼っていないお宅でも好評で、散歩の行き帰り、お互いが声をかけ合う機会も増えた。また、犬のしつけ講習会や猫の合同健康診断会、会員の懇親会などを開いたり、入居者相互の相談窓口となってペット飼育にかかわる問題の円満解決に努めたり、年ごとにペットクラブの役割が大きくなっている。

「潮見駅前プラザ一番街」
ペットクラブ作成のワンニャン!MAP

しかし、いつの間にか、犬や猫と暮らせて当たり前みたいになっていたかも、と山本さんは言い、「わたしたち、犬や猫に癒やされている分、“猫かわいがり”じゃいけない。みんな、ここに入居した時の気持ちをもう一度思い出して、飼い主自身がきちんとしつけやマナーを守っていこう、と話し合っています」と付け加えた。

「潮見」にもよく顔を出す日野さんは、「新田二番街」オープンを前にして、「“ペット共生”の賃貸集合住宅は、まだ社会的合意が十分に得られていない商品ですので、一つひとつの事例からどんどん学び、“歴史を創る”思いで今後に生かしていきたい」と述べた。



ペットクラブの会報 会員に配布する「お散歩バッグ」とペットのお誕生日プレゼント。
他にも「潮見駅前プラザ一番街」のペットクラブでは楽しいイベントを企画している。

高齢者向け施設にも新しい試み 千葉県柏市 「ソレイユひばりが丘」高齢者向けケア型賃貸集合住宅で愛犬、愛猫と暮らす
遊歩道に囲まれた「ソレイユひばりが丘」の食堂、ラウンジ

飼い主と悠々自適の生活を楽しむ「もも」

Jリーグチーム「柏レイソル」の本拠、千葉県柏市には、昨春開設された、ペット共生の高齢者向けケア型賃貸集合住宅「ソレイユひばりが丘」がある。場所は、JR常磐線柏駅東口から南へ数キロの、自然あふれる住宅地の一角だ。館内には食堂、ラウンジがあり、玄関脇には訪問介護ステーションもある。

館内外を見学していると、愛犬「もも」を連れて散歩に出かけようとしていた女性に会った。犬好きの彼女は秋田犬、柴犬、柴犬と代々日本犬と暮らしてきた。ももとの生活も八年になる。しかし、一時期、ペット可の住まいに恵まれず、親戚の家に預けていた。「自分の犬でありながら、一緒に暮らせないのがつらくて」。そんな彼女は「ソレイユひばりが丘」の入居者募集を知り、即決。神奈川県茅ヶ崎市から引っ越してきた。「ももは行動派なので大変」と言いながら、朝夕の散歩であちこち歩き回るのがふたりの大きな楽しみ、喜びだ。「犬を飼うには飼う人の方も体力がないとだめですね。だから、自分でも健康のことは気にかけています」

株式会社ハウジング恒産の清水一久さん

同施設を運営する株式会社ハウジング恒産の清水一久さんによれば、同地はある企業の独身寮跡地で、五年ほど前、有効活用法の相談を受けたという。清水さんは、静かな環境を生かした高齢者向けケア型賃貸集合住宅を企画。その時、ペットセラピーなどを参考に、お年寄りの生活により良い刺激を与える“ペット共生型”を盛り込んだ(「ペット共生」は五階全四十四室中二階部分十六室)。

「ご入居される方々は介護が必要というよりも、将来が不安な方が多いんです」。そこで、同館では、介護や医療、あるいは日常生活のサポートネットワークをそろえ、常駐のフロントスタッフが気軽に対応する。同時に、「ペット対応」として、足洗い場やペット用トイレなどのハード面ばかりでなく、ペット訪問医療からドッグトレーニング、ペットシッターやトリミングなどのサービスネットワークを備えている。清水さんは「今後、高齢者向けペット共生型集合住宅には、施設独自で犬を飼うなどのタイプも考えていきたいですね」と結んだ。


“ペット可”実現への努力 東京都足立区 川崎  司郎さんお互いの生き方を尊重し、マナー、モラルを守って暮らす
川崎さんと愛猫の「銀太」

最近は確かにペット可、ペット共生型集合住宅が増えてきた。しかし、従来通り、「ペット禁止」のところも少なくない。例えば、東京都足立区に住む川崎司郎さん一家は、三年前、マンション販売業者から「入居されてから規約をつくりますので、大丈夫です」と言われて分譲マンション購入を決断。近くの新築分譲マンションに愛猫四匹と移ってきた。ところが実際は、すでにペット禁止の規約があり、「ペット禁止です」と言われて入居を決めた家庭もあった。そのため、入居後、ペット飼育可否問題が浮上。「大丈夫」という言葉を信じて犬や猫と暮らし始めた川崎さんたち六世帯は慌てて理事会例会に出席。じっくりと話し合って、飼い主家庭が「飼い主の会」をつくり、既存の「細則」をモデルに「動物飼育細則」を定め、マナー、モラルを守って暮らすことでどうにか認められた。

事実、このマンションにはアレルギー体質の子どもがいる家庭もあり、「飼い主の会」では愛犬の散歩時、エレベーターや廊下など共用部分では必ずキャリーバッグに入れて移動するなど、対応策を講じている。なお、川崎さんは地元の読売新聞販売店・YC江北勤務のため、毎月、「よみうりペット」誌を会員家庭に配布して、マナー向上に役立てている。

「販売業者の話を鵜のみにし、自分でよく契約書や規約を確かめずに入居したのが問題だったかもしれません。でも、家族同様に暮らしている犬や猫と、今さら別れて生きることなんてできないでしょう」と川崎さんは言う。同居の猫たちは、旧宅近くで生きていた野良猫の一家。川崎さん家族を頼り、子猫を連れてやって来た母猫一家を見かねて飼いだしたとか。また、川崎さん宅を訪れていた会員の立花昭彦さん宅にはミニチュアピンシャーがいる。
「うちは子どもがいないので、ずっと犬と暮らしてきました。お互いの生活を大事にしていけば、入居者同士、収まるところに収まるんじゃないですか」。そう言って、立花さんは愛犬の写真を見せてくれた。




集合住宅での犬や猫との暮らしは、かつてはほとんど理解を得られませんでした。その後、飼育者側の努力、管理組合の努力、良質な住宅の増加、犬や猫が家族の一員という考え方の普及などが加わり、いわゆるペット可の集合住宅はわたしたちの予想を超える勢いで増加しています。

その背景には、これまで日本で根強かった「集合住宅は将来の戸建て住宅への通過点」という発想が薄れ、今、生活している集合住宅を“自分の家”としてずっと暮らしていくという人々が多くなってきたことが考えられます。そうなれば、当然、お互いがコミュニティの一員として自分たちの集合住宅をもっと住みやすくしよう、という動きも生まれ、「この家で、犬や猫と暮らしたい」という願いも強くなってきます。そのうえ、東京周辺では昨今、「都心回帰」傾向が強まり、郊外の戸建てや集合住宅から、手ごろな都心部の集合住宅に引っ越す人々も増えています。

では、集合住宅でうまく犬や猫と暮らすには何が必要でしょうか。確かに、動物の足音や鳴き声などが漏れない床や壁、ドアや窓が備わっているなどハード面も大切です。しかし、わたしにはそれ以上に、いかに入居者同士が良好な関係を保つか、が重要だと思われます。実際、ゴミの出し方、自転車の置き方から関係がこじれてしまうケースも少なくありません。特に集合住宅には、犬や猫好きの人ばかりでなく、動物嫌いの人も住んでいます。ですから、もし、犬や猫を巡る問題が発生し、当事者同士が直接顔を合わせれば、冷静な話し合いもできず、こじれてしまう可能性があります。そんな時、集合住宅に第三者的なペットクラブなどがあれば、問題解決の糸口も見つけやすいに違いありません。

とにかく、入居に当たっては、まずお隣と上下階の部屋の人々に挨拶して、仲良くなる。それが、お互いが快適に暮らす第一歩じゃないでしょうか。

【コンパニオンアニマル リサーチ】
人間と犬や猫などコンパニオンアニマルとのより良い共同生活実現のためのノウハウ・知識・情報の蓄積と啓蒙活動、研究活動の支援などを行うために、1997年に設立された非営利団体。


*この記事は、2005年2月20日発行のものです。


●取材協力
独立行政法人都市再生機構(東京都心支社、東日本支社)のみなさん
「潮見駅前プラザ一番街」(東京都江東区)ペットクラブのみなさん

株式会社ハウジング恒産(東京都新宿区) 清水一久さん
ソレイユひばりが丘(千葉県柏市)のみなさん

東京都足立区在住 川崎司郎さん 立花昭彦さん

コンパニオンアニマル リサーチ 事務局長 大野 和彦さん

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