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神社境内で見かけた地域猫。大切にされているから、毛並みもきれい ![]()
ねこの会は毎月第2日曜日に開かれる。この日は地域猫実践グループによる「猫バザー」も行われた 夜8時ごろ、横浜市磯子区の静かな住宅街の一角に「地域猫実践グループ」の安達さんと森谷さんが現れると、近くの物陰で待機していた5匹ほどの「地域猫」が高々としっぽを立てて集まってきた。
4、5年前になるだろうか。この場所で猫たちにごはんをやっていたお年寄りがふたりいた。猫好きの安達さんと森谷さんが声をかけて一緒に地域猫活動を開始。「最初、ばんばん捕まえて(笑)」不妊手術を行い、町会の役員に活動の目的を訴えた。猫の増え方が減り、生ゴミを荒らさなくなって、町内で理解者、協力者が増え、苦情はなくなったとか。 「猫って手術すると変わるんです。退院して放した時、すごいスピードで逃げるんですが、何日かすると、わたしたちのそばに寄ってくる」。猫自身、野良猫から地域猫に変わっていったのである。また、ふたりは時々、近所から不用品を集めて「猫バザー」を開き、手術代の一部としている。「年に何度もお産する猫を、何度も失敗したあと捕まえて手術してもらった時の喜びって、言葉に言い表せないくらいでした。そういう思いをすると、やっぱり、他の猫も、と(笑)」
横浜市職員・黒澤さん
「地域猫」のすすめ/著・黒澤泰/文芸社
磯子区 猫の飼育ガイドライン 獣医師で横浜市職員の黒澤泰さんが、横浜市衛生局から磯子区保健所(現磯子福祉保健センター)に赴任したのは95年4月だった。この磯子区内で黒澤さんは、ある団地の住民が野良猫たちを「みんなの猫」とか「地域の猫」と呼んで世話をし、不妊手術を行い、年に2回、猫バザーを開いてその資金に充てていることを知った。
野良猫は各地で問題化していたが、法的な対応策もなく、猫擁護派と苦情派の意見の相違も大きく、行政サイドで積極的に取り組もうというところはほとんどなかった。 でも、「みんなの猫」「地域の猫」方式なら、人と猫が共存する道が見つかるのではないか。黒澤さんは、区役所内で「ホームレス猫防止対策事業案」を提案。97年度に同事業が始まった。同時に区内の動物病院に協力を依頼し、区民へのアンケート調査を実施。猫好きと猫嫌い、猫を世話する人たちと猫に困っている人たちに呼びかけて、「区民と考える猫問題シンポジウム」通称ニャンポジウムを開催。結局、重要なのは飼い主のマナー向上とホームレス猫の「地域猫化」、適切な世話の仕方と不妊手術の普及にあるとの合意が得られた。 98年春、区では公募の区民代表と専門委員からなる「磯子区猫の飼育ガイドライン検討委員会」を設け、99年3月に、地域猫という概念を明確にした「磯子区猫の飼育ガイドライン」を制定した。「一番悩んだのは、ガイドラインをどのレベルにするかでした」と黒澤さんは言う。レベルが低過ぎても、高過ぎても実効性がない。結局、地域猫の世話をしようとする人が、もう少し努力すれば実現可能で、苦情が減っていくような目標を掲げることになった。例えば、猫が食事中、近くで見守り、食後はきちんと後片付けをする。同時にトイレを設置して、ウンチを始末する。もちろん、できるかぎり猫の不妊手術の努力をする。「そのうえ、地域のために周辺の掃除をすれば、誰も文句を言わなくなりますから」 そして、99年夏、ボランティア組織「磯子区猫の飼育ガイドライン推進協議会」が結成され、ガイドラインの啓発普及活動と地域猫実践グループ活動が始まった。 なお、黒澤さんは磯子区で6年間、地域猫活動に携わったあと、01年春、市内西区の西福祉保健センターに異動。磯子区での経験を生かしながら、今度は町内会を単位とする「街づくり事業」の一環として、“猫トラブル「0」”を目指して地域猫活動の実践・普及に着手している。
磯子区猫の飼育ガイドライン推進協議会事務局を担当するのが、区内にあるアン.動物病院院長の坂田充古先生である。
坂田先生は90年代前半、磯子区に隣接する森林公園で野良猫の増加が問題になり、近所の人たちと不妊手術に着手。区内で相談があるたびに支援を行い、黒澤さんと出会って、本格的に地域猫活動を展開することになった。以後、同推進協議会の運営資金を集めるために会員組織とし、実践グループを募り、会報を発行。区内の動物病院とともに地域猫の不妊手術を引き受けてきた。また、同会員が中心になり、新たに捨てられたり、生まれた子猫たちの里親探しや猫相談を行う「ねこの会」を、毎月第2日曜日、磯子区役所前で開催している。06年2月現在で、会員数は236人で、実践グループは29、支援病院は7となっている。 なお、05年度の不妊手術の実績はメス38匹、オス24匹の計62匹。坂田先生によれば、実践グループの活動が活発なところは手術も進み、地域の人たちとの関係も良好だが、うまくグループを作れないところは大変である。 同推進協議会と連携して、区民への同ガイドラインの啓発普及活動を行う磯子福祉保健センター生活衛生課の課長・中村等さんによると、個人的に野良猫にごはんをあげるだけの地区では苦情が寄せられているという。「ガイドラインがあっても、地道に地域猫活動が続いていかないと、以前のように野良猫の数が増え、エサは置きっぱなし、という状態にすぐ戻りかねません」 だからといって、無理に実践グループ結成を働きかけても逆効果。現在、人口16万を超える磯子区に実践グループはまだ29で、この先ずっと息長く取り組んでいくしかないと坂田先生は言う。「地域猫活動は、単にエサをやり、不妊手術さえすればいいのではありません。野良猫問題の根本は飼い猫問題です。猫を飼っている人たちが、真剣にマナー向上に取り組んでいかないと、本当の問題解決につながらないですね」 |
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どの猫ものんびり気ままに暮らしている
河川敷の捨て猫防止の看板
地域猫が集まる広場に設置された「猫トイレ」
仲良しグループでお昼寝中
「NPO法人ねこだすけ」 東京都を本拠に、地域の人々が仲良く暮らせる環境づくり、街づくりを目指して地域猫問題に取り組んでいるのが「NPO法人ねこだすけ」である。
同組織の代表理事・工藤久美子さんが地域猫問題に取り組むきっかけは90年代前半だった。そのころ、自宅のある新宿区信濃町周辺地区には野良猫が多く、そっとごはんをあげるお年寄りも少なくなかった。しかしその人たちには不妊手術をする余力がない。「それじゃわたしが手術をしようと、何年かの間に80匹ぐらいしました」と工藤さんは言う。 しかし、ひとりで手術を行っていても展望は開けない。97年に、工藤さんはインターネットを活用して、任意団体「ねこだすけ」(現NPO法人)を結成。積極的に情報を発信して賛同者を募り、また各地からの相談に応じながら、地域の人々への広報活動を行った。同時に新宿区保健所などの行政組織と連携して、地域猫活動を展開していった。01年度には東京都が、地域住民と動物愛護団体、行政とが協力して「飼い主のいない猫との共生モデルプラン」事業に乗り出し、ねこだすけも全面協力。さらに04年度から東京都が始めた「ハルスプラン(東京都動物愛護推進総合基本計画)」に積極的に参画していくことになった。 「地域猫問題は、猫にばかり関心が集まりがちですが、本当は地域の人間関係を良くすることが大切。街の中で人間同士が仲良く暮らせなければ、そこの猫が幸せになれるわけがないですから」ときっぱり。
「すみだ地域ねこの会」 ねこだすけ事務所に、3年ほど前、都内墨田区に暮らすひとりの女性が訪ねてきた。現在、ねこだすけ支部で「すみだ地域ねこの会」代表の庄司直子さんである。
きっかけは、庄司さんの知人が勤めていたペットショップが倒産し、お店の動物たちが殺処分され、「なぜ、そんなことが…」と憤ったことだった。庄司さんはインターネットであれこれ検索し、ねこだすけのホームページに遭遇。動物たちのために何かできないかと思い立った。「わたし、鳥が好きで10羽の文鳥を飼っているのですが、猫を飼ったことがない。でも、猫でもいいか、と(笑)」。 猫のことをほとんど知らないまま、電話相談に応じながら、庄司さんは地域猫活動のイロハを学び、2、3か月後、「自分の暮らす地域で、できることをやろう」と決意。最初に、捨て猫の多い河川敷に捨て猫防止の看板を立てようと、河川敷を管理する国土交通省、墨田区役所、警察署と交渉して、3組織連名の看板を制作。国土交通省の所轄事務所に設置してもらった。捨て猫を厳しくとがめる看板の効果は予想以上で、設置後、捨て猫はぴたりとなくなったという。 その後、庄司さんは、地元の小学校の教室を借りて、地域猫セミナーや相談会を開催。地域で理解者を増やしていった。やがて、区役所を通じて、野良猫問題で悩む町会からすみだ地域ねこの会に協力依頼が来た。庄司さんは町会の役員会に出席。猫の習性を始め、きちんと猫たちの世話をし、不妊手術を行うことの重要性を説いた。野良猫の悩みが深かったためか、その地区では町会費で手術を行うことに決め、その後、しばらくの間にメス猫20匹の手術を実施した。 「地域猫活動は、猫問題ばかりではなく、どんなことにも地域みんなで取り組もうという“地域力”を高めることが大切。意見が合わなくても、お互いが話し合い、相手の立場が理解できれば、いい方向に進みます。少しの勇気を出して、話してみることが大事ですね」と呼びかける。 |
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地域猫の「ホワイト」ちゃん
捕獲ケージに捕まったメス猫。このまま病院へ行き、不妊手術を実施
会員の玄関先や庭が猫たちのエサ場に 東京都や横浜市などでの活動事例を参考に、苦情、トラブルの絶えなかった地域猫対策に取り組みだしたのが神戸市である。
神戸市では、まず03年度と04年度の2年間、中央区雲中地区をモデル地区として、地元の婦人会組織や動物愛護団体、神戸市獣医師会と連携し、地域猫活動のパイロット事業を行った。神戸市保健福祉局健康部生活衛生課主査の浜尚美さんと同課環境衛生係の永田優子さんによれば、その時、意見、利害、立場の異なる住民たちの合意形成に役立ったのが、阪神・淡路大震災以後、実践経験を重ねてきた「ワークショップ」だった。「結局、エサをあげている人も、猫の苦情を訴える人も、不幸な“飼い主のいない猫”を減らしたい、との思いは一緒という結論に達しました」 目的が一致すれば、あとは具体的に、それらの猫たちをどう管理し、不妊手術をしていくか、地域の人たちにどう知らせていくか、どんなルールを作るかを検討し、実践していけばいい。以前から住み良い街づくりに積極的に取り組んできた雲中地区では、地域住民が初めての地域猫対策を展開し、成果を挙げていった。 この中央区雲中地区でのパイロット事業を踏まえて、神戸市では、05年度から本格的に地域猫対策事業に取り組むことになった。そのモデル地区に名乗りを上げたのが、灘区城の下通3丁目自治会だった。
自治会長・加藤さん 灘区城の下通3丁目自治会長の加藤三彦さんが地域猫活動を思いついたのは、05年7月のことだった。
いつものように夜、城の下通3丁目内を巡回していた加藤さんは、野良猫が多いことに気を引かれ、数えてみた。すると、その夜だけで18匹。「実際には2倍以上いるだろうと思いました」。町内では以前から、「猫に生ゴミが荒らされる」、「誰かがエサをやるから猫が増える」という苦情が出ていた。しかし、命あるものを大事にしたい、猫がいると心が癒やされるという思いも理解できる。では自治会として、この野良猫問題をどう解決していくべきか。 加藤さんは、灘区役所に相談して神戸市が地域猫対策事業を行っていることを知り、所轄の東部衛生監視事務所を訪問。担当者と話し合って、城の下通3丁目がモデル地区に参画することとした。 まず、町内で猫好きの人たちに声をかけ、昨年11月に地域猫懇談会を立ち上げ、全世帯へ猫の飼い方や猫問題の有無、猫問題解決への意見などを問いかけるアンケート調査を実施した。その結果をベースに、今年3月、猫シンポジウムを開催。住民相互が話し合い、「これ以上猫を増やさない」「今いる猫は天寿を全うさせる」ことを目標に、町内全体で飼い主のいない猫をきちんとしたルールに従って世話し、不妊手術を進めていくことが決まった。これを受けて、具体的な地域猫対策を実践する「ねこの会」を結成、活動を開始した。 「うちの自治会は地域猫対策を契機に、住民が何でも本音で話ができるようになり、みんなとても仲良くなってきました」。地域猫のエサ場は、ねこの会会員の玄関先や庭などに設置し、管理も行き届いている。すでに昨年11月から今年3月までに地域猫6匹、家庭猫1匹の不妊手術を実施。その手術代捻出のため、今年5月に猫バザーを開くことになっている。 なお、4月初め、加藤さん宅に設置した捕獲ケージで、これまで何年もお産を繰り返してきたメス猫1匹を捕まえ、手術することができた。「この辺りをうろついているキジ猫たちの父親は、“種まきカポネ”と呼ばれていて、野良猫増加の元凶です。まず、カポネを先に去勢させなければいけないのですが、なかなか捕まらなくて(笑)」。 |
| *この記事は、2006年5月20日発行のものです。 |
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