ある日曜日、東京都練馬区桜台で開かれた、犬たちの「譲渡会」会場を訪れた。
東京都内の動物愛護センターから引き取られ、動物病院で健康チェックや必要な治療を受け、「預かり」家庭で愛情いっぱいに世話され、基本的なしつけを身につけた犬8頭が、会場内で静かに“お見合い”にやって来る人々を待っていた(別室に猫2匹)。
やがて、お見合いの予約をした家族や、新聞の折り込みチラシを見た人たちがやって来て、犬たちをなでたり、話しかけたり、一緒に散歩に出かけたりし始める。以前、保護犬を引き取り、今、幸せに暮らす犬たちとその飼い主たちも顔を見せ、新旧の犬たちを交えて楽しそうな話の輪ができた。
そんな光景を眺めながら、譲渡会を主催する、動物生命尊重の会(S.P.A.R)代表の金木洋子さんは、「うちは“雑種”専門です。雑種の犬たちは神秘的ですね。例えば、ゴールデンやビーグルなどの純血種なら、犬種を聞いただけで、姿、形がパッと頭に思い描けるでしょ。でも、雑種は、毛並みやしっぽの形、大きさをいくら説明されても、実際に見るまで分からない。出会うたびに、“世界に1匹”しかいないんだな、と思うんです」と言ってほほ笑んだ。
S.P.A.Rの始まりは1993年だった。世田谷区在住の金木さんは、生まれたばかりの子猫をわずか1週間で17匹も拾った。
とても自分だけで飼うわけにいかず、あちこち訪ね回って譲渡先を探し、結局、最後の子猫が成猫になるほどの時間をかけて、もらってもらったという。以後、何度もそんな苦労を重ね、「拾うばかりじゃキリがないことに気づいて、親猫たちの不妊手術に切り替えました」。
その後しばらくして、金木さんは、ある保健所から保護猫の譲渡先探しを依頼され、探し始めた。そして、引き取り手がなく、処分される犬たちが多い現実に向き合うことになった。
「小型犬は純血種が多く、譲渡団体もたくさんあります。でも、雑種は引き取り手が少なくて、どうしても処分されやすい。これは、理不尽ですよね。それで1匹でも雑種の犬たちを助けられたら、と思って譲渡活動を始め、ずっと“雑種”で頑張っています」。
楽しそうにお見合いする上原さん一家
いとおしそうに犬をなでる水野さん夫妻
現在、譲渡可能な犬や猫たちは、S.P.A.Rのホームページで公開されている。希望者は月に一度行われる譲渡会などでお見合いをし、お互いの相性が良く、飼養条件が合えば、「トライアル(試し期間)」を経て正式に譲渡されていく。
この日、東京都昭島市からやって来た上原さん一家は、「ずっと飼いたくて仕方なかったんです。ようやくペット可のマンションに引っ越し、子どももある程度大きくなって生活も落ち着いてきたので、ネットの飼い主募集のサイトで今日の譲渡会を知り、お見合いに来ました。子どもたちもとても楽しみにしていて、朝5時半に目が覚めたみたい」と言う。
埼玉県春日部市から来た水野さん夫妻は、「こういう会があると、安心して引き取りたい、という気持ちになります。先月も千葉の方にお見合いに行ったのですが、その子は、うちより、先住犬のいる家庭の方がいいと、もう1組の家庭に決まりました。やはり、うちがその子にとってベストかどうかが大切なので、縁があって来てくれればかわいがってあげたいですね」と言って、じっくり相性を確かめていた。
金木さんは、保護された犬・猫の飼い主になることについて、「いくら愛情やお金をかけても、犬や猫を理解しようという思いや意欲がないとだめ。愛情や知識があっても、病気の時、お金のことが気になって獣医さんにかかれないのも困る。いい家に住んでいても、何かあれば保健所へ、みたいな人道性に欠ける家庭じゃ、動物が不幸になる」と言い、ある一定の人道性と知性と経済力が備わっている、普通の、温かい、思いやりのある家庭なら、お互いが楽しく暮らせます、と付け加えた。
なお、S.P.A.Rがこれまでに譲渡した犬は約400頭で、猫は総計約500頭ほどだとか。首都圏を中心に全国各地の家庭で幸せに暮らしているという。もちろん時には脱走する犬もいる。そんな場合、スタッフに緊急連絡が入り、仕事が終わった後、即席で作ったチラシを持ち、何台もの車に分乗して現場周辺に集結。手分けして聞き込みやチラシの投げ込みと捜索に駆け回り、ほとんどその日のうちに、遅くても2、3日以内には捜し出す。「最初、慣れない場所が不安で、元のところに戻りたい、というのは犬にとって当たり前。うちの会は、譲渡した子たちに対して一生責任を持ちますから、どんなことがあっても、絶対に見つけます」と、金木さんはスタッフの奮闘ぶりを語る。
大出さんと「すばる」
昨年から仲間入りした2匹
東京都葛飾区に暮らす大出うさ子さん宅には、9年前、S.P.A.Rから引き取った、目の不自由な「すばる」という猫が暮らしている。
そのころ、世田谷区に住んでいたうさ子さんは、横浜の中華街でもらったオス猫「デイモン」と、知り合いが拾ったメス猫「あゆ」と一緒だった(今も健在)。当時、2匹とも病気がちで、通っていた動物病院の待合室で、うさ子さんは、「目の見えない子猫の飼い主になってください」という張り紙を見つけた。
「目が見えないんだったら、うちに来れば…」と思ったうさ子さんの連絡した先が金木さんで、結局、うさ子さんが引き取って、目が見えなくても、明るいすばる星なら見えるだろう、と「すばる」と名づけた。
金木さんによれば、すばるは、子どもに目を突かれて失明したらしく、譲渡先がなかなか見つからなかった。「でも、目の見える子と何も変わらない生活ぶりに、逆にわたしの方が励まされ、焦らないで本当に良い飼い主さんを探そうと覚悟を決めました」。そんな折、うさ子さんから申し出があったのである。
引き取ってしばらく、新参者にフー、フー言っていたデイモンもなじんできて、体をなめてあげるほど。すばるは、目が不自由でも日常生活に支障はなく、元気に暮らし始めた。「でも、見えない分、大きな音にとても敏感で、知らない人が来ると、すぐにおしっこをちびったりするんですが…」。
その後ほどなく、うさ子さんは猫たちと葛飾区に転居。近くの動物病院で、かすかに見えるらしい左目を残し、まったく見えない右目を摘出。以後、2日に一度、目薬を差している。「目薬が染みるらしくて、わたしが目薬を手にすると、気配で察して腰をかがめて逃げようとする。点眼が終わると、部屋中を走り回って、トイレに行って、おしっこします」と、うさ子さんは言う。
なお、昨年、うさ子さんは、家の近くで相次いで2匹の子猫(メス猫「むい」とオス猫「でぃでぃ」)を拾った。すばるはむいにすぐなじみ、頭をなめてあげ、むいが背中に乗っても、嫌がらず、乗せていたという。