ペットはかけがえのない家族の一員。 たとえ重い病気にかかってもあきらめず、 できる限りの治療を受けさせてやりたい。 そう願うのは、飼い主として当然の気持ちです。 そんな思いに応えるように、最近、人間の病院並みに 高度な医療設備を備え、最先端の治療技術を駆使する 動物病院が少しずつ増えてきました。 今回は、そんな獣医療の最前線をリポートします。
三重県伊賀市にある南動物病院の院長・南毅生先生が、民間の動物病院で唯一、放射線治療装置を活用する腫瘍治療を始めたのは10数年以上前のことである。 「腫瘍の治療には、外科手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤)、免疫療法の4つが必要で、放射線療法はあくまでそのひとつです」と、南先生は言う。 治療の前に、CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像法)による正確な画像診断と病理組織診断に基づいた綿密な治療計画を作成。腫瘍の種類、ステージ、発症部位などによって、前述の治療法を単独で、あるいは組み合わせて実施する。 南先生によれば、放射線の治療計画は、どの部位へ、どの角度から、どれぐらいの線量の放射線を、どれほどの回数照射するか、コンピュータで綿密に割り出したもの。とりわけ放射線治療が有効なのは、脳腫瘍、鼻腔腫瘍、口腔腫瘍、体表部の腫瘍、リンパ腫など。「治る見込みの高い腫瘍は、1か月前後、毎日、あるいは2日に1回の割合で集中的に放射線照射します」。実際に、以後、1年半から2年、何の治療の必要もなく元気に暮らすケースも珍しくない。 もっとも放射線治療といっても、放射線を主体に根治を目指す積極的治療の他、手術前に腫瘍の弱体化を目指すもの、手術後、患部周辺に照射するもの、化学療法と併用するもの、緩和療法で、症状を抑え、痛みを和らげるためのものなどの用途がある。 南先生は、3年前、横浜市神奈川区にCTを有する分院「ベイサイド・アニマル・クリニック」を開設。コンピュータネットワークで伊賀市の本院と結び、関東地区で腫瘍や整形外科、脳神経科などの診断・治療を行っている。放射線治療は現在、伊賀のみで、横浜で診断された犬や猫が伊賀で治療を受けるケースも少なくない。中には、一緒に近くのホテルに泊まって治療に通う飼い主もいるとか。 放射線治療といえば副作用が気にかかるが、南先生によれば、放射線治療は長い歴史があり、副作用についての研究も進展。体のどの部位に当ててはいけないか、どれぐらいの線量の放射線を当てればいいか明らかになっていて、細心の注意を払って治療するため、照射部位での脱毛や炎症などはあるが、治療後、回復するものが大半という。「放射線治療は、局所に照射するので、極めて安全な治療法です」と締めくくった。
南動物病院 三重県伊賀市服部町291-3 TEL.0595-24-0373 http://www.vmn.jp/minami/ ベイサイド・アニマル・クリニック 横浜市神奈川区栄町22-9 TEL.045-440-0987 http://www.vmn.jp/yokohama/ 甲南動物病院 滋賀県甲賀市甲南町新治2040-2 TEL.0748-86-0533 http://www.vmn.jp/kounan/
国内初の本格的なリハビリテーション科を併設した、整形外科と脳神経外科の専門病院が、今年4月、名古屋に開業した。元・麻布大学獣医学部附属獣医臨床センター整形外科/脳神経外科主任の陰山敏昭先生が病院長を務める名古屋動物整形外科病院である。 関節疾患や骨折などの整形外科や椎間板ヘルニアなどの脳神経外科医療は、専門性が高く、48時間以内に緊急手術しなければならないケースも少なくない。「そのうえ、手術の後、リハビリを早期に始めることで、機能的な回復がかなり良くなります。きちんと治すためには、リハビリが絶対必要です」と陰山先生は言い、25メートル温水プールやリハビリプールを備えた専用施設を見せてくれた。 最初に神経学的検査やCTなどで患部の状態を正確に診断し、外科手術が必要か不要か、必要ならどんな手術をするべきか、術後、どんなリハビリを行うべきか、詳しい治療方針を立て、飼い主家族に説明して同意を得る。クリーン度の高い手術室には、関節内を調べる関節鏡や、手術中、手術の進行具合をライブで透視できるCアーム・レントゲンも備わり、安全で確実な治療を行うことができる。診断結果も実際の治療も、すべて、飼い主と紹介を受けた地域のホームドクターに公開することを基本としているため、希望すれば、飼い主は隣接の小部屋から窓越しに手術を見学することができる。ホームドクターも手術に立ち会うことができる。陰山先生は、「飼い主さんの9割は見学を希望され、懸命に手術する様子を見て、納得、安心されます」と言う。 手術後、4、5日すれば、ドッグトレーナー訓練を受けた看護スタッフによるリハビリが始まる。術後、安静状態に保つだけでは動物たちの筋肉は急激に落ち、関節なども硬くなって、機能回復が遅れる。また、術後、痛みが軽減すればすぐに動きたがる犬たちに、リハビリはストレス発散にも最適。水の中は浮力がつくので、患部への負担なく手足を動かせる。水が苦手な犬も、看護スタッフの指導で徐々に水遊びの楽しさを覚えるという。 なお、入院室には毎晩、看護スタッフが交代で寝泊まりし、24時間体制でケアしている。 病院のモットーは“すべては動物のために”。もし自分の子どもだったら、という考え方を基本に、診断、治療、ケア、リハビリを行っている、と陰山先生は言い、「それが、小さいころからの僕の夢でした。みんな、そんな思いで獣医師になったはず。僕も、もう一度自分の夢を実現したくて」と瞳を輝かせた。
名古屋動物整形外科病院 名古屋市名東区社口1-1102-2 TEL.052-776-0811 http://www.naor.jp/
1989年、地域の動物病院の獣医師たち26名が集まり、獣医科大学の少ない関西に、2次医療、専門医療のできる地域に開かれたセンター病院を作ろう、と立ち上がったのが「ネオ・ベッツ」グループの始まりだった。 当初、手探りで日本初の夜間救急診療を始め、以後、試行錯誤しながら地道に若手を育て、グループ(株主病院)を増やして資金を蓄え、高度な医療機器をそろえ、01年11月にCTセンターを開設。05年10月、大阪市東成区に念願の「ネオ・ベッツVRセンター」を開院した(診療科目は「脳神経外科・内科」「整形外科」「軟部・胸部外科・内科」「眼科」「VR夜間センター」。株主臨床獣医師は関西を始め、四国、中国、九州に147名)。 VRセンター院長の川田睦先生は「専門医療を求める飼い主側の願いに応え、地域全体の獣医療向上を図り、同時に、より良い環境の中で伸び盛りの若手獣医師が高度な医療技術と知識を身につけてほしい」と語る。 開業後1年半の総来院件数は約4500で、利用病院数は約500(約4割が株主病院以外)。また、CTやMRIによる年間診断症例は合計で1600前後。最新のCT(64ch、MDCT)では心臓の動きもリアルに分かり、MRI(1.5T、超伝導)なら髄膜脳炎や脊髄軟化症などの変成状況もつかめるとか。正確な診断ができることによって、初めて治療の道も開けてくる、と川田先生は力を込める。「症例は犬種によって偏りがあり、ダックスは椎間板ヘルニア、チワワは壊死性の髄膜脳炎、中・大型犬なら前十字靭帯断裂などが目立ちます。また、関節疾患の多くは、体重が急激に増加する成長期に発症します」。 そのため、画像診断技術を活用した高度な整形外科手術や脳神経外科手術も、年間100以上実施する症例がいくつもある。飼い主はコンサルティング・ルームで、画像診断の詳しい説明を聞き、希望すれば、その場で手術のライブ中継を見ることもできる。 同一疾患の治療件数が飛躍的に増えれば、獣医師の医療技術も知識も格段に向上し、安全性、確実性がさらに高まっていく。 「今まで、獣医療の専門技術はアメリカの大学や医療機関で身につけるのが一般的でした。しかし、VRセンターのような施設が増えれば、国内でも可能です。そうなれば、優秀な若手の獣医師もどんどん育っていき、今後、日本の獣医療の現場に対応した高度な治療法が生まれていくに違いありません」と、川田先生は断言した。
ネオ・ベッツVRセンター 大阪市東成区中道3-8-15 TEL.06-6977-3000 http://www.neovets.com/
大阪府豊中市のルカ動物医療センター院長の江原郁也先生が、動物への負担の少ない獣医療を追求すべく、人間向けの医療技術として脚光を浴びる内視鏡(胸腔鏡・腹腔鏡)手術システムを導入したのは2003年夏であった。 しかし、当時、日本の獣医療の世界では未知の分野で情報に乏しく、確かなテキストもない。そこで、人医療の内視鏡外科医の権威に教えを請い、各地の学会に出かけて見聞を広め、さらには実際の手術に立ち会ってノウハウを蓄積。安全で確かな技術の習得に励み、04年1月ごろから実施し始めた。 「2次元のモニター画面を見ながら、特殊な器具を使って行う内視鏡手術は、これまでの開腹手術とはイメージがまったく違い、遠近感が取りにくく、高度な技術が必要とされる手術方法です」と江原先生は言う。特に必要とされたのは手術中の不意の出血時などトラブルが起こった場合、いかに内視鏡で対処できる技術を養うかであった。医学界の外科医のアドバイスや実地見学のおかげで、江原先生は獣医学界で珍しい内視鏡手術の腕を磨き、例えばニーズの多い避妊手術などは、現在、年間100症例ほどこなすまでになった。 江原先生によれば、大型犬や肥満犬は卵巣周辺がぶ厚い脂肪に覆われていたりして、開腹方法の避妊手術はやりにくいことも少なくない。それが直径数ミリから1センチほどの穴を数か所開けるだけで、腹腔内を観察しながら、安全・確実な手術ができる。膀胱結石の摘出手術も同様に内部を観察しながら実施する。「小さな穴を開けるだけですから負担も少なく、術後の回復もずっと早くなります」。特に肋骨で囲まれた胸腔内の疾患、心臓周辺にたまった水を抜く「心嚢膜切除術」や腫瘍のできた肺の一部を切除する手術では、胸腔を切開する必要もないため極めて効果的という。 退院時、飼い主は内視鏡で撮影した手術中の映像を自分の目で見て、確かめることができる。「飼い主さんは、みなさん、傷も小さくて、回復も驚くほど早いと喜んでくれます」と江原先生は言い、内視鏡だと、小さな傷でありながら、周辺の肝臓や腎臓、膵臓などの臓器を簡単に観察したり、組織の一部を切除して病理検査したりできるので、負担を与えることなく病気の早期発見や確実な診断ができるようになりました、と付け加えた。 江原先生たちは05年6月に「日本獣医内視鏡外科研究会」を結成し、安全で、確かな内視鏡手術の普及と研さんに努めている。
ルカ動物医療センターきずの小さな動物内視鏡手術センター 大阪府豊中市少路2-10-20 TEL.06-6846-2040 http://www.luke-ah.jp/