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クリッカー・トレーニングは、
ある行動とクリッカーの「カチッ」という音を
関連づけて行うしつけの方法です。
犬のしつけに広く使われていますが、
実は猫や鳥、イルカなど他の動物にも有効だとか。
クリッカー・トレーニングにじっくり取り組むことで、
コミュニケーションが深まり、
ペットとの仲がより親密になります。
今回は猫と鳥へのトレーニング方法について
専門家の方に取材しました。
クリッカーには親指で押すタイプやボタン式など色々な種類があり、ペットショップなどで購入できます

行動分析学の専門家で、『猫のクリッカートレーニング』の翻訳にも携わった
杉山尚子さんに、猫のクリッカー・トレーニングについてお聞きしました。

杉山尚子さんと「キューちゃん」

5月2日、栃木県那須塩原市にある、佐良直美さんが主宰する「アニマルファンスィアーズクラブ(AFC)」を訪れた。AFCに滞在中の山脇学園短期大学准教授・杉山尚子さんに、「猫のクリッカー・トレーニング」について取材するためだった。
杉山さんは、クリッカー・トレーニングの基本となる「強化の原理」で知られる「行動分析学」の専門家であり、クリッカー・トレーニングの開発者「カレン・プライア」の著作の共同翻訳者でもある。
では「強化の原理」とは、どのようなものか。
「例えば、犬がたまたまオスワリした直後にほめて、ごほうびをあげることを繰り返していくと、自発的なオスワリが増えていきます。これが〈正の強化(わたしは好子出現の強化と呼びます)〉で、ごほうびが〈強化子(好子)〉となります。反対に、何らかの行動の結果、自分にとって嫌なこと(嫌子)が消失していく場合は〈負の強化(わたしは嫌子消失の強化と呼びます)〉といいます」。
杉山さんによれば、「強化の原理」はアメリカの心理学者で行動分析学を確立したB.F.スキナーが1930年ごろにハトやラットによる実証研究によって発見した行動原理で、動物の自発的な行動は、その直後に起こる「環境の変化」によって制御されている、というものである。この原理は、その後、多くの研究者の努力で人間を含め、種を超えてあらゆる動物に普遍的な行動原理であることが実証された。
また、63年、カレン・プライアが「強化の原理」を応用して初めてクリッカー・トレーニングをイルカに行った。イルカには笛を使い、その後クリッカーによって様々な動物を訓練した。その中には一緒に暮らしていた愛猫たちもいて、その成果をまとめたのが『猫のクリッカートレーニング』(カレン・プライア著・杉山尚子&鉾立久美子訳/二瓶社発行)である。
「クリッカーはコミュニケーションの手段で、言語を使わないで自分の意図をいかに動物に伝えるか、いかにお互いがより良い関係を築き上げていくか」と杉山さんは言う。しかし、安易に使えば、効果が出ないどころか、お互いが混乱して、知らないうちに「悪い行動」が「強化」され、いびつな関係に陥ってしまいかねない。両刃の剣である。
日本で最初に強化の原理を使ったドッグトレーニング法を導入し、その普及に取り組んできた佐良直美さんは、「わたしは、受講生が愛犬にある程度きちんとしたトレーニングができるようになってからでないと、クリッカーは教えません。基本は、ほめること、お互いが信頼できるパートナーになること。それができないのに教育ママみたいに無理にやらせようとすれば、愛犬に嫌われるだけです」と言う。
佐良さんに猫のクリッカー・トレーニングについて尋ねると、「猫は、犬と違って自立した動物で、必要なことは、人にしつけられなくても自分でできるので、わたしはあまりしませんが」と前置きして、クリッカーによって人と猫との関係が密になり、愛情が深まれば、飼い主にかわいがられず、捨てられる猫も減っていくのでは、と答えた。
「猫にクリッカー遊びをやったことがある」という杉山さんは、猫の活動性がとても高まることも長所のひとつ、とつけ加える。確かに室内飼いが主流になってきた猫たちだが、飼い主と遊ぶ時間が少なければ、運動不足になり、肥満やストレスにもなりかねない。毎日、少しずつでもクリッカーゲームを楽しめば、猫もいろんな行動が開発され、意欲的、活動的になっていくに違いない。

山本央子さんと「トニー」
具体的に、猫のクリッカー・トレーニングはどのようにするのか。佐良さんと暮らす多くの猫たちのうち、「トニー」(12月に拾われたため、漢字で十二と書いてトニーと読む)と「キューちゃん」(9月に拾われたため、本当は九兵衛という)がモデル猫として選ばれた。佐良さんによれば、この2匹は食欲旺盛で、ごはんを食べた後でも、食べ物をあげるといくらでも食べるらしい。
先に触れたように、動物のクリッカーでは、「ごほうび」が重要な、行動強化の「好子」となる。「普段、ほとんど食べたことのないようなとびきりのごちそうがいいんです」と杉山さんは言い、猫はすぐおなかがいっぱいになるので、フードを入れたお皿を出しっぱなしにせず、空腹の時、クリッカー遊びをしてください、とつけ加えた。
佐良さんに先導され、AFC2階のリビングルームに、杉山さんと、今回、トレーナー役を引き受けてくれた、家庭犬育成インストラクターの山本央子さんと上がった。山本さんは、まずトニーを相手に、右手にクリッカーとターゲット・スティックを持ち、左手にごほうびを持ち、トレーニングを開始する。
クリッカー・トレーニングの基本は、「シェーピング」といわれる方法である。これはトレーニングしたい行動を、その最初から目指す最終形まで、ごく小さなレベルに細分化して、各レベルを「正の強化」でマスターすれば、次のレベルと、根気良く、一段ずつ、繰り返しながら高めていくことである。
ただし、とびきりのごほうびでもすぐ満腹になりやすく、また、犬ほど集中力が持続しない猫では、一度に何回も繰り返すのは難しい。
今回の目標(最終形)は、猫が右手(前足)でターゲット・スティック(自宅では菜箸でもいい)の先にタッチする「はーい」である。
山本さんは、まずごほうびを与えて、トニーが食べようとするとすぐにクリック。クリック音とごほうびを関連づけていく。次は、ターゲットをトニーの前に出し、トニーがそれに関心を示せばクリックして、ごほうびをあげることを繰り返す。その次は、ターゲットにトニーが顔を近づければ、クリックしてごほうび。そのように少しずつレベルを上げ、いつの間にか、トニーが右手でターゲットに触った時だけクリックしてごほうびをあげる段階までやってきた。
しかし、クリッカーはあくまで動物の自発的な行動を強化していくトレーニングであり、一切、指示を与えない。トニーがターゲットを左手で触ったり、においをかいだりすれば、何もせず、改めてターゲットを突き出して、トニーが右手で触った瞬間、間髪を入れずにクリックして、ごほうびをあげる。それを繰り返して、トニーが無意識に右手タッチの行動だけを強化していくのを促していく。
犬のクリッカーではプロフェッショナルの山本さんでも、相手が猫となるとどこか勝手が違うのか、時々、クリックのタイミングがずれたり、トニーがターゲットのにおいをかいだりしただけで、クリックすることもある。
そばで見ていた杉山さんが、「クリックのタイミングが本当に難しいんです。動物は種によって行動パターンが違いますし、個体差もありますから。それに、目指す最終形に到達するために、各レベルの行動をいかに選んで強化し、次のレベルにつなげていくか。その見極めが大変なんです」とつぶやいた。
動きの活発なトニーは、ターゲットより、テーブルの上にあるフードボックスに気が引かれたり、ケージの中で待機するキューちゃんにちょっかいを出したりし始めた。クリッカーは、その動物が熱中しているうちに中断しなければ、興味をなくしかねない。止め時の判断も簡単ではない。
そこで、山本さんは、ケージの中にいるキューちゃん相手にクリッカーを始めることにした。

左手にごほうびを持ち、まずごほうびをあげ、食べようとするとすぐにクリック!

ターゲットを猫の前に出し、猫が顔を近づければ、クリックしてごほうびをあげる

猫が右手で触った瞬間、間髪を入れずにクリックして、ごほうびをあげる

ターゲットを右手以外で触ったり、においをかいだりした時は何もせずに、改めてターゲットを突き出す

鳥の行動心理学研究者で行動コンサルタントの青木愛弓さんに、
鳥のクリッカー・トレーニングについてお聞きしました。

青木愛弓さんと「ピーちゃん」
「この子はまだクリッカーを始めて10日ぐらいですが」と言いながら、鳥の行動心理学研究者で行動コンサルタントの青木愛弓さんが、昨年末から暮らす愛鳥「ピーちゃん」(アフリカ原産のネズミガシラハネナガインコ)をケージから出してテーブルに乗せた。
最初は、オレンジ色のキャップをガラスビンに入れること。ピーちゃんは、テーブルの端に置かれたキャップを見つけると即座にくわえてトコトコ歩き、ビンに入れる。同時に青木さんがクリックして、ごほうびとなる小さなナッツのかけらをあげる。ピーちゃんはすぐ次のキャップをくわえていく。
今度は輪投げ。わりと大きな輪をくわえたピーちゃんは、輪投げ台の棒を目指してトコトコ歩き、あっさり棒に入れ、クリックの後、大好きなナッツをもらう。「輪を高く上げて棒の真上に持っていった時に、クリックするのがポイントです」と青木さん。
「シェーピング」による段階的な輪投げトレーニングのやり方は、次のような具合になる。
初め、輪投げ台の上に輪を置き、鳥が輪に興味を示したら、クリック。次は輪をくわえたら、クリック。その後、輪をくわえて少しでも上に持ち上げ、放したら、クリック。以後、クリックのタイミングを調節して、輪をくわえ、落とす位置を少しずつ上げていき、やがて、棒にうまく輪を通すところまで、各段階を何十回と繰り返しながら、最終形まで持っていく。
「別に鳥が輪投げできなくてもいいんです。でもトレーニングをやってみると、人のほうが、あ、この子、こんなことができる、こんなに学習能力がある、と気づいてくれるでしょ」。
青木さんによれば、失敗する人の多くは、ひとつのレベルが高過ぎるため。「少しでもレベルが高いと、鳥にとっては“階段”じゃなく、越えられない“壁”になります。できない場合は決してしからず、できる段階まで戻り、ステップをもっと小刻みにして、坂道のように楽に上れるようにする。そして各ステップが確実にできるまでレベルを上げないこと」と言う。例えば10回中8回できればOK、と目安を決めておく。また、一度のトレーニング時間は、鳥が飽きない程度(5分前後)。クリック=ごほうびの回数は多ければ多いほどいい(最初は5秒以内に一度できるほどのレベル)。

「ピーちゃん」につめやすりをかける青木さん。このように人との接触に慣れていれば、日常のお手入れもしやすくなる
鳥たちにクリッカー・トレーニングをする意義は、鳥ではなく、人間のほうが、鳥に対する見方、かかわり方をいい方向に変えるきっかけになること、と青木さんは言う。
インコなど多くの鳥は、野生時代、群れをつくり、毎日、広い野山を飛び回り、木や草の実、昆虫やミミズなどを探して食べていた。
「だから、ケージの中を1、2歩歩けば、いつでもフードがある生活って、退屈なんです。人だっていくらお金があっても、やるべき仕事がなければ困るでしょ。鳥たちは何か行動してエサを食べるのがとても好きみたいです」。
そのうえ、群れの生活だった鳥たちが1羽でケージ暮らしをすれば、寂しさが募って、仲間を呼ぶために鳴くことも多くなりやすい。また、人との接触が少なければ、人が近づいたり、触ったりすればおびえ、かむこともある。これらの問題行動となりやすい、鳴いたり、かんだりする行動も、青木さんによれば、鳥の習性、生き方、感じ方を知らないままの飼い主の飼い方、行動に原因がある場合も珍しくない。「もし人に触られ慣れない鳥が、病気で動物病院に連れていかれ、獣医さんに保定されたら、生きるか死ぬか、の恐怖を味わうかもしれません」と言い添える。
そんな悲劇を避けるためにも、日々の(週末だけでもOK)わずかな時間、愛鳥と飼い主が、クリック=ごほうび、の楽しい経験を重ねていってほしい、と青木さんは言い、「その第一歩として、人の手からフードをあげてみては」とつけ加えた。人慣れしていない鳥でも、直接、フードをあげ続けることで、ずっと早く仲良くなれる。そうなれば、人におびえることも少なくなり、ストレスも減っていく。さらに、クリッカーでいろんな行動ができるようになれば、お互いがもっと楽しく暮らすことができるに違いない。

輪を高く上げて棒の真上に持っていった時に、クリック!

テーブルの端に置かれたキャップをくわえて、ビンに入れる

くわえていた輪を放したら、クリック!

キャップを入れると同時にクリックして、ごほうびをあげる
| *この記事は、2008年6月20日発行のものです。 |
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