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救護されたさまざまな野鳥たち
神奈川県自然環境保全センターの獣医師・加藤千晴さんと、野生動物救護の会・理事長の娘さんでボランティアスタッフの渡辺夏美さん
5月18日、丹沢山地の大山東麓・厚木市七沢にある神奈川県自然環境保全センターで「野生動物救護ボランティア講習会」が開かれた。午後、70名ほどの参加者が5班に分かれ、施設内外を巡回して「エサの種類と給餌方法」「保定・搬送方法」「普及啓発活動」「傷病鳥獣舎見学」などの実習を行っていく。その実習指導を担当するのが、同センターを拠点に活動するボランティア組織「NPO法人野生動物救護の会」の会員たちである。
彼らは、普段、仕事や家事、育児、通学の合間を見つけて同センターに通い、傷病鳥獣舎の掃除やエサやりなどの世話、さらにはヒナや傷ついた鳥獣を自宅で世話し、野生に返す。また、傷がひどく野生に返せない個体を終生飼養し、野生動物救護の普及啓発活動にも携わっている。
同センターがボランティア育成に着手したのは12年前。きっかけを作ったのが、1995年春、家畜保健衛生所から同センターに赴任した県職員で獣医師の加藤千晴さんだった。
加藤さんは、赴任初日、丹沢山中に衰弱したカモシカがうずくまっていると連絡が入り、現場へ急行。同センターに搬送した。「牛の検査はしていたけど、衰弱したカモシカをどう治療すればいいか分からない。手探り状態で治療をして、翌朝来ると死んでいました」。あるいは、ヒナを保護したのですが、と電話が入る。さらに大風や台風の後、両足を骨折した野鳥が連れてこられ、治療の術もなく当惑するばかり。「そんなふうに最初は日々何が起こるか、どう対処すればいいかも分からない毎日でした」。加藤さんはそんな経験を重ねて鳥獣救護のノウハウを磨き、ボランティア育成に携わってきた。
昨年(07年)1年間に神奈川県自然環境保全センターで保護された鳥獣630頭羽のうち、野鳥は544羽で全体の86%あまり。特に多いのがツバメ、スズメ、キジバト、ムクドリ、カルガモ、ヒヨドリなどだが、チョウゲンボウやオオタカなどの猛禽類も少なくない。
加藤さんによれば、例年、野鳥の繁殖期にあたる5月から7月にかけて巣から落ちこぼれるヒナが多い。さらには巣立ちビナが誤って保護されるケースも目立つ。身近なヒナは成長が早く、孵化後2〜3週間もすれば巣立つという。「巣立ちビナはようやく羽が生えそろった程度で幼く見えるため、誤って連れてこられる人が多いんです」。〈巣立ちビナを拾わないで〉という呼びかけを知っていても、まさかこのヒナがそれだと気づかず“誘拐”してしまうことも珍しくない。
犬や猫、とりわけ猫に襲われて傷つき、収容される鳥も多い。猫のつめは鋭く、致命傷となりやすい。野鳥保護のためにも猫の室内飼いを、と加藤さんは言う。また、夏から秋にかけては台風や大風で高圧電線などにぶつかり、翼や足を折るケースが増える。
毎年、保護される鳥獣の約半数は治療や世話の甲斐なく死んでしまう。命を取り留め、リハビリに努めても、野生復帰できるのは全体の3割ほど。約1割はボランティア宅やセンター内の鳥獣舎で余命を過ごさざるを得ない。そのため、自宅で傷ついた鳥獣をリハビリして放野したり、野生復帰できない個体を終生飼養できる技術を持ったボランティア、普及啓発活動や環境教育に意欲的なボランティアの育成が不可欠となる。
ボランティア講習会でレクチャーする野生動物救護の会・理事長の渡辺優子さん(左から3人目)
鳥獣舎の見学風景
エサの種類と給餌方法について学ぶ
野生動物救護の会の理事長を務める渡辺優子さんは、加藤千晴さんが12年前に始めたボランティア講習会の第1期生である。
当時、下の娘さんが幼稚園に入り、午前中、余裕のできた渡辺さんは、新聞記事で同講習会開催を知って応募。月曜から金曜まで秦野市から七沢のセンターへ通い始めた。まず鳥獣舎の掃除を済ませて給餌。ヒナがいれば差し餌をし、エサの作り方を覚え、保護されたヒナを自宅で育てだす。「ヒナの差し餌は2時間おきなので、幼稚園や小学校の運動会、役員会の時は連れて行き、エサをあげていました(笑)」。その後、センターや自宅で飛ぶ練習をさせ、放野する。そんな毎日だった。
ある日、センターに猛禽類のチョウゲンボウのヒナが持ち込まれた。渡辺さんは、そのヒナを育て、狩りの仕方を教えるため、鷹匠に指導を仰ぎ、試行錯誤しながら難しい猛禽類の訓練技術を習得。以後、オオタカのリハビリ訓練までできるほどになった。
“孤高”の猛禽類は、人の手からエサをもらうことを拒絶する。そこで、毎日体重測定をしながら、絶食させて体重を落としていく。彼らは、これ以上絶食すれば命にかかわるぐらいになってようやく、人の手からエサを食べ始める。「チョウゲンボウだと4、5日。オオタカだと10日ぐらいは平気で食べない。そうすると、次の朝、死んでるんじゃないか、とドキドキしながら目が覚めます」。オオタカは、最初、真っ暗な部屋の中で拳にすえる訓練から始める。落ち着いているようなら部屋に少しずつ明かりを入れて、エサをあげながら人にならす。その後、夜間、次は夕方、さらに昼間と順に慣らし、飛行訓練へとつなげていく。猛禽類1羽を放野するまで、種類にもよるが2か月はかかるとか。
昨秋、ボランティア組織をNPO法人化して、やりたいことがいっぱいある、と渡辺さんは言う。そのひとつが、現在、渡辺さんしかできない、猛禽類のリハビリ訓練スタッフを増やす「Mプロジェクト」である。「わたし、10年間で猛禽類を33羽放野しているんですが、ひとり増えれば2倍、ふたり増えれば3倍になります。やはり野生動物は、自然の中にいてほしいから」。そう言って、渡辺さんは放野間近のオオタカの話を始めた。

TSUBASA代表・松本壮志さん
TSUBASAの若く、意欲的なスタッフたち(左から望月さん、涌井さん、庭野さん)



CAKに引き取られたインコやオウムたち
5月23日、快晴の東京湾を横断するアクアラインで房総半島へ渡り、富津市上総湊にある、飼い主たちから見放されたコンパニオン・バードたちのサンクチュアリ「CAK(コンパニオン・アニマル・キングダム)」を訪れた。早速、同施設を運営するボランティア組織「TSUBASA(ツバサ)」代表・松本壮志さんの案内で内部を見学する。
中央には天井がネットで覆われた2か所の広い遊び場があり、周囲を大小さまざまなケージが取り囲んでいる。よく見ると、あちらにはオカメインコ、こちらには白色オウム。さらには桃色インコやボタンインコ、コザクラインコ、ヨウム、コンゴウインコなど、大小さまざまな、色彩豊かなインコやオウムたちが群れで、あるいはペアや単独で、にぎやかに暮らしていた。
「人、鳥、社会の幸せのために」をモットーとするTSUBASAは、飼い主の無知、無理解な飼い方によって不幸な境遇をさまよう鳥を引き取り、リハビリを行い、彼らに幸せな暮らしをもたらすために、松本さんが2000年春に設立した組織である。
なぜ、どのようにして松本さんはバード・レスキュー活動を始めたのか。
子どもの時から動物好きだった松本さんは、東京での学生時代、アルバイトで移動動物園の仕事に就き、卒業後、都内のデパート屋上にあったちびっこ動物園に勤務。気の荒いコンゴウインコと仲良くなり、賢く、人に懐きやすいインコ、オウムの魅力に目覚めた。次いで、動物プロダクションに勤務したが、当時の動物業界に幻滅。半導体関係の会社を興した。その後経営基盤を固めた松本さんは、動物たちへの思いを断ちがたく、鳥の健康、幸せを第一に考えるペットショップを開設。やがて、一般家庭で鳴き声やかみつき、毛抜きなどの問題行動を起こす鳥たちと出会い、そのレスキュー活動に全力を注ぐことになった。
「鳥ほど賢い動物は少ないですね。それにインコやオウムなど、わずか何世代か前はアマゾンやアジア、アフリカ、オーストラリアなどで自由に生きていて、野生に一番近い魅力があります」と松本さんはほほ笑む。
ではそのように魅力的な鳥がどうして問題行動を起こし、ここにやって来るのか。
松本さんによれば、理由のひとつは鳥たちの性成熟、発情にある。例えば、オス鳥なら、家庭の女の人を主人ではなく“恋人”とみなしてベタベタに懐く。「オウムのオスから見ると、仕事に出かけるだんなさんは、夜たまたまやって来る“恋敵”なんです」。そこで、自分の“恋人”を“恋敵”から“守ろう”としてかみついたりする。そうなれば「こんな鳥はいらない」と捨てられることになりかねない。
また、若い飼い主夫婦によく懐き、幸せに暮らしていても“落とし穴”がある。例えばその家庭に赤ん坊が生まれると、周りの親族、親戚などから「鳥は子どもの健康に悪い」と強く説得され、仕方なく、かわいい愛鳥を手放してしまうケースも多い、と松本さんは指摘する。
飼い主にかわいがられない鳥の悲劇もある。飼い主の愛情、ケアが不足してストレスが高じると、自分の羽を抜く鳥もいる。すると、飼い主はケージの中に抜けた羽を見つけて、どうしたのか、と考える。その姿を見て、鳥はもっと自分に関心を持ってもらうためにまた羽を抜く。ついには飼い主の目の前で、ブチッと音を立てて羽を抜くようになる。「その瞬間、飼い主は驚いて、『わぁ』と声をもらすでしょ。その反応を、鳥は『あ、受けた』と思い込み、痛いのを我慢して、ボンボン羽を抜き始めるんです」。
そんな辛い生き方をせざるを得なかった鳥たちを、松本さんは1羽、また1羽と引き取ってきた。
千葉県富津市にあるTSUBASAのCAK(コンパニオン・アニマル・キングダム)に引き取られた鳥は、一定期間検疫室で保護され、動物病院での健康診断や治療を受けた後、多くの鳥たちが暮らす施設に移される。
人の異性嫌いが激しい鳥は、オスなら女性スタッフが、メスなら男性スタッフが、愛情を込めてリハビリを行い、人との信頼関係を回復させていく。そうして四季を通じて世話をし、発情期でも問題がないことを確認できた段階で「MTB(ミート・ザ・バード)」という、新たな飼い主との出会いの場に連れて行き、それぞれの鳥が好み、さらに飼養条件の合った飼い主を探すことになる。「一番大事なのは、鳥が選ぶ、という点です。ですから、飼い主希望者は、みなさん、自分のほうに振り向いてくれる鳥を探そうと一生懸命なんです」と松本さんは言う。
中には、どうしても、人よりも同じ鳥同士で暮らすことが好きな鳥たちもいる。その場合、気の合った仲間とCAKの中で楽しく生きていくことができる。
問題は、飼い主との仲がいいのに、周囲の圧力などでやむなく引き裂かれ、引き取られた鳥たちである。彼らは1週間、半月、1か月と待ち続けても大好きな飼い主が迎えに来ないため深刻な人間不信に陥り、懸命に愛情を注ぐスタッフにも背を向けて孤独な日々を過ごしていく。「そのような鳥をあえてMTBに連れて行くと、その鳥にピタッと来る人と巡り会うことがあります。その時、鳥の顔つきがパッと変わるんです」。
最後に松本さんは、不幸な鳥を減らすために最も大切なのは共に暮らす飼い主たちの理解と適切な飼い方です、と言い、「世の中が平和な時、人は鳥を飼うといいます。わたしたちは、鳥を飼いたくなるような世界にしていかなければ」とつけ加えた。
| *この記事は、2008年7月20日発行のものです。 |
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